2013年12月16日月曜日

横浜市立大学改革はどこへ行くのか -中教審組織運営部会審議まとめ、 学長中心、教授会権限、高度専門職、SD-

 12月24 日の中教審大学分科会で最終的にオーソライズされるため、現時点ではまだ案ですが、12月5 日の大学分科会組織運営部会において、日本の大学に非常に大きな影響を及ぼすことになるであろう審議まとめが提示されました。安倍政権の発足以降、グローバル化の問題を中心に高等教育政策に関する検討が急ピッチで進んでいますが(その一部については本年7 月4 日付の組合ニュース【公開版】でご紹介していま
す)、今回の組織運営部会審議まとめは、大学のガバナンスのあり方についての法令改正を含めた改革案を提示するものです。

 形式的には、中教審の、分科会の、そのまた部会の半年あまりの検討のまとめでしかありませんが、内容的には、国立大学法人制度、地方独立行政法人制度(公立大学法人制度)というガバナンス改革の系譜に直接連なり、さらにそこから踏み込んで各大学内部の制度、ルール、運用にまで改革を迫ろうとするものであり、中教審答申に匹敵するか、見ようによってはそれ以上の重要度を持つものと言えます。先日発表された「国立大学改革プラン」と並んで、来年度以降の日本の大学のあり方を(良し悪しの問題とは別の話として)大きく規定するものとなるでしょう。

 内容は、一言で言えば教授会権限を限定、予算・人事を含め学長に権限を集中し、かつ学長を補佐する体制を整備するという方向性により、大学のガバナンスを強化することを目指すというものです。これまでもこの種の議論や答申等はありましたが、法令改正を行ってでも現実化するという決意、さらには各大学には学則レベルだけでなく規程レベルまで踏み込んで、そのような趣旨に反する内容になっていないか検証と整理を求めるという点でこれまでの対応とは一線を画すものとなっています。

 このまとめ自体に関してもいろいろと書きたいことはありますが、ここでは、この審議まとめと横浜市立大学の関係について触れたいと思います。

 ご承知の通り、横浜市立大学は平成17 年の法人化時に理事長・学長に極端に権限を集中するガバナンス形態を採用しました。具体的には、例えば教授会権限については、「入学、進級、卒業、休学、復学、退学、除籍、再入学、転学、転学部、転学科、留学、学士入学等学生の身分に関すること」及び「学部運営会議から付議された、その他学部の教育に関すること」という2 点に関する審議権のみ(学則第77 条)で、しかも「代議員会の議決をもって、教授会の議決とする。」(学則第76 条2 項)とされ、金沢八景の本キャンパスでは4月に1回開催され、「総て代議員会に委任する」ことを決議するだけの存在となっています。また、理事長、学長を補佐すると同時にそのガバナンスをチェックする機能を持つはずの理事会は設置されていません。学外には公開されていませんが、規程集を見ると「理事長が別に定める」という言葉が頻出しており、組合の各種交渉の過程でもそれが具体的にどう定められているのか明らかでなく問題になることが一度ならずありました。一体誰が決定権を持っているのかはっきりせず、それはつまり理事長が決定権を持っているのだろうと考えるしかないことも多々あります。

 では、このような「横浜市立大学法人化改革」と今回の審議まとめの関係について見ていきましょう。

 第一に、今回の審議まとめは、教授会権限について「①教育課程の編成,②学生の身分に関する審査,③学位授与,④教員の教育研究業績等の審査等」に関する「審議権」としています(P28)。これらについて、どのように具体化するかについては部会の中でも意見の違いがあり、最も強硬な企業委員の主張では学校教育法を改正し、そこに上記のように教授会の審議権として①~④を具体的に列挙するよう求めています。今回はそこまでは踏み切るという話にはならず、先送りされたと理解していますが、仮に来年度以降そういうことになった場合、限定列挙ですので一般の大学の場合はこの4項目に教授会権限が限定されることになります。しかし、横浜市大の場合、上記のように逆に権限が②の学生の身分のみになっているので、①、③、④を教授会に戻さなければならないことになります。最も強く教授会権限を制限する方向になった場合、横浜市大では逆に権限が返ってくる。何とも皮肉な話です。

 第二に、学長補佐体制の一環として、これまでの大学の構成員「教員」、「事務職員」に加え「高度専門職」の創設を求めています(P18)。これは、横浜市大における「大学専門職」とほぼ同じものです。「大学専門職」は、法人化された横浜市大の初代理事長となるはずだった故孫福弘氏(慶応大学教授、大学行政管理学会初代会長等)によって新たな法人経営・大学経営の担い手として本来は構想されたものと思われますが、横浜市関係者により現在では事実上廃止されてしまいました。

 一連の経緯については、本学教員組合のニュースに寄稿したものがありますので、ご関心の向きにはそちらをご参照ください(教員組合週報2011.05.18 「横浜市大における大学専門職の創設と変遷」)。さらに辞職した大学専門職による告発本も出版されてしまっています。文科省は、年度内に大学設置基準を改正、「高度専門職」を制度化するとしています。力ずくで大学専門職制度を潰した本学では、この制度改正にどう対応するのでしょうか?そ知らぬ顔で、新たに「高度専門職」を設けるのでしょうか?

 第三に、文科省は「SD」についても「高度専門職」の問題と同様に年度内に大学設置基準を改正、正式に位置付けるとしています。この職員育成、能力向上という問題は、横浜市大というよりは公立大学の多くに共通する課題といえます。法人化前の公立大学においては、事務局は平均 3年程度で
ローテーションする設置自治体の職員により構成されていました。このような在り方は、①大学経営は自治体の本来業務でないがゆえに、自治体職員は大学経営に関する知識、経験を持っておらず、仮に熱心に勉強したとしても 3 年後にはその人は異動してしまい、部署としての知識、経験はリセットされてしまう、②自治体の本来業務でなく、3年後には異動する可能性が高い業務に対して最低限以上のエネルギーを割くことは個人レベルで見た場合必ずしも合理的でなく、大学職員としての必要な知識を積極的に身につけようとする等の正のインセンティブが働きにくい、③同様の理由で、大学に対するロイヤリティも生まれにくく、それが教員、学生との関係にも影響する等の問題を抱えていました。法人化後も多くの公立大学においては管理職は設置自治体からの出向であり、この問題は持ちこされています。また、法人化後、採用が可能となった固有職員に関しても、上記のような構造的問題の下、国立、私立並の職員を養成するという法人としての確固とした人事方針が存在しない限り、人材育成に資金と時間を割くことはなかなか認められません。結果、OJT を中心に加えて設置自治体の研修の利用による人材育成というパターンになるのですが、書いたように管理職の多くは依然として設置自治体からの出向で、大学職員としての経験年数は 0~3年程度です。業務による違いはありますが、OJT の効果も限定的にならざるをえません。設置自治体の研修にしても、この 10 年で急速に高度化を迫られた大学経営のニーズに充分に対応できるものではありません。横浜市大の場合、固有職員全員任期制という制度の下、問題は一層深刻です。職員組合は一貫して固有職員に対して「大学職員」としての適切な SD を行うよう求めて続けており( http://ycu-union.blogspot.jp/2011/11/blog-post_25.html )、さらに任期制廃止交渉の中でも SD の全体像について明らかにするように要求しているところです( http://ycu-union.blogspot.jp/2013/07/blog-post_4.html )。過去数年、はかばかしい成果は得られていませんが、せっかく文科省が大学設置基準への位置づけという新たな梃子を用意してくれるのであれば、有難く活用させてもらおうと思います。

 他にもありますが、今回の審議まとめは大学ガバナンスの極めて広範な領域にわたるもので、数頁で書ききれるものではなく、この程度にしたいと思います。職員の皆さんには、是非、全文を精読するようお勧めします。企業委員の主張に沿った部分、私学経営者の立場に配慮した部分、高等教育
研究者の意見を考慮した部分等々、様々な見解、主張が合成されたものであり、そういう意味で分かりにくい面も多々ありますが、そういった要素も含め非常に重要でかつ勉強になると思います。
(菊池 芳明)

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2013年12月4日水曜日

職場集会開催のお知らせ

 職場集会を以下の日時で開催しますので、お知らせします。

八景キャンパス: 12月19日(木) 12:05~12:55
 (本校舎1階 職員組合事務室の隣の組合会議室)

福浦キャンパス: 12月18日(水) 12:05~12:55
 (医学研究棟 A209号室)

*会場の関係で福浦キャンパスが先の18日(水)、金沢八景キャンパスが後の19日(木)といつもと順序が逆になっています。ご注意ください。

前回10月の職場集会以降の組合の活動状況、特に任期制廃止問題と本校舎耐震改修後の組合事務室問題に関する交渉の状況を中心に、各職場の近況、課題についての情報交換等を予定しています。非組合員の方の参加も歓迎します。飛び入り参加も可能ですが、12月16日(月)までに参加の申込をいただいた方には、組合でお弁当を用意します。事前申込は、ycu.staff.union(アット)gmail.com までお願いします。

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