2010年7月29日木曜日

嘱託職員の時間単位年次有給休暇取得等について

 労基法の改正に対応した時間単位での年次有給休暇の取得について、6月18日付職員労働組合ニュースで、労基法に定められた手続きに則っていないこと、及び嘱託職員を制度の対象から除外していることは法解釈上問題があることをお伝えしましたが、その後、組合にも何の説明も無いまま、いつの間にか非常勤職員就業規則が改正され、嘱託職員の方も時間単位での有給休暇の取得が可能になっていました(常勤職員同様年5日分です)。それ自体はもちろん歓迎すべきことですが、この問題に関してはそもそも法に定める手続きを守っていない、労働関係法制に関し大学法人は民間企業と同様の扱いとなることへの認識の不徹底、そもそも早期に労働組合と協議すべきであったこと、現在もなお労基法に照らし問題が残っていること等、複数の問題があり、放置することは好ましくないと判断し、職員労働組合として当局に対し申し入れを行いました。

 申し入れの内容は、以下の通りです。

2010年7月28日
公立大学法人 横浜市立大学
理事長 本多 常高 様
横浜市立大学職員労働組合
(横浜市従大学支部)
委員長 登坂 善四郎

嘱託職員の時間単位年次有給休暇取得等に関する申し入れ

 市民から期待され信頼される大学教育と運営の確立に向け、日頃の取り組みへのご尽力に敬意を表します。
 本年4月1日より、改正労働基準法の施行に伴い年5日までの時間単位での年次有給休暇の取得が可能となりました。
 本学においても、これに対応した制度改正が行われ、6月上旬に学内への周知が行われた模様ですが、この間の対応に複数の問題があり、職員の職域を代表する労働組合として、以下の通り申し入れます。

1.時間単位での年次有給休暇の取得に関しては、労使協定の締結が必要である旨が労働基準法に明記されているにもかかわらず、八景キャンパスの過半数代表者である教員組合委員長とも職員の職域代表である職員組合とも協議を行なわず、協定も結ばないなど法に定められた手続きが行われていないのは問題である。また、職員組合に対し、法改正に伴い学内の制度も改正する旨の簡単な説明があったのは法の施行から大きく遅れた5月下旬であり、時間的にも適切な対応が行われていない。

2.職員組合がこの問題について、職員労働組合ニュース【公開版】2010年6月18日号において、法に定められた労使協定の締結が行われていないこと及びこの制度の対象から嘱託職員を除外することは法解釈上問題がある旨を指摘すると、その後、いつの間にか非常勤職員就業規則が改定され、嘱託職員についても時間単位年次有休休暇の取得が可能となっていた。この間、職員組合の指摘に関して当局側からは何の説明もなく、また、肝心の制度改正の対象である嘱託職員に対しても、職員組合による問題点の指摘後、時間単位での有給休暇の取得が可能となったことはその後も周知されず、7月23日付でようやく各所属長宛で嘱託職員も含まれる改正内容が通知された。嘱託職員の時間単位有給休暇取得が可能となったことは歓迎するが、職域を代表する組合から問題点が指摘され、それに従った訂正を行うのであれば組合に対して説明を行うのが当然であり、また、制度の対象となる嘱託職員に対しても、制度の対象となったことを改めて早期に周知すべきであった。

3.今後、このような問題の再発を防ぐためにも、職員の身分、労働条件、労働環境等に係る問題については、職員の職域を代表する職員組合と必ず協議を行うとともに、法人化された本学においては、労働関係法制は地方公務員のそれではなく、民間と同様のものが適用されることに留意し、各種法改正に十分な注意を払うよう要望する。

4. また、今回の職員組合による指摘を受けた訂正後もなお、以下の点について、法律に照らし問題が残っている。①一日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するかを定める必要があるが、これが定められていない(労働基準法施行規則第24条の4)、②「1時間を超える部分については15分刻みでの取得とします」としているが、1時間に満たない単位での時間単位年休は認められてない(厚労省「改正労働基準法に係る質疑応答」)、③「1日に2回まで計3時間まで」と制限を設けているが、厚労省労働基準局長通達「労動基準法の一部を改正する法律の施行について」において「一日において取得することができる時間単位年休の時間数を制限すること等は認められないこと」と明記されている。これらの点は嘱託職員以外についても同様であり、職員就業規則並びに非常勤職員就業規則に関してさらに改定を行う必要がある。

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職場集会の開催と職場諸要求の取りまとめについて

 8月下旬に八景、福浦の両キャンパスで職場集会の開催を予定しています。議題は、今年度のこれまでの活動報告と今年度の職場諸要求の取りまとめ内容についての意見交換です。組合員の方には、奮ってご参加くださるようお願い申し上げます。また、組合員以外の方の参加も歓迎します。詳細については、決まり次第再度お知らせします。

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ニュー・パブリック・マネジメントと大学法人化改革

 NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)改革としての国立大学の法人化から6年が過ぎ、その第1期中期目標・中期計画期間が終了、第2期の中期目標・中期計画期間が始まりました。

 国立大学の法人化に際しては、大雑把にまとめると、国の機関でなくなる、大学財政の不安定化の懸念、教育公務員としての身分の喪失、従来の教授会権限の喪失、"民間流経営"の導入が迫られる等、多くの国立大学関係者から見ればマイナスの側面と、文科省の統制がなくなり各大学の経営の裁量、自由度や自律性が増大するというプラスの側面があるとされていました。それらが実際にどうであったかは、これまでにも幾つもの論考や評価が出されていますし、第1期中期目標・中期計画の終了を受けて今後大量の研究が出てくると思います。

 ここではそれらとは少し角度を変えて、行政学系の政策評価論の立場から見たNPMの持つ構造的な問題と大学法人化(独立行政法人化)の関係について紹介してみたいと思います。

 国立大学の法人化(公立大学についても同様ですが)は、高等教育政策の枠組みを超えた当時のNPM改革の一部として、いわば天から強制的な枠組みとして降ってきたものでした。それに、文科省(・文部省)が昭和46年の46答申やその後の臨教審答申、もっとさかのぼると新制大学発足時の国立大学管理法案などに盛り込まれていた、長年にわたって実施できなかった諸々の改革を(国立大学関係者等との協議も踏まえつつ)流し込んだ、いわばハイブリッドとしての性格を持つものだったと筆者は解釈しています。先に触れた多くの国立大学関係者にとっての法人化のマイナス面としてあげた諸点は、このNPM改革と文科省の大学改革の双方が反映していますし、後者のプラス面もまた、文科省の大学改革としての大学の特性、独自性への配慮という側面とNPMにおける外部化された政策執行機関への執行に関する権限の委譲という意味での自由度の拡大の双方を含んでいます。

 このうち、NPM改革としての外部化された政策執行機関(この場合法人化された国立大学)における自由度の拡大というのは本当なのか、というのが今回の本題です。

 神戸学院大学南島和久准教授が、昨年発表した論文(南島和久(2009)「NPMの展開とその帰結―評価官僚制と統制の多元化―」日本評価研究第9巻第3号)で、NPMの名付け親であるHoodの議論に添う形で日本におけるNPM改革、またNPM論の問題点について展開しています。

 そこでは、まず政府機関から外部化された機関に対する政府部門の監督・監視は却って強化されることが指摘されます。

 「重要な論点として指摘しておきたいのは、この市場型NPMでは、政府部門から外部化された組織なり管理単位に対し、政府部門の側で監督・監視が強化されるという点である。(中略)規制緩和や民間委託等の改革を行ったとしても、政府としては税金を投じる以上、その責任が解除されることはない。むしろ、規制緩和や民営化がすすめばすすむほど、政府における監督・監視はかえって拡充されることになる」

 そして、独立行政法人に関しては2重の意味での監督・監視が強化されること、またNPM論者はそれに触れようとしないと述べます。

 「この独立行政法人では2つのミラーイメージが展開する。ひとつは切り離された政策実施部分に対する監視・監督である。理念的には政策実施部分には「管理の自由」が認められているはずであるが、現実には企画立案部分の責任が免除されていない。そうするとこれを監督・監視する機関が必要になってくる。もうひとつは実施過程を規律する業務実績にかかる自己評価が「お手盛り」でないかをチェックする部分である。評価の客観性や認証がここでのひとつのテーマとなるものである。

 こうした市場型ないし企業型NPMの外側で展開するNPMのもうひとつの「顔」についてはいわゆるNPM論者はおおくをかたらない。」

 昔、政治学を学んだ身としては大いに納得できる論考です。しかし、だとすると大学の特性、独自性に対する配慮云々などという話は吹き飛んでしまい、大学という組織はそもそも独立行政法人という制度に馴染むのか、という議論が再び甦って来ることになります。国立大学法人化の前後、国立大学関係者による法人化反対運動において、中期目標を文部科学大臣が定めることと中期目標・中期計画・年次計画に対して行われる評価の2点から大学の自由・自律性は増大しない、却って損なわれるのだという主張をしばしば目にしました。これらは恐らく教授会自治の観点から導かれたものだったと思いますが、結果的には行政学によるNPM研究と期せずして一致した結論にたどり着いていたと言うことができるのかもしれません。もっとも、法人化の本質云々などと言う話自体、日本の高等教育セクターが下から崩落しかねない昨今の情勢からはどうでもよくなってしまいかねないこの頃ですが。

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2010年7月4日日曜日

育児・介護休暇等に関する制度改正について

 6月30日より改正育児・介護休業法が施行され、これに合わせて本学の関連の制度、規程も改正されることになります。この問題について、6月29日に当局側より組合に対して説明を行ないたいとの連絡があり、同日中に関連の規程の改訂等についての説明を受けました。急なことだったので執行部としても事前の準備を行なうこともできず、当日はとりあえず説明を聞き、幾つかの点につき質問・確認を行うにとどまりました。
 内容に関する組合執行部としての検討は来週以降になりますが、とりあえず6月30日付でそのような法律の改正が施行になり、大学としてもそれに合わせた制度改正を行う準備がされていること、及び説明を受けた点のうちの幾つかについて、組合執行部としての判断は抜きにして職員の皆様にお伝えします。

  • 基本的に横浜市の制度を準用する。
  • 契約職員及び嘱託職員も制度の対象とする。ただし、横浜市においてこの制度改正に対する非常勤職員の扱いがまだ定められていない関係で、休暇の日数等を法に定められた内容に準じたものとしていて、常勤職員より少なくしてある。この点については、市の制度が整備されれば、それに合わせて修正の可能性がある。
  • 育児短時間勤務に関して、1日の所定労働時間が6時間以下の場合は対象とならない。
    → 前回の組合ニュースでも触れたように、本学の嘱託職員は小規模な部署単位で運用を行なっており、週30時間を越える契約となっている場合もあるようですが、大方は市の制度と同様に週30時間勤務なのではないかと思います。この場合、例えば週5日勤務であれば、1日の労働時間は6時間で育児短時間勤務の対象外になり、例えば週4日勤務であれば、1日の労働時間は7時間半となって育児短時間勤務の対象となります。

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次期中期計画について

 同様に6月29日、当局より組合に対して次期中期計画に関する説明がありました。この問題に関する組合の見解は、既に4月5日に「次期中期計画に関する意見書」として表明し、皆様にも4月14日付の組合ニュースでお伝えしたところですが、今回の説明を受けて、来週以降、改めて執行部で対応を検討します。当日の説明資料については、6月24日に、YCU-net の http://163.212.36.30/cgi-bin/cbgrn/grn.cgi/cabinet/view?hid=208&fid=6463 にアップされています。以下、とりあえず幾つか特徴と経営面に関し質疑・内容の確認を行なった点についてお伝えします。

  • 前文において、取組として「地域貢献」、「国際化」を強く打ち出す体裁となっている。
  • 「スケジュールの関係で、中期計画に関しては9月にはとりまとめて、一度市に出す必要がある。」
  • P15 1(1)「公立大学法人として、経営効率の追求だけでなく、大学の個性を育てることを……」 → 「大学の個性とは、教育研究面でのそれを意識している」
  • P15 1(2)「教学組織において学部や研究科の枠を超えた調整が教育研究に対して有効に機能するよう、研究院の運用を図る」 → 「研究院とは、国立大学で見られる同種の名称を冠した研究のみを管轄するような組織ではなく、最終的には別の名称となる可能性もある」
  • P16 2(1)「教員の人事制度の効果的な運用」 → 「テニュア制度という言葉については、通常言われるテニュア制度そのものの導入ではなく、本学にあった制度をつくるという意味で消してある」
  • P16 2(2)「職員の人材育成とモチベーションの向上」 → 「現行中期計画における市派遣職員の完全廃止は見直す。これ以上増やすことはないが、市派遣職員の削減に関する数的目標はない」
  • P16 2(2)「職員の人材育成とモチベーションの向上」 → 「大学専門職に関しては、中期計画に入れるとか落とすとかを決める段階にはないが、現時点では大学専門職という言葉は含まれていない」
  • P18 2(1)「効果的な人件費管理の運用」 → 「現行の人件費率での管理は、いくら努力しても分母である歳出が抑制されると数値が上がってしまい、指標として必ずしも適切でなかった」
  • P18 2(2)「事務改善等による経営の効率化」 → 「経営の効率化については発注・支払だけではなく、内部の事務手続き等の改善も重要であることは認識している。具体的な記述については検討中」

*「育児・介護休暇制度」及び「次期中期計画」に関して、組合員・非組合員を問わず、ご意見・ご要望のある方は是非、 ycu.staff.union(アット)gmail.com までお寄せください。

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リベラル・アーツ教育、そしてクリティカル・シンキング

 最近、すっかり見かけることがなくなりましたが、法人化以降、最近まで本学はその教育の特色として「リベラル・アーツ教育」を標榜していました。また、近年、ICUの教育に対する評価が高まったこともあってか、「リベラル・アーツ教育」を特色として掲げる大学が増えているようにも感じます。

 未だに広く誤解や混乱が(例えば「教養教育」との混同など)見られますが、「リベラル・アーツ教育」の「リベラル・アーツ」とは、ある性格を持つ学問(ディシプリン)群、具体的には職業に直結していない学問群を指しています。

 例えば、社会科学で言えば、経済学はリベラル・アーツですが、経営学はリベラル・アーツには含まれません。後者(経営学)を修了した学生が、ビジネスの世界に進み、その知識をそのまま活用することを想定されている(と言うか、そのための教育を行なっている)のに対し、前者(経済学)の知識は、ビジネスの世界でも有益ではあっても、ビジネスそのものに関するものではありません。例外的に経済学者やエコノミストになった人にとっては、その知識は職業に直結したものとなるでしょうが、経済学部は経済学者やエコノミストの養成を第一目的としているわけではありませんし、実際そのような道に進む人は、卒業生全体から見れば極々少数でしょう。

 では、「リベラル・アーツ」に分類される学問(文学、哲学、歴史学、理学、経済学etc)を学べば、それがイコール「リベラル・アーツ教育」を受けたことになるのでしょうか?答えはノーです。

 長い歴史的・文化的変遷のすえ、現代アメリカにおけるリベラル・アーツカレッジの教育のありようとして一種の理念型にまでなっている「リベラル・アーツ教育」は、単に履修する学問分野だけでなく、独特の教育目標や教育方法なども含めた一つの総合的な教育のあり方を意味しています。

 中でも「クリティカル・シンキング」は、「リベラル・アーツ教育」にとって中核的な概念、あるいは教育目標になっています。

 「クリティカル・シンキング」については、一般的には「批判的思考」と訳されていますが、個人的には直訳に過ぎて、本来の意味するところを逸脱してしまっていると感じていました。では、どのような言葉ならいいのかと言うと、強いて言えば「客観的思考」あたりかもしれませんが、これまた色々なものが抜け落ちてしまい、どうにも適切な訳語が思いつかないという状態がずっと続いていました。

 今年度の大学教育学会で、たまたまアメリカのリベラル・アーツ教育の研究者、それに日本の一般教育史の研究者と筆者という組み合わせで一緒の昼食となったので、長年の疑問を彼らにぶつけてみました。

 その結果は、確かに「批判的思考」では不正確、かと言って「客観的思考」でもない、どうも日本語にはぴったりと対応する単語が見当たらず、「クリティカル・シンキング」のままで使った方がいいのではないか、ということになりました。

 次に、ではその意味は何なのかという話になり、一般教育史の研究者が言い出した「深く根本から考え直す」という説明が一番ぴったり来るだろうという結論になりました。分かりやすくなるよう、もう少し言葉を補ってみると「(自分自身で物事を)深く根本から考え直す(知的態度や能力)」となるでしょうか。

 さらにこれを「リベラル・アーツ教育」と結びつけてみます。

「リベラル・アーツ教育における中核的な目標は、自分自身で物事を深く根本から考え直す知的態度や能力(=クリティカル・シンキング)を養うことにある」

 このように理解すると、「リベラル・アーツ教育」が学習プロセスを重視すること、大量に課される読書やレポート、そして討論、また全寮制といった様々な教育方法や教育環境上の特色がなぜ必要なのか、すんなりと理解することできます。さらに、「クリティカル・シンキング」がそのようなものだとすると、「リベラル・アーツ教育」が「クリティカル・シンキング」を身につける上で最適である、と関係者が主張することも納得が出来ます。「リベラル・アーツ教育」以外の職業に結びつく分野の教育においては、(「クリティカル・シンキング」を涵養できないというわけではありませんが)その成り立ち、目的からして、それぞれの分野での職業に必要な知識・技能を身につけることを最優先とせざるを得ないからです。

 さて、今の日本の大学で、本当に「リベラル・アーツ教育」を実践している大学はいくつあるでしょうか。

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