2010年7月29日木曜日

ニュー・パブリック・マネジメントと大学法人化改革

 NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)改革としての国立大学の法人化から6年が過ぎ、その第1期中期目標・中期計画期間が終了、第2期の中期目標・中期計画期間が始まりました。

 国立大学の法人化に際しては、大雑把にまとめると、国の機関でなくなる、大学財政の不安定化の懸念、教育公務員としての身分の喪失、従来の教授会権限の喪失、"民間流経営"の導入が迫られる等、多くの国立大学関係者から見ればマイナスの側面と、文科省の統制がなくなり各大学の経営の裁量、自由度や自律性が増大するというプラスの側面があるとされていました。それらが実際にどうであったかは、これまでにも幾つもの論考や評価が出されていますし、第1期中期目標・中期計画の終了を受けて今後大量の研究が出てくると思います。

 ここではそれらとは少し角度を変えて、行政学系の政策評価論の立場から見たNPMの持つ構造的な問題と大学法人化(独立行政法人化)の関係について紹介してみたいと思います。

 国立大学の法人化(公立大学についても同様ですが)は、高等教育政策の枠組みを超えた当時のNPM改革の一部として、いわば天から強制的な枠組みとして降ってきたものでした。それに、文科省(・文部省)が昭和46年の46答申やその後の臨教審答申、もっとさかのぼると新制大学発足時の国立大学管理法案などに盛り込まれていた、長年にわたって実施できなかった諸々の改革を(国立大学関係者等との協議も踏まえつつ)流し込んだ、いわばハイブリッドとしての性格を持つものだったと筆者は解釈しています。先に触れた多くの国立大学関係者にとっての法人化のマイナス面としてあげた諸点は、このNPM改革と文科省の大学改革の双方が反映していますし、後者のプラス面もまた、文科省の大学改革としての大学の特性、独自性への配慮という側面とNPMにおける外部化された政策執行機関への執行に関する権限の委譲という意味での自由度の拡大の双方を含んでいます。

 このうち、NPM改革としての外部化された政策執行機関(この場合法人化された国立大学)における自由度の拡大というのは本当なのか、というのが今回の本題です。

 神戸学院大学南島和久准教授が、昨年発表した論文(南島和久(2009)「NPMの展開とその帰結―評価官僚制と統制の多元化―」日本評価研究第9巻第3号)で、NPMの名付け親であるHoodの議論に添う形で日本におけるNPM改革、またNPM論の問題点について展開しています。

 そこでは、まず政府機関から外部化された機関に対する政府部門の監督・監視は却って強化されることが指摘されます。

 「重要な論点として指摘しておきたいのは、この市場型NPMでは、政府部門から外部化された組織なり管理単位に対し、政府部門の側で監督・監視が強化されるという点である。(中略)規制緩和や民間委託等の改革を行ったとしても、政府としては税金を投じる以上、その責任が解除されることはない。むしろ、規制緩和や民営化がすすめばすすむほど、政府における監督・監視はかえって拡充されることになる」

 そして、独立行政法人に関しては2重の意味での監督・監視が強化されること、またNPM論者はそれに触れようとしないと述べます。

 「この独立行政法人では2つのミラーイメージが展開する。ひとつは切り離された政策実施部分に対する監視・監督である。理念的には政策実施部分には「管理の自由」が認められているはずであるが、現実には企画立案部分の責任が免除されていない。そうするとこれを監督・監視する機関が必要になってくる。もうひとつは実施過程を規律する業務実績にかかる自己評価が「お手盛り」でないかをチェックする部分である。評価の客観性や認証がここでのひとつのテーマとなるものである。

 こうした市場型ないし企業型NPMの外側で展開するNPMのもうひとつの「顔」についてはいわゆるNPM論者はおおくをかたらない。」

 昔、政治学を学んだ身としては大いに納得できる論考です。しかし、だとすると大学の特性、独自性に対する配慮云々などという話は吹き飛んでしまい、大学という組織はそもそも独立行政法人という制度に馴染むのか、という議論が再び甦って来ることになります。国立大学法人化の前後、国立大学関係者による法人化反対運動において、中期目標を文部科学大臣が定めることと中期目標・中期計画・年次計画に対して行われる評価の2点から大学の自由・自律性は増大しない、却って損なわれるのだという主張をしばしば目にしました。これらは恐らく教授会自治の観点から導かれたものだったと思いますが、結果的には行政学によるNPM研究と期せずして一致した結論にたどり着いていたと言うことができるのかもしれません。もっとも、法人化の本質云々などと言う話自体、日本の高等教育セクターが下から崩落しかねない昨今の情勢からはどうでもよくなってしまいかねないこの頃ですが。

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