2013年2月28日木曜日

任期制廃止に関する横浜市長への要請書

 昨年の雇用契約法改正により、5年を超えて雇用契約の反復更新がなされた場合、有期雇用(任期制)から無期雇用(終身雇用)への転換を求めることができるようになりました。これにより、本学の全員任期制を維持する実質的な意味、根拠は消滅しました。

 この雇用契約法の改正を踏まえ、教員については、先日、当局側から教員組合に対して任期制の変更(廃止ではありません)が提案され(教員組合ニュース第11号)、これに対して教員組合が意見書を提出、更なる説明を求めている段階です(教員組合ニュース第12号)。 しかしながら、職員に関しては、これまでのところ当局側から任期制の廃止や見直しにつながる動きは一切ありません。

 この違いは、一つには教員と職員の違い、即ち、法人化により大学に対するコントロールが劇的に強化され、かつ大学自体にも理事長以下、大量の横浜市OB、派遣管理職が直接送り込まれたものの、教育研究活動それ自体は横浜市OB、派遣管理職が出来るわけではなく、結局のところ教員に依拠せざるを得ないという現実に求められるかもしれません。そして、その教員の流出と新規応募数の激減という状況は学内の誰の目にも明らかです。

 これに対して職員の場合、一見、地方公務員による業務の遂行が難しいことではないように思われる(実際には、横浜市職員は地方行政のプロではあるかもしれませんが大学経営のプロでは決してなく、両者の違いは無視できるレベルのものではないのですが)ことから、教員とは違って現場の固有職員はいくら辞めていっても別に問題はないと考えられている可能性があります。こちらも、実際には市OB、派遣管理職の数を増やし、かつなし崩しに事務局の肥大化を進めても更に混乱が拡大しガバナンスの向上にはつながっていないという現実があるのですが、教員を巡る問題とは違い、現実を直視しないという選択も今のところあり得る段階ではあります。

 もう一つ、昨年11月21日付の職員組合ニュース【公開版】で触れたように、現行の中期計画における附属病院を除いた人件費比率53%未満という、医学部の教員を含めた数値としてはかなり無理な基準の存在が影響している可能性があります。つまり、任期制を廃止、ないし事実上廃止すれば、どのような根拠で算定されたのかよく分からない、この数値目標の達成が更に危うくなる可能性があり、固有職員には人件費調節のバッファーとしての余地を残しておきたいという思惑が存在しているかもしれません。

 上記のような当局側の思惑がいかなるものかはともかくとして、任期制がこのまま存在し続けた場合、改正雇用契約法による無期雇用への転換権が発生する直前の段階での雇い止めや不透明な基準による選別、雇用水準の引き下げなどが発生し、雇用労働環境の更なる悪化という法改正の意図するところとは逆の状態が生まれる可能性があります。それに本学の現状は、改正雇用契約法による無期雇用への転換が現実化する5年後を待っていられるような状況にはありません。

 そのため、2月25日、横浜市従本部と連名で、法人の設置者である横浜市の林文子市長に対して任期制の廃止を求める要請書を提出しました。内容は以下の通りです。

 また、これと並行して大学法人の理事長(前横浜市副市長)に対しても、任期制の廃止について交渉を要求する予定です。

2013年2月25日
横浜市長 林 文子 様
横浜市従業員労働組合
中央執行委員長 菅野 昌子
横浜市立大学職員労働組合(横浜市従大学支部)
委員長(支部長) 三井 秀昭

横浜市立大学における任期制廃止に関する要請

 横浜市政の発展と市民サービスの向上に向け、日頃の取り組みへのご尽力に敬意を表します。

 平成17年4月の公立大学法人化以降、横浜市立大学においては、横浜市派遣職員、医療技術職員を除く全教職員が1~5年の任期制の下にあります。

 しかしながら「教育研究活動等の活性化を図る」(「横浜市立大学の新たな大学像について」平成15年10月29日)という理由で導入されたはずの全員任期制は、実際にはその逆の状況を招いています。

 横浜市従業員労働組合及び横浜市立大学職員労働組合(横浜市従大学支部)は、法人化以降、その弊害を指摘し任期制の廃止を求め続けてきました。今般、労働契約法の改正により、5年を超えて雇用契約の反復更新がなされた場合、有期雇用(任期制)から無期雇用に転換されることが法的に定められ、これにより、任期制を維持する根拠が実質的に消滅したものと判断し、法人の設置者である貴職に対して、以下の理由も挙げ、改めて大学における任期制を廃止するよう強く要請するものです。

 まず第1に、そもそも国内における大学改革を巡る他の多くの言説と同じく、「任期制」もまたアメリカにおける制度やシステムに関する誤解に影響を受けています。アメリカの大学では教員に関しては、「テニュア制」と呼ばれる人事制度が一般的であり、これは5年程度の任期付雇用の後、業績審査を経て終身雇用契約(テニュア:定年の無い文字通りの終身契約)に移行するというもので、横浜市立大学でいう「任期制」とは全く別のものです。また、職員に関しても、アメリカの大学の国際競争力を支える源泉の一つである専門職員(横浜市立大学の「大学専門職」がこれに相当しますが、現経営陣の下、大学専門職は実質的に廃止される寸前の状況にあります)は基本的に任期付の契約ですが、これはアメリカ社会におけるホワイトカラーの一般的な契約形態を反映したものであり、独り大学の専門職員のみが任期付契約を一般化しているわけではなく、人的流動性の高さに対応する雇用労働システム・社会システムの存在を前提として機能しているものです。さらに、現実にはアメリカのホワイトカラーにおいても更新を重ねて長期の雇用が維持される場合が少なくありません。

 第2に、国内の大学における状況を見ると、教員に関しては約8割の大学で任期制が導入されていますが、その大半は助教のみ、あるいはセンターの教員のみといった部分的な導入であり、全教員を任期制としている大学は殆ど存在しません。職員に関しても、非常勤職員は多くの大学で任期制の契約となっていますが、常勤職員も任期制としている大学はこれまた殆ど存在していません。住宅ローンや退職金制度を始めとして終身雇用を前提とした、あるいは終身雇用が有利となる様々な社会的仕組みが存在する中、国内の大学に教員あるいは職員として就職することを希望する場合、横浜市立大学と他大学のどちらがより好まれるかは明白です。

 第3に、日本の大学においてもアメリカ等の大学と同様に、職員が単なる事務処理能力を超えて高度な経営等に関する能力を有することが必要になってきていますが、組織における長期的な展望が開けない任期制の下にあっては、これらの能力を備えた人材の確保は困難です。国内においても大学経営に関して大学院で専門教育を受けた人材層が育ちつつありますが、法人化後の最初の固有職員採用試験には応募してきたこれらの人材が、現在では横浜市立大学には全く応募してこなくなっています。

 第4に、民間企業の事例を見ると、外資系企業においては1年ないし2年の雇用契約が一般的ですが、周知のようにこれらの外資系企業における収入は日本企業のそれを大きく上回るものであり、リスクとリターンがバランスするものとなっています。横浜市立大学における教員、職員の給与はもちろんそのようのものではなく、不安定な身分にも拘らず多くの私立大学に比べればむしろ低い数値となっています。

 第5に、任期更新の前提となる業績評価の公平性、客観性の確保は日本社会においては実際には困難です。富士通に始まる民間企業における成果主義の導入と失敗、人材流出による衰退、その後の成果主義の見直しからもそれは明らかであり、加えて横浜市立大学の場合、理事長以下の経営陣、事務局幹部の大半が高度化した大学経営とは無縁な横浜市OB、横浜市派遣職員であることが事態をさらに一層複雑にしています。

 以上の様な任期制に伴う諸問題の結果、横浜市立大学は、教員、職員とも人材確保の面で著しい不利益を被っています。教員に関しては、他大学への流出が止まらない一方で、新規採用における首都圏の国公立大学としては信じがたいレベルへの応募者数の激減という事態に至っています。職員についても退職者、休職者が後を絶たないため、それが職場環境の悪化につながり、更なる退職、休職へと繋がっており、数値は公表されていませんが、職員労働組合の推測では毎年10%を越える固有職員が退職しているのではないかと思われます。ことに深刻なのは、プロフェッショナルとしてのより高度な能力を身につけることを望む職員が他の私立大学等へと転職するケースが相次いでいることで、このままでは、経験と能力を備えた人材を十分に確保することは半永久的に困難なままです。高等教育の世界における横浜市立大学の評価は、関係者の間において話題に上がることの無い大学という位置へと落ち込みつつあります。

 民間企業における経営者としての経験も持つ貴職におかれては、このような大学の経営状況について、既に正確で詳細な報告を受けているものと思います。大学に巨大なマイナスをもたらしているばかりか法的根拠も失った全員任期制について、今回の法改正を機に法人の設置者として廃止の英断を下されるよう、ここに要請するものです。

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