2014年6月17日火曜日

夏季期末手当について

夏季期末手当については、5月21日の組合ニュース【公開版】でお伝えした通り(http://ycu-union.blogspot.jp/2014/05/blog-post_21.html)、2.5月以上を契約職員を含めた本学全職員に対して支給するよう要求していましたが、6月12日、常勤職員については1.925月(ただし、新採用職員は1.03月)、嘱託職員も同様に1.925月(ただし本年4月採用者は0.9625月)、契約職員は支給なし、支給日は6月30日としたいという回答が当局側からありました。

要求が満たされなかったことは遺憾であり、かつ、今回も市にはない大学独自の契約職員については対象外とされているものの、回答内容は市職員と同様であり、法人化時の、職員の処遇に関しては市と同等のものとするという労使間合意に沿ったものであるであることから、契約職員については引き続きその他の面も含め処遇改善の要求を続けることを前提に妥結することとし、本日、当局側に対してその旨、通告しましたのでお知らせします。

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横浜市立大学のガバナンスと学校教育法改正案 -すべてが横浜市大になる?-

昨年12月16日の組合ニュース【公開版】で、大学のガバナンス改革に関する中教審大学分科会組織運営部会の審議まとめとその横浜市大のガバナンスへの影響について紹介しました。
http://ycu-union.blogspot.jp/2013_12_01_archive.html

審議まとめはその後、若干の修正を経て今年の2月12日に大学分科会の審議まとめとして発表され、さらにそれを踏まえ、現国会において学校教育法並びに国立大学法人法の改正案の審議が行われています。

ただし、現在国会に上程されている学校教育法・国立大学法人法の改正案は、大学分科会議まとめと比べ大きな変更がなされています。

ここでは教授会の位置づけ、権限に絞って話を進めますが、審議まとめの段階では教授会の権限は以下のようにされていました。

教授会については,専門的知見を持った教員から構成される合議制の審議機関であることを踏まえると,学校教育法に規定する,教授会が審議すべき「重要な事項」の具体的内容として,①学位授与,②学生の身分に関する審査,③教育課程の編成,④教員の教育研究業績等の審査等については,教授会の審議を十分に考慮した上で,学長が最終決定を行う必要がある。
(「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」P28)

ところが、閣議決定された学校教育法改正案では教授会の権限は以下のように改正されることになっています。

第93条 大学に、教授会を置く。

2 教授会は、学長が次に掲げる事項について決定を行うに当たり意見を述べるものとする。
一 学生の入学、卒業及び課程の修了
二 学位の授与
三 前二号に掲げるもののほか、教育研究に関する重要な事項で、学長が教授会の意見を聴くことが必要であると認めるもの

3 教授会は、前項に規定するもののほか、学長及び学部長その他の教授会が置かれる組織の長(以下この項において「学長等」という。)がつかさどる教育研究に関する事項について審議し、及び学長等の求めに応じ、意見を述べることができる。

審議まとめの段階では、教育課程、教員業績評価等、教育研究に係る事項の審議権は基本的に教授会に残されているのに対し、学校教育法改正案においては、明確に権限として残されるのは学生の身分、学位に関する事項だけで、その他の教育研究事項に関しては学長等に求められない限り意見を述べることもできません。また、「意見を述べる」だけで学長はその決定において教授会の意見には拘束されない、諮問機関としての位置づけが明確になっています。

審議まとめから改正案閣議決定までに何があったのか、メディアでの報道はなく詳細は不明ですが、すでに公開されている衆議院文部科学委員会の速記録では、下村文科相の答弁として、中教審の一部委員や関係者の意見を聞き、当初予定していた省令改正では不十分であり、「法律そのものを改正して、誤解のないように明確化することが最も重要である、そういう認識に至り」と記されています。(http://university.main.jp/blog8/archives/2014/05/523.html)また、修正内容のうち少なくとも一部は、大学分科会及び組織運営部会において北城恪太郎経済同友会終身幹事が強硬に主張していたものです。いずれにせよ、この改正案が成立した場合、教授会はごく限られた事項に関する“諮問機関”となり、学長に強大な権限が集中することになります。

その点に関連して、いくつか指摘しておきたいと思います。

第1に、審議の途中で高等教育研究者などから指摘があったように、このような教授会の権限を極端に限定し学長の権限を強大化するようなガバナンスは、欧米の大学でも一般的とは言えないという点です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/siryo/1321781.htm

アメリカをはじめとする海外の事例を引いて「~では~だ」と主張する人を揶揄して「出羽の守」と呼ぶことがありますが、現在の「大学改革」が世界大学ランキングでの国内大学の劣位を問題とし「世界大学ランキングトップ100に10校ランクイン」を命題としているらしいことを考えると、具体的なベンチマークの対象は英米を中心とする欧米大学であると思われ(そのような目標の立てかた自体が適当かどうかはまた別の問題です)、それを一転して;
「非常に都合のいいところだけとっているとしか思えないですね。世界百大学全てがそうだと言いかねないような発言ですけれども、具体的には一つ、二つの大学の事例をおっしゃっていたわけですけれども、そうでない大学もたくさんあるわけでありまして」(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009618620140523020.htm)と片付けてしまうのは、いささか疑問です。それともまさか、モデルとしているのは欧米ではなく「赤い帝国」のそれなのでしょうか。

第2に、今回の改正案は教授会の権限の抑制により学長という「経営者」の権限を強化する(文科相によれば強化ではなく本来の権限の明確化ということになりますが)ことを目指しているわけですが、その場合、理念レベルの議論とは別に、「経営者」となりうる一定の厚さを持った人材層が存在しているのかという点が問題となります。この点で、国内大学のこれまでの経営者の育成システムは、企業などの他の分野と同様、基本的に内部市場によるそれです。それに対してアメリカの大学経営者の育成システムは、これまた企業等と同様に外部市場によるそれです。そして、国公立大学の場合、法人化以前に行われていたのは「経営」というよりは「管理運営」であり、法人化以降、「経営者」育成のための内部市場が適切に機能し始めているのかどうかも現段階では判然としません。もともと法人経営という側面に関わることの多かった私学についても、「護送船団」時代が終わって本格的な「経営」問題に直面するようになってからの時間は国公立大学に比べそう長いわけではありません。例外的な個人は常に存在しますが、一定の人材層ということになれば道端に勝手に生えているものではない以上、この問題に関する認識すら存在していないかのような現在の法改正推進側の姿勢は不思議に思えます。

第3に、強大な権限を手にすることになる経営者に対するチェック機能の問題があります。私学の場合、法的に理事会が最高意思決定機関と位置づけられており、その点で一定のチェック・アンド・バランスが働くことが期待できますが、国立大学法人における役員会はあくまでも「議を経る」機関であり、しかも理事を任命するのは学長自身です。公立大学法人の場合、役員会という組織すら法律上想定されていません(実際には、大多数の公立大学法人で役員会or理事会が設置されていますが、当然、直接の法的な位置づけは持ちません)。国公立大学の場合、教授会との間でのチェック・アンド・バランスが無くなれば、常設的な機関による経営者へのチェック機能は存在しなくなるか機能しなくなる可能性があります。この点について、大学分科会や下部の部会では、経済界出身委員は議論に消極的で、最終的には「学長が問題を起こしたら学長選考会議が解任すればいい」といった主張を述べていました(この部分の議論はいつの間にか国公立大学法人に関する話になっていたようでした)。しかし、「学長選考会議」は基本的に常設組織ではありませんし、学長のチェックを主目的とする機関でもありません。常識的に考えれば、問題が取り返しのつかない段階にまで至った時点で始めてアクションを起こすのが精一杯でしょう。国立大学法人評価委員会において、同様にチェック機能を担うはずの監事の大半が非常勤であることが問題にされている(しかもそのメンバーには今回、大学分科会で教授会権限縮小、学長への権限集中を主張している財界人も含まれています)(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/gijiroku/1345969.htm)のに、その一方で「学長選考会議」が有効なチェック機関となりうると想定するのは不思議です。

第4に、実のところ、今回の法改正の先行事例と言いうる大学が(私学における「ワンマン理事長」だの「ワンマン学長」だのは別として)すでに国内に存在しています。国立大学法人制度と同時に発足した公立大学法人制度ですが、その根拠法となる地方独立行政法人法の規定は国立大学法人に比べ概括的で、各法人の根本となる定款を設計する設置自治体次第で極端な制度設計も可能なものになっています。横浜市立大学の場合、教授会権限は学則で以下のように定められています。

第77条 学部教授会は、次の事項を審議する。
(1)入学、進級、卒業、休学、復学、退学、除籍、再入学、転学、転学部、転学科、留学、学士入学等学生の身分に関すること
(2)学部運営会議から付議された、その他学部の教育に関すること

しかも、その教授会自体、代議員会に代行される(できるではなく)とされています。

第76条 教授会は、その定めるところにより、教授会に属する教員のうちの一部の者をもって構成される代議員会を置く。
2.代議員会の議決をもって、教授会の議決とする。

上記のように、公立大学法人制度においては役員会自体、制度上想定されておらず、横浜市大では実際にも不設置、監事も非常勤のみで、(横浜市大の場合、理事長・学長分離制度を取っていますが)ナンバー1である理事長は、その気であれば、自分以外の法人の全構成員が賛同しないような事項も決定し、実施を指示することができます。ナンバー2である学長も同様に、ナンバー1である理事長以外のすべての構成員の反対を無視しえます。もちろん、実際のガバナンスという観点からはそのようなことは困難で、最低限、指示に従う幹部の存在は必要になりますが、理論上はそのような話になります。基本的に事後的にしかチェックが効かない、まさにトップダウンに最適化された制度設計の事例と言えるでしょう。

その他の公立大学法人の中にも、特に首長主導の「改革」を行った法人を中心に、トップダウン型の制度設計や運用を行っている法人が存在していると思われます。また、逆に従来型の設計や運用を行っている法人も少なからず存在しているようです。すでに書いたように、公立大学法人は設置自治体による制度設計の裁量の範囲が大きく、相当画一的な国立大学法人に比べ、さまざまなガバナンスの事例が存在する、ある意味、テストケースの宝庫と言える面があります。

横浜市大が現在のガバナンス形態となってから9年、ある程度、その実績を評価することも可能なだけの時間がたったと言えると思います。実際に先行事例が(おそらく他にも)存在しているのですから、政策論議にあたってはそれらの事例を検証、活用してもいいのではないでしょうか。法案は一部修正の上、既に衆議院を通過、参議院文教科学委員会で審議中となっています。このような際に、「多様性の宝庫」としての公立大学法人の価値が着目されることなく終わってしまうのであれば、関係者としてはいささかの寂しさとともに高等教育政策形成のありように一抹の懸念を覚えざるを得ません。
(菊池 芳明)

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