2024年1月4日木曜日

職員労働組合・横浜市従大学支部 2023-24年度 活動方針について

12月8日、横浜市立大学職員労働組合としては第19回、横浜市従大学支部としては第68回の大会を開催、以下の通り2023-24年度活動方針を決定しました。


職員労働組合・横浜市従大学支部 2023-24年度 活動方針

1.働きやすい職場環境の確保への取り組み

 社会環境の激変とそれに伴う大学への要求の多様化、公的助成の削減など日本の大学を巡る環境は年々厳しさを増しています。特に横浜市立大学においては、法人化以降、全員任期制の導入、国立大学の比ではない大幅な経費の削減、市OB・市派遣幹部職員への経営権の集中による非効率な業務の増加と現場負担の増大など、国立大学法人、多くの公立大学法人に比べ非常に不安定な経営環境下に置かれることになりました。

 労働契約法の改正と法人化以降の取り組みの結果、固有常勤職員の任期制は廃止されたものの、それのみで固有常勤職員をめぐる諸問題が解決されたわけではなく、人材育成、人事評価、労働時間等の職場環境に関する多くの問題が残されています。雇用契約法改正による非常勤職員の一般職への移行に関しても、給与の改善は伴わないままの責任と負担のみの増が懸念され、新たに設けられた有期雇用職員から一般職への転換に関する公平性への疑念など幾つもの問題が残されています。

 また、財政の膨張を支えていた附属病院経営は、コロナ禍に伴う緊急支援という非常事態下の状況の終了に伴い再び悪化が始まろうとしています。さらに来年度以降の「経営状況の悪化」とそれに対する「支出削減」がすでに予告されており、中長期的に教職員人件費にそのしわ寄せが及ぶ可能性は高いと考えられます。

 マクロ経済環境は消費税引き上げの影響に加え、円安、新型コロナ禍による経済的打撃などにより、さらなる深刻化の可能性があります。すでに円安、消費税引き上げ等の影響による物価上昇は今年度のわずかなレベルの給与引き上げでは相殺できないレベルに達しており、実質賃金の低下が続いています。過去の若年層の極端に偏った固有総合職採用と「法人財政の厳しさ」を謳いながら同時に行われている近年の経営拡大という構造的要因と併せ、今後、法人の経営はさらに悪化することが予想されます。組合の警告に耳を傾けることなく実施されたこれらの施策のつけを、経営責任を問うことなく一般教職員、そして学生に転嫁することは容認できるものではありません。すでに経営者から市財政の悪化とそれに伴う大学側の「厳しい環境への覚悟」を求める発信がなされるなどの兆候が出ていますが、国公立大学法人化を契機とする公的負担の削減や競争的資金化などが当の政府自身の政策目標に反する学術の世界での日本の「一人負け」状況を生んでいる状況を直視する必要があり、設置者としての責任ある財政負担を求め、法人化時のような急激かつ大幅な交付金の削減が繰り返されないようにすることが必要です。

 大学に働く職員の職域を代表する労働組合としてこれらの問題に取り組み、法人化時の「固有職員の処遇は市職員に準じる」という労使合意を遵守させるとともに、職員の労働環境の改善、安心して働ける職場の確保に全力を挙げます。

2.組織拡大への取り組み

 法人化以降、市派遣職員の引き上げ・定年退職、固有職員の転職等に伴う組合員の減少が続いおり、固有職員の組合員については、すべての職種で様々な問題を抱え、かつ多忙化により目前の業務以外に目を向けるゆとりさえ失いつつある状況で組合の維持・拡大は依然として容易ではない状況です。

 また、若年層に広くみられる、労働環境や雇用条件等に問題を感じる場合、労働組合に加入して職場の改善に地道に取り組むのではなく転職を選択するという傾向は本学においても共通しており、固有職員組合員の退職による組合の脱退も続いています。

 組合ニュース【公開版】を通じた情報提供、問題提起等によりプロパー職員の組合に対する信頼・期待は高まっていますが、これを新規組合員の獲得・組織の拡大へとつなげていく必要があります。特に、近年は新規職員の一括採用が無くなり、これに合わせて実施していた広報・勧誘活動も行われない状態が続いているため、これらの取り組みの立て直しを図ります。また、職場集会、学習会などを通じてずらし勤務の試行導入や業務の多忙化で難しくなっている組合員相互の交流を確保・促進し、組合の基盤を強固なものとします。

3.固有総合職の給与体系変更、人事考課制度変更問題への取り組み

 2017年度来、交渉を行ってきたこれらの問題については2019年8月、9月に相次いで大枠で合意しました。しかし、制度の具体的設計、運用等に関しては懸念すべき点が残っており合意時に確認した一定期間経過後の検証も合意時の約束に反し行われていません。また、市職員との処遇差が生じていた住居手当に関しては、昨年2月、当局側が組合の要求通り市職員と同額へと改善する提案を行い、8年越しの交渉にようやく決着がつき、市職員と同等の処遇を回復することができました。今後は実質給与の維持、引き上げ、人事考課制度の検証等への取り組みを進めます。

4.一般職、有期雇用職員の処遇改善問題への取り組み

 法人化、また嘱託職員の一般職、有期雇用職員制度への移行に伴う市の嘱託職員(現会計年度雇用職員)との給与格差、総合職と一般職、一般職のフルタイム勤務と短時間勤務、一般職と有期雇用職員、それぞれの間での格差問題などへの取り組みを継続して行ってきました。これらのうち、「一般職のフルタイム勤務と短時間勤務の時間当たり給与額の同一化」「有期雇用職員より少ない一般職短時間勤務職員の年次休暇付与日数の改善」「有期雇用職員の一部改善」については昨年度、当局側より改善の提案があり、長年の取り組みの一部が結実しましたが、給与水準は依然としていわゆるワーキングプアレベルであり、11月に給与引き上げの要求を行いました。今後、粘り強く交渉に取り組んでいきます。

5.大学専門職の雇用問題への取り組み

 大学専門職制度は、国内の大学関係者等の大学職員の高度化への要請に対する先進的取り組みとして導入されたものでしたが、法人化直後から大学の経営権を事実上掌握した市派遣幹部職員によって、その趣旨を無視した制度運用が行われ、告発本の出版など様々な問題が起こってきました。組合執行委員でもある大学専門職2名についても3年ごとの契約更新の度に様々な問題に見舞われ、前回の契約更新に際しては、「学務教授」への変更について、教員、固有職員、横浜市職員に比して著しく均衡を逸した実現困難な基準を一方的に示すなど、職員の高度化や専門化とは相反する人事政策上の動きが続いています。労働契約法の規定により無期雇用転換権が発生しているため、任期制の問題は法人の方針とはかかわりなく強制的に解決されることになりましたが、今度は大学専門職のうち1名がMBOが作成できず、正式な業務も不明確という異常事態が2年に渡って続いています。高度専門職としての適正な処遇を求め、今後も取り組みを継続します。

6.コンプライアンスに基づく労使関係確立への取り組み

 1.でも記したよう法人化以降積み重ねてきた交渉や組合ニュース【公開版】等を通じた指摘がある程度の影響を及ぼした模様で、法人化後の数年間の状況に比べれば担当者レベルでの対応に関してはある程度の改善が認められるものの、法人化後、事実上人事権等を掌握する市派遣幹部職員の労働3法、労働契約法を始めとする関係法令、制度等への知識・認識の不足が本学の労使関係の底流を流れており、それが人事制度、制度運用、個別の雇用関係トラブルに大きく影響を与えています。ただし、近年、労働基準監督署からの厳しい指導もあって、法人としても組合との関係も含め法令順守の姿勢を示さざるを得ない環境下に置かれており、また、昨年度来、当局側担当者が法人化以降初めて、学内諸規定に問題があるものが存在することを認め改善に取り組み姿勢を示すなどの変化も認められます。これらも追い風として関係法令及びそこで保障された労働者・労働組合の権利の尊重に基づく労使関係の確立を求め取り組みを続けます。

7.横浜市従本部、教員組合等との連携

 本学の労働環境は、法人プロパー教職員にとって非常に厳しい状態が続いています。横浜市従本部、病院組合、近年、金沢八景キャンパスにおける諸問題について共同で要求、交渉を行うことが増えている教員組合等との連携を深めつつ、山積する問題に取り組んでいきます。


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2023年11月16日木曜日

一般職及び有期雇用職員の給与引き上げに関する要求

 10月12日、横浜市人事委員会から今年度の横浜市職員の給与に関する勧告が発表されました。

 市職員と民間との月例級較差1.04%及び特別給(ボーナス)の較差0.1月分の引き上げを求めるもので、市大の事務職員のうち総合職については、法人化時の組合との合意「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」に基づき同様の引き上げとなるはずです(この合意の維持のための組合の長期に渡る交渉、活動については https://ycu-union.blogspot.com/2022/03/blog-post_98.html 等をご覧ください)。

 一方、現在の一般職、有期雇用(旧嘱託職員)については、市の会計年度雇用職員(旧嘱託職員)とは異なる人事制度となっており、「準じる」職種がないため、大学側で何もしなければ処遇はそのままとなってしまいます。

 当局側から「今年度、一般職、有期雇用職員の給与等を引き上げる予定はない」との確認を得たため、組合として一般職及び有期雇用職員の給与の引き上げを求める要求を行いました。

 引き上げ率については、この1年での消費者物価上昇率が3%に達したこと、上記市人事委員会勧告、今春の民間主要企業の賃上げ率、そして一般職、有期雇用職員の給与がそもそも非常に低い水準にあることなどを勘案し5.0%としています。

 なお、八景キャンパスにおけるもう一つの組合である教員組合も教員給与の引き上げを求める要求を行っています。

2022年11月1日
公立大学法人 横浜市立大学
理事長 小山内 いづ美 様
横浜市立大学職員労働組合(横浜市従大学支部)
委員長 三井 秀昭

一般職及び有期雇用職員の給与引き上げに関する要求書

 市民から期待され信頼される大学教育と運営の確立に向け、日頃の取り組みへのご尽力に敬意を表します。

 さて、標記の件については、職員労働組合及び横浜市従大学支部は旧嘱託職員時代から一貫して給与等の処遇の改善を求めてきました。

 制度変更により一般職及び有期雇用職員制度に変更となって以降、組合の要求もあり一定の改善が行われてきたのは事実であり、その点についての当局側の取組みは評価するものですが、一般職及び有期雇用職員の給与が依然として低水準なものであることには変わりはありません。

 近年の実質賃金の低下、特に本年9月時点での消費者物価指数が前年同月比3.0%の上昇となっていること、本年度の横浜市人事委員会勧告が民間との較差分1.04%の引き上げを求めたこと、2023年の民間主要企業春季賃上げ率が3.60%となったことなどを踏まえ、一般職及び有期雇用職員の給与について以下の通り要求します。

 一般職及び有期雇用職員の給与について5.0%の引き上げを行うこと。

以上

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大学設置基準改正 ― 教育研究実施組織、今後の影響 ―(後編)& 国立大学法人法改正案

 この稿の前編を書いてから何と1年も経ってしまいました。 

 前回は、教育研究実施組織について、

  1. わざわざ改正を行い「教員組織」を事務職員を必置とする「教育研究実施組織」へと入れ替えたにも関わらず、改正と同時に発出した通知で「従前の教員組織等が果たしてきた役割や必要性は変わらず、教員や事務職員等の役割や連携等について、学内の規程等に明記すること等により、引き続き担保されることが求められる」「必ずしも今回新たに規定した『教育研究実施組織』に対応する新たな組織を設けたり、新たに人員を配置したりすることを求めるものではない」(大学設置基準等の一部を改正する省令等の公布について(通知))とするのは辻褄が合わない
  2. その裏面には、産業界の「現在35%の自然科学系専攻学生割合をOECD諸国最高の50%程度に」という要求への対応が優先され、そのために大学設置基準の改正スケジュールが本来の予定より大幅に前倒しされたという事情があるのではないか という推測を書きました。

 それから1年が経過し、状況は大きく動きだそうとしているように見えます。

 まず、前回も書いた「自然科学系専攻学生割合をOECD諸国最高の50%程度に」を実現するための取り組みとして「大学・高専機能強化支援事業」が昨年度、早々に現実化、国公私立高等教育機関118件が採択されました。この事業においては、(おそらくは拙速な設置基準改正を反映して)今のところ既存大学の既存組織については無期限な経過措置が認められているはずの「基幹教員制度」に関し、事業の公式の公募要領等では全く触れられていないものの、事業のQ&Aの内容が全て「基幹教員制度」への変更を前提とした記述であり、https://www.niad.ac.jp/josei/media-download/6493/c4f265ca051fef16/ 事実上、応募校を「基幹教員制度」へと誘導するものとなっています。

 次に、「2040年」までを射程としていたはずの「グランドデザイン答申」(実際には現状で一つの政策文書がそんな長期間、指針として有効であり続けるわけはないのですが)策定からわずか5年で新たな答申の検討が開始されることになりました。 https://www.mext.go.jp/content/20231025-koutou02-000032518-5.pdf とはいうものの、並べられている検討を必要とする理由はグランドデザイン答申、さらにはそれ以前の諸々と基本線において大きな違いは感じられません。おそらくそれらの中で“本当の理由”は諮問タイトル通りの「急速な少子化」、すなわちグランドデザイン策定作業中の想定を上回る少子高齢化、日本人の18歳人口減なのだろうと思われます。グランドデザイン答申策定時の2040年の18歳人口予測値が881,782人。そして今回の諮問直前の大学分科会(第174回)の資料では823,382人で6万人近く減少しています。さらに2040年に18歳となる2022年の実際の出生者数は(コロナの影響があるにせよ)770,747人です。付け加えるなら8月29日に公表された厚労省の人口動態統計速報では、今年上半期の外国人を含む出生者数は371,052人となっており、仮に下半期も同様の傾向が続くとすると約74万人、つまり2041年の18歳人口は80万人を大きく下回ることになります。

 そして今回、卓越研究大学だけに適用されるはずだったはずの「合議体」が突然「運営方針会議」という名称で卓越研究大学以外の複数の国立大学にも適用されるとともに、それ以外の国立大学でも「自主的に」選択可能であるとする国立大学法人法改正案が上程されました。 https://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/mext_00013.html

 全てを論じるのは手に余る&紙幅も、ということで、以下、3点ほど感想です。

1.ガバナンス改革の突出

 上記のうち、設置基準改正時においてほとんど議論されないままに変更された部分、そして今回、中教審大学分科会においては全く話題にも上らないままに行われようとしている国立大学法人法改正(もともとの予定であった卓越研究大学に限定した改正に関しては、以前、説明はあったと思いますが)については、いわゆるガバナンス改革に連なるものです。法人化(2004年)、ガバナンス改革審議まとめ(2013年)に続いて、三度、ガバナンス改革の季節が訪れようとしているのかもしれません。そして、それは「社会的ニーズ」へのより敏感な反応を求めるという通奏低音のもと、当初の学長等の経営陣によるトップダウンの強化という間接コントロールから、「社会的ニーズを代表する外部者」が直接大学に「運営方針会議」の構成員として入り、大学をコントロールするという、ダイレクト・コントロールを志向するものへと変貌しようとしているようにも見えます。  

 また、設置基準改正と今回の国立大学法人法改正の両者に共通する特徴の一つとして、大学側の意見等をほとんど聞かないで改正を行なおうとしているという点が挙げられます。設置基準改正については、前述の通り、教育に関する部分については、質保証システム部会で1年半以上に渡る審議が行われ、その過程で大学団体に対するヒアリングも行われているのに対し、教育研究実施組織等のガバナンス改革に係る部分については大学分科会における3回の審議(実質的な審議は2回であり、しかも他の議題と併せての一部の時間を割いての検討)のうち主たる話題となったのは1回で、大学団体等の見解が求められることも無く、委員による数十分の事務局への質問と意見で終了となっています。

 そして、今回の国立大学法人法改正については、大学分科会の議題に上ることもなく、その他の公式、公開の場で大学団体や国立大学に意見が求められたといった話も聞きません(国大協に対する“説明”は行われたようですが)。

 これが何か特別の意図や理由に基づくものなのか、それともこの20年余りのガバナンス改革の果て、「地均し」が済んで、もはや法令で最低限求められる手続き以上のことをする必要はないというレベルに至ったためなのかは分かりませんが、自由主義国家であり民主主義国家であるはずの国で、自治と民主主義的プロセスがこれほどまでに軽んじられることには、いささかの危惧を覚えます。5,6年ほど前でしたか、国際政治に関する世界で最も権威あるジャーナルとされる Foreign Affairs を20数年ぶりに眺めてみたところ、多くの掲載論文で日本が純粋な民主主義国家ではなく「権威主義的民主主義国家」(シンガポールや東欧諸国と同じ枠)に分類されていたことに「昔は疑問の余地なく自由主義国家に分類されていたのになあ」(共産圏崩壊までの世界の分類枠組みは自由主義国家、共産主義国家、第3世界、でした)と隔世の感を覚えたものですが……。

 関連して一つの推測を記しておきます。前回、設置基準改正について、改正により「教員組織」を事務職員を必須とする「教育研究実施組織」に置き換えたことと、学部教授会の重要性は変わらない、教育研究実施「組織」を組織として設置する必要はないという局長通知は辻褄が合わないこと、その背景には「理系学部生50%」の実現のための施策の即時着手のため直ちに設置基準を改正せよという官邸の圧力があったのではという推測を記しました。では、仮に文科省の当初予定通りのスケジュールで改正作業が行われた場合、何が起こっていたでしょうか。あり得ることの一つは、設置基準の条文通り、「教員組織」すなわち学部教授会は「教育研究実施組織」に取って代わられるという事態です。

 その場合、「教授会」はどうなるのかという問題が浮上します。以前、この点について、学校教育法の教授会規定の「その他の職員」を教育職員、つまり教員だけに限定せず事務職員等を含むすべての職員へと解釈を変更してしまえば問題はなくなる、といういささかアクロバティックなロジックを示してみました。 https://ycu-union.blogspot.com/2022/08/blog-post.html 実はもう一つ、この問題をクリアする方法があります。つまり、学校教育法も改正し教授会を教育研究実施組織へと変えてしまうというものです。こちらの方がやり方としては普通であり、今回の国立大学法人法改正の成り行きを見ると、実は本来のスケジュールではそちらも射程に入っていたのでは、という推測も一定の蓋然性を持つように思われます。国立大学法人法の改正後は、さらに学校教育法改正という次の幕が待っているのかも知れません。

2.トップダウン型ガバナンスと大学(教員)自治打破への情念のよって来るところ

 トップダウン型ガバナンスと大学(教員)自治の打破への強い志向はこの20年余り、一貫して続いているものです。その圧力の由来は一応、急速に変化する時代の中、「社会的ニーズ」に対応するため、「内向きで合意を重視し、経営視点がない」教授会からトップの権限を強化し云々といったストーリーで説明されることが多いのですが、この20年ないし30年の「改革」の「成果」、あるいはトップダウン型ガバナンスの「手本」とされた日本企業の凋落にもかかわらず執拗に強化、追及されるさらなるトップダウン型ガバナンスと大学(教員)自治打破は、それが単なる手段以上のものであること、その背後に信仰あるいは情念とも呼ぶべきものが存在するのでは、と感じさせます。

 よくある解釈の一つは、かつて日本の高度成長期から自民党単独政権の崩壊、1993年まで継続した「55年体制」下において自民党傍流右派の中に存在し続けた、日中戦争、太平洋戦争期の価値観の一部に対する親近感や肯定的態度、それが21世紀に入り主流派と化したことで、日中戦争、太平洋戦争期の価値観と異なるあり方を濃厚に持つ大学に矛先が及んだ、という解釈です。右傾化、バックラッシュといった言葉はこれに繋がるものでしょう。

 もう一つ、この問題については、野口悠紀雄氏の「1940年体制論」の観点に立つともう少し違った光景が見えてくると個人的には考えています。以下、「1940年体制(増補版)」(2010年) https://str.toyokeizai.net/books/9784492395462/ に基づいて紹介していきます。

 「1940年体制論」は、戦後日本の根底となる在り方を「富国強兵から強兵が落ちただけで」「継続された戦時総力戦体制」として認識するもので、その起点を総力戦体制のための各種の大きな制度変更がなされた1940年前後に求め、それが実はそれ以前の日本の在り方からは断絶したものである、という意も込めて「1940年体制」と呼ぶものです。

 氏の分析は、日本型企業、金融システム、(経済官僚を中心とする)官僚などに焦点を当てるもので、大学、文部官僚、自民党文教族議員、最近では官邸と内閣官僚といった「大学改革」に関連するアクターは直接には登場しません。また、最初の版が1995年、増補版が2010年の出版で、政治家と官僚の関係については、1995年までを対象に、55年体制の崩壊は(政権の座に着くと官僚の言いなりになるという意味で)総与党化、つまり体制翼賛会の復活、1940年体制へと逆行した、としています。これは21世紀の、官邸が幹部官僚の人事権を掌握し、官僚が官邸に従属する存在となった現在ではそのまま受け入れることは難しいものですが、そういった限界ははらみつつも、近年の大学改革のトップダウン、そして大学(教員)自治の打破への強い志向について、いくつかの視座を提供してくれるものです。

 第1に、「1940年体制論」は、戦後日本の根底に「戦時総動員体制の継続」があったとしていますが、それが全てではなく戦中と断絶した部分も少なからずあったと認めています。その意味では、教育、特に「学問の自由」が憲法に明記され、人文社会科学領域における学説の多くも戦前、戦中とは大きく変わった高等教育の世界は、まさに「戦時総動員体制が継続しなかった」領域にあたるでしょう。

 第2に、「戦時総動員体制の継続」の在り様がどのようなものであったか、という点です。具体的な記述について、いくつか紹介してみます。

「1940年体制は、国民全体が一丸となって生産力を増強するためのものであった。」
「この体制は、単一の目的のために国民が協働することを目的としている。」
「再び全国民が一丸となった総力戦を戦わざるを得なくなった」
「40年体制は、明確な目的に対して全国民を総動員するという『戦時体制』であった」

 これらに共通するのは、「一丸となって」「単一の目的」「全国民を総動員」、つまり、多様性とは対照的な単一性に基づく、逸脱、異論を許さない社会観です。そしてそれを是とする観点からすれば、戦後、「総動員体制」から断絶し、「学問の自由」「大学自治」の名のもとに多様性を享受する大学は、放置できない異分子と映ってもおかしくありません。

 第3に、この総力戦体制は高度成長だけではなく、2度のオイルショックの克服を通じて日本の経済大国化を決定的なものとしたとされます。あの時代、いまとなっては多くの国民にとって「栄光の時代」と捉えるしかなくなった時代を一定以上の年齢で経験した中高年-政治家、官僚だけでなく一般国民も-にとって、全国民が一丸となって単一の目的に邁進するという総力戦体制は、敗戦の記憶ではなく、成功体験と結びついた、成功の原動力そのものと認識されているかもしれません。そうであれば、日本経済の復活のために、大学も政府、財界の示す方針に従い「国民の一部として一丸となり、隊列に加わり奉仕せよ」というのは、一部の政治家や官僚、財界人の主張というだけではなく、(少なくとも一部の)国民の支持するところである可能性があります。

 上記を要約すると、戦後も継続された「総力戦体制」は経済発展の原動力となり、その具体的な在り方、「全国民が一丸となって単一の目的のために邁進する」は、軍事的敗北ではなく経済的栄光の原動力として(一部政治家、官僚、財界人だけでなく)国民に記憶されている可能性があり、その観点からすれば、「総力戦体制」から断絶し、「学問の自由」「大学自治」の名のもとに多様性を享受する大学は、経済的復活のために「全国民が一丸となって単一の目的のために邁進する」に背を向ける身勝手な存在である、と(どこまで自覚的かはともかく)認識されている可能性がある、ということです。

 もちろん、このような「総力戦体制」の強化、あるいは復活が経済的復興の鍵である、という信念は、現在では全くの誤りです。この点は野口氏、そして、「メンバーシップ型」との関係で紹介、引用してきた経営学者の太田肇氏も指摘するように、「20世紀の、工業分野における大量生産によるキャッチアップ」には適していても、21世紀の分散情報システムの上に展開される自由な発想や独創性が鍵となる高度情報化社会にはおいては逆に発展の阻害要因となるからです。日本経済の衰退が高度情報社会の本格的な展開が始まった1990年代にはっきりと表れたのは偶然ではないでしょう。

3.その制度、システムが機能するために必要な人材は存在しているのか  

 何回か紹介した科研費による事務職員の研究 http://aue-web.jp/nenpo/nenpo19.pdf https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K02665/ では、日本の事務職員、つまり「メンバーシップ型」という独特の能力観、仕事観を持つ人材は、一般的な意味での「プロフェッショナル」とは異質な存在であり、それをそのままで「大学経営」の(近年のガバナンス改革の文脈では、「教員に代わる」)受け皿としても機能するのかという点を指摘してきました。これらのガバナンスの(実際とはいささか異なるいびつな形で理解されてしまった)モデルとなったらしい米の大学の在り様は、経営者、そして100種類を超えるらしい各種の専門職が「プロフェッショナル」であることを前提に機能しています。そして「プロフェッショナルとは何か」については最大公約数的な要件が存在しており、「プロフェッショナルである」と名付ければ、あるいは名乗ればプロフェッショナルだということになるわけではありません。

 同様の問題は、今回の国立大学法人法改正にも存在しています。「運営方針会議」を最高意思決定機関とするとして、(CSTIの卓越研究大学検討時の最終まとめに従えば)過半数を占めることになる外部識者 - おそらくは財界人、官僚など、場合によっては政治家も? - は大学経営のプロフェッショナルでしょうか?米の大学経営者と比べれば一目瞭然で、否です。それどころか日本企業にはそもそも「プロフェッショナル経営者」がほとんど存在しません。これも「1940年体制(増補版)」から引用してみましょう。

「大企業の幹部は、経営の専門家でなく、その組織の内部事情(とりわけ人間関係)の専門家」

 この、器を作って器を満たすものについては問わない、という傾向もなぜか既視感があるのですが、いい加減長くなってきたのでこのあたりにしようと思います。

(菊池 芳明)
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2023年8月10日木曜日

横浜市従業員労働組合2023年度運動方針(横浜市大関連部分)

7月28日、職員組合の上部団体である横浜市従業員労働組合(横浜市従)の定期大会が開催され、今年度の運動方針が決定されました。そのうち、横浜市大に関連する部分については以下の通りとなっています。

*なお、大学専門職について「大学専門職の任期制」とありますが、現在もなお市大に在職している組合役員の2人については既に終身雇用となっています。ただし、それは労働契約法18条1項の規定に基づき当該大学専門職が無期雇用転換権を行使した結果で、制度自体は依然として任期制のままです(と言っても大学専門職自体、10年以上前から募集を行なっていませんが)。

(5)学生や市民に開かれ、職員がいきいきと働ける市立大学をつくる取り組み

 横浜市立大学では、依然として安定した運営体制が確立したとは言いがたい状況が続いています。

 この間、雇用契約法改正を踏まえ任期制廃止を求める取り組みをすすめてきた結果、2法人固有職員について任期制が廃止され、「一般職員」となった旧契約職員、嘱託職員の給与水準が一部改善されましたが、給与水準が低いまま業務量と責任のみが増大する問題、大学専門職の任期制や評価の問題など、人事・労務関係の諸制度と運用の改善は、安定した運営体制を確立する上でも極めて重要な課題となっています。

 固有職員の住居手当を市職員と同額まで引き上げ、「一般職員」となった旧契約職員、嘱託職員の給与額や年次休暇、育児・介護休暇等の改善を勝ち取りましたが、提案と言いながら、実際には決定事項の伝達であるなど、一部課題は残っており、引き続き、働きがいがあり安心して働き続けられる職場の確立と労働条件の改善が求められています。

 この間支部は、支部の奮闘や「組合ニュース」を通じた情報発信や問題提起によって、法人固有職員の組合に対する信頼や期待を高め、組合に対する相談を通じて加入につなげる努力を継続してきました。繁忙化、シフト勤務の広がり等で職場集会、学習会への参加も困難となるなど組織拡大を進める上での困難さを抱えながら、要求実現といきいきと働ける職場をつくる土台として、さらに取り組みを強化することが重要になっています。

 2023年度予算では、横浜市から市立大学への運営交付金は125億3305万円、うち大学分78億4406万円と前年の126億4585万円、73億5812万円と比較してそれぞれ増となりました。引き続き、設立者としての横浜市の責任追求と法人に対する安定した大学運営の追求を進めながら、学生や市民に開かれ、職員がいきいきと働ける市立大学をめざして本部・支部の連携を強めながら取り組みを進めます。

1)本部・支部が連携して分析・検討を深めるとともに、具体化される施策に対する労使協議を追求し、学生・市民の要求と職員の労働条件・職場環境改善の要求を統一して実現をめざす取り組みを進めます。

2)「一般職員」を含む職員の労働強化、への対応、大学専門職制度の堅持と運用の適正化、評価制度の改善などを求める取り組みを継続します。市派遣職員と法人職員の格差の固定化を許さず、「一般職員」の賃上げをはじめとする要求課題での労使交渉を強めながら、すべての職員が安心して働ける制度の確立、労働条件改善の取り組みを進めます。

3)「組合ニュース」による情報発信や問題提起を引き続き強めながら、組合に対する求心力をつくり、組織拡大に結びつける取り組みを進めます。

4)法人全体にかかわる課題に対して、教員組合、病院労組との連携をはかりながら取り組みを進めます。


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2023年6月22日木曜日

組合事務室開室時間の変更と組合への連絡について

 都合により以後、組合事務室の開室を不定期とさせていただきます。組合員、非組合員を問わず組合への連絡、問い合わせ等については ycu.staff.union(アット)gmail.com 宛てのメールでお願いします。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。
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