2014年12月25日木曜日

職員賃金規程及び通勤手当要綱変更に関する意見書

11月21日付で人事課長より職員賃金規程の改正及び通勤手当要綱の改正について、労基署に提出する届出にあたっての意見書の提出を求められました。これは、法人化時の「大学法人職員の処遇は市職員と同等とする」という労使合意に基づき、横浜市における横浜市人事委員会の勧告による地域手当及び通勤手当の改正に対応して、法人における地域手当及び通勤手当の変更を行うためのものです。

法人化時の労使合意を遵守する立場から、以下の通り、基本的に同意する旨の意見書を12月3日付で提出しましたので、ご紹介します。


意見書
公立大学法人横浜市立大学
理事長 田中 克子 殿
平成26年12月3日

平成26年11月21日付をもって意見を求められた「公立大学法人横浜市立大学職員賃金規程」及び「公立大学法人横浜市立大学の通勤手当に関する要綱」の変更について、下記のとおり意見を提出します。

  • 今回の変更は、横浜市における賃金及び通勤手当の変更を反映したものであり、法人化時における「大学の職員の処遇は市職員と同等のものとする」という労使合意を遵守する立場から同意する。
  • なお、今後についても労働基準監督署に対する届出の必要な職員に関連する就業規則等の変更に際しては、過半数代表者及び職員の職域を代表する当組合の意見を予め求めるよう要望する。
横浜市立大学職員労働組合(横浜市従大学支部)
委員長(支部長) 三井 秀昭

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「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて(2) -「高度専門職」か「専門職」か-

前回、昨年12月4日付の組合ニュース【公開版】では、11月までの中教審大学分科会大学教育部会における検討状況を踏まえて、なぜ文科省が「高度専門職」の年度内制度化を急ぐのかという点に関する推測を書いてみました。

その後、12月5日にも大学教育部会が開催され、さらに大学教育部会の上部組織である大学分科会においても12月16日に検討が行われています。これらの会議については、議事録はまだ発表されていませんが配布資料は既に公開されています。( http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/1353929.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/1354156.htm

まず、12月5日の大学教育部会においては、3人の参考人が招聘されて「高度専門職」に関する見解が発表されました。3人のうち1人が元私学の事務局長経験者で現在は大学教授となっている人で、もう1人は大手有名私学の事務局幹部、残る1人が元教員で現在はURAとなっている人です。職員系2人、教員出身の「高度専門職」が1人という構成になります。

これらのうち、職員系の2人による発表は、職員とは異なる人的集団としての「高度専門職」を想定するのではなく、職員の「経営」に占める役割が拡大していることや職員の能力の高度化・一定の専門性の確保が必要であることから出発して、基本的に職員のためのポスト、ジョブ・ローテーションの一環として「高度専門職」を位置付けるという主張でした。

これに対して、委員の1人からは「職員のうち事務局幹部になる人間のキャリアトラックにおける途中のポジションの一つと捉えているのではないか?どこが『高度』専門職なのか?むしろ『大学運営職』とでも呼ぶべきではないのか?」といった趣旨の指摘があり、2人からは基本的にそれを肯定する回答がありました。

これらの主張には、大学行政管理学会の結成前から続く日本の「大学職員論」の在り様が色濃く反映されているように思います。即ち、①職員は、文科省の指導や経営者・教授会の決定、学内慣行等に基づきその執行のみを(相当機械的に)担う「clerk」から、より高度な業務を主体的に担いうる存在へとならなければならない、②そのためには、職員の能力を底上げすることが必要である、③同時に教員が上位に君臨しているような状態を改善し職員の地位の向上を図らなければならない、という2つの目標(職員の全体的な能力向上と地位向上)を内在させており、かつ、④アメリカの大学職員の中核が(アメリカの他の業界、職種と同様に)ジョブで契約する複数の「専門職」の集団であり、学内のあらゆる事務を転々と経験するゼネラリストである自分達とは全く異なるシステムであるという点についての認識が必ずしも徹底しないまま、アメリカの大学職員をあるべき職員像として参照したための混乱も含むものであったように思います(ただし、私自身は当時シンクタンクに居て、遠くから時折眺めるだけ程度でしかなかったので、色々と間違っているかもしれません)。

そして、今回の「高度専門職」をこの「大学職員論」の延長上に位置付けて考えると、ある意味、きわめて好都合な制度として映る面がありそうです。つまり、上記の②に関しては、通常の日常業務に追われるラインから一時的に外れ、特定分野の、それも調査・分析等を行う業務に専念することである程度の専門性を得ることができそうですし、③においては、「高度専門職」という身分を得ることで教員に見劣りしないステータスを得ることができるかもしれません。

ただ、そのような在り様は、民間企業における「専門役」や「調査役」とほぼ同様のものであり、あえて「高度」を冠する必然性はなく「専門職」でいいのではないかと思います。そして、そうであれば、「教員」、「職員」とは別の第3の職種としてあえて法令改正を行ってまで制度化する根拠も曖昧になってきます。

しかしながら、「高度専門職」を狭義に定義しない限り、この問題に「大学職員論」における「職員の全体的な能力向上」、「職員の地位向上」という課題が流れ込んでくるのは避けられそうもありません。大学自体が非常に多様であり、個別の大学が必要とする構成員の経営に関する能力もまた多様であることから、「高度専門職」を具体的に定義することは多くの困難を伴うのは確かですが、私自身は、上記の②については並行して議論されているSDの問題として取り扱うべきで、③についても「高度専門職」を以て解決を図るのは、やや趣旨が違うのではないかと思います。

そして、12月16日に開催された大学分科会においては、充分な議論の時間は確保されなかったものの、「高度専門職」が職員の一種として位置付けられてしまった場合、専門家として十分に機能しなくなる危険性があるという懸念や、逆に現在の国立大学では教員身分になっている場合が多いが、教員集団にも職員集団にも入れず、教員からは「教員なら教育研究をやれ」と言われてしまうなどの意見が出ました。趣旨には賛成、そして少なくとも勤務形態は職員とは違ってくるはずだ、という点ではほぼ意見の一致をみていたようです。

「高度専門職」をめぐる議論は、このように12月5日の大学教育部会以降、やや混乱した状態に陥っているように見えます。これによって、いくら大学設置基準という省令の改正であっても本当に年度内に制度化が可能なのか、少々疑わしくなってきました。また、おそらくはスケジュールを優先し、本来は学校教育法で定めるべき問題を大学設置基準改正での対応としたのだと思われますが、もし年度内に間に合わないのであれば、強引に設置基準改正で対応するより学校教育法改正で対応すべきではないかというもっともな見解も浮上してくる可能性があります。実際、大学教育部会では、制度化の在り方について事務局から含みがあるように感じられる発言もありました。

残るURAの参考人の方の発表については、また稿を改めて紹介したいと思います。
(菊池 芳明)

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2014年12月4日木曜日

職員労働組合 2014-15年度活動方針

11月28日に本年度の組合の大会を開催、活動方針を決定しましたのでお知らせします。

昨年度までとの違いとしては、最大の課題であった任期制廃止への取り組みに関して、固有常勤職員については昨年度いっぱいで任期制が廃止、終身雇用へと転換されたため関連部分を削除した点が挙げられます。ただし、それ以外の大学専門職、契約職員、嘱託職員については依然として1~3年の任期制が続いているため、その部分は昨年度のままです。また、任期制が廃止された常勤職員に関しても、各種トラブルの際にそれが直ちに任期不更新や1年以下の任期の提示等へ結びつかなくなっただけで依然として各種のトラブルが頻発しています。これらは契約形態ではなく主として職場環境・労働環境に起因する問題であるため、この点についても引き続き取り組みを続けます。その他、詳細等については以下をご覧ください。

職員労働組合 2014-15年度 活動方針

1.働きやすい職場環境の確保への取り組み

社会環境の激変とそれに伴う大学への要求の多様化、公的助成の削減など日本の大学を巡る環境は年々厳しさを増しています。特に横浜市立大学においては、前市長の下における法人化決定以降、国立大学の比ではない大幅な経費の削減、市OB・市派遣幹部職員への経営権の集中による無駄な業務の増加と現場負担の増大など、非常に不安定な大学経営が続いています。また、労働契約法の改正と法人化以降の取り組みの結果、固有常勤職員の任期制は廃止されたものの、それのみで固有常勤職員をめぐる諸問題が解決されたわけではなく、人材育成、人事評価、労働時間等の職場環境に関する多くの問題が残されています。大学に働く職員の職域を代表する労働組合としてこれらの問題に取り組み、職員の労働環境の改善、安心して働ける職場の確保に全力を挙げます。

2.組織拡大への取り組み

法人化以降、市派遣職員の引き上げ・退職に伴う組合員の減少が続いていましたが、常勤・非常勤の固有職員の加入により減少に歯止めがかかりそうな様子も見えてきました。とは言うものの、大学にとどまっている市派遣職員は漸次退職を迎え、固有職員の組合員については、事務系職員及び大学専門職は全員任期制で雇用の継続が不安定な状態が続き、嘱託職員・契約職員には雇止めの問題があるなど組合の維持・拡大は依然として容易ではない状況です。近年の嘱託職員や契約職員問題への取り組みや組合ニュース【公開版】を通じた情報提供、問題提起等によりプロパー職員の組合に対する信頼・期待は高まっていますが、これを組合員・組織の拡大へとつなげていく必要があり、これまで取り組みの遅れていた派遣会社からの派遣社員も含め、新規の組合員の獲得に取り組みます。また、ずらし勤務の導入や業務の多忙化で難しくなっている組合員相互の交流を確保・促進し、組合の基盤を強固なものとします。

3.嘱託職員、契約職員雇止めの廃止への取り組み

この問題については、職員組合の取り組みの結果、任期更新が終了した嘱託職員について、引き続き嘱託職員が必要であると認めた業務に関しては、雇止めになる嘱託職員の再応募を認める等の措置を取るという運用上の変更を勝ち取ることができました。しかしながら、昨年度、ついに業務の廃止を理由とした雇い止めが発生しており、また、再応募の結果採用された嘱託職員についても給与、賞与、休暇等の処遇がリセットされるという問題点が存在しています。引き続きこれらの改善を求めていくと共に、常勤職員と同様、雇止め自体の撤廃へとつなげるよう取り組みを進めます。

4.大学専門職の雇用問題への取り組み

大学専門職制度は、国内の大学関係者等の大学職員の高度化(アドミニストレータ化)への要請に対する先進的取り組みとして導入されたものでしたが、法人化直後から大学の経営権を事実上掌握した市派遣幹部職員によって、その趣旨を無視した制度運用が行われ、さらに、契約更新を迎える個別の大学専門職に対して、「大学専門職の廃止が決まった」(学内にはそのような情報は一切明らかにされておらず、事実かどうかすら不明です)などとして一般事務職への身分の変更か退職かを迫るという不当行為が行われ、このような不透明な行為の結果、本学の運営に関する告発本が出版される事態にも至っています。組合執行委員でもある大学専門職2名の雇用と身分はとりあえず維持されていますが、職員の高度化や専門化とは相反する人事政策上の動きは続いており、大学専門職自体僅か3名にまで減少させられた中、その身分や業務の安定性の確保、専門職としての評価の問題などの課題は引き続き残っており、今後も取り組みを継続します。

5.コンプライアンスに基づく労使関係確立への取り組み

度重なる交渉や組合ニュース【公開版】等を通じた指摘がある程度の影響を及ぼした模様で、法人化後の数年間の状況に比べれば担当者レベルでの対応に関してはある程度の改善が認められるものの、法人化後、事実上人事権等を掌握する市派遣幹部職員の労働3法、労働契約法を始めとする関係法令、制度等への知識・認識の不足が本学の労使関係の底流を流れており、それが人事制度、制度運用、個別の雇用関係トラブルに大きく影響を与えています。関係法令及びそこで保障された労働者・労働組合の権利の尊重に基づく労使関係の確立を求め取り組みを続けます。

6.組合事務室使用問題

組合事務室に関しては、一昨年度末に大学当局側からの要望に基づき「組合事務室使用に関する確認書」を締結、さらに本部棟耐震改修後の組合事務室の在り方についても昨年度、長期間にわたる交渉の末、2月にようやく合意が成立したところです。
しかしながら、7月30日、当局側から突然、「耐震改修後の組合事務室の位置を変更したい」との一方的な申し入れがあり、その場で組合事務室に関する問題は労使交渉事項であることを認めさせましたが、最終的な耐震改修後の組合事務室の在り方については、依然として決着していません(10月29日現在)。労使対等、労使間合意の尊重という原則に立ち、市従本部及び問題を共有する教員組合と連携し、問題の解決に取り組みます。

7.横浜市従本部、教員組合等との連携

本学の労働環境は、法人プロパー教職員にとって非常に厳しい状態が続いています。横浜市従本部、教員組合や病院組合等との連携を深めつつ、山積する問題に取り組んでいきます。

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「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて(1) -文科省が制度化を急ぐ理由?-

 昨年12月16日付の組合ニュース【公開版】で、当時審議が行われていた中教審大学分科会「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)について紹介したことがありました。

審議まとめに含まれていた内容のうち、学長への権限集中と教授会の権限制約については、6月に当初の予定を超え学校教育法の改正という形で現実化されましたが、その他の事項については宿題として残された形となっていました。それらのうち、昨年12月16日付の組合ニュース【公開版】でも触れた教員、職員とは別の新たな身分として「高度専門職」を法令上に位置付けるという問題について、10月以降、中教審大学分科会大学教育部会において急ピッチで検討が行われています。

大学教育部会の複数の高等教育研究者を含む委員の反応としては、「趣旨には賛成、しかし拙速な法令への位置づけは疑問」というのが大勢のようでしたが、これに対して文科省は非常に積極的で、委員たちの懐疑的なスタンスにも関わらず、年度内に大学設置基準を改正、「高度専門職」を制度化したいと明言しています。

このように文科省が教員、職員に次ぐ新たな第3の身分としての「高度専門職」の創設を急ぐ理由としては、幾つかの可能性が考えられます。

第1に、現在の教育政策をめぐる政治的状況では、政権、またその背後の経済界の強い意向を反映した「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)に含まれている内容をうやむやにするのは不可能であろうと思われます。そして「スピード感」という言葉が多用される政権下、学校教育法改正から遅れて年度を超すことは望ましくないとされているのかもしれません。

第2に、当初の予定を超え学校教育法の改正にまで踏み切って学長への権限の集中を行ったわけですが、実際にトップダウンを機能させるためにはそれを支えるスタッフの存在が不可欠であり、来年4月1日よりの改正法の施行により現実に動き出す学長トップダウン型経営のための補助装置として年度内に制度化する必要があると考えられているのかもしれません。「アメリカ型」の大学経営を支える装置の一つが100種類を超えるともいわれる各種の専門職の存在であり、「アメリカ型のトップダウン」による大学改革(本当にアメリカの大学が学長の一方的トップダウンの下にあるかどうかはまた別の問題ですが)が標榜されていることを考えると充分ありそうな話です。

そして第3に、社会問題化しているバイオ系を中心としたポスドク問題対策の一つ、新たな雇用の受け皿として「高度専門職」を活用しようとしている可能性も考えられます。

以上のうち、実は一番関係の薄そうな第3の問題が設置基準改正を急がなければならないもっとも切実な理由となっている可能性があります。というのも、9月に審査結果が発表された「スーパーグローバル大学創成支援事業」が今年度以降のポスドク問題を一層深刻化させかねないからです。

周知のように、同事業は選定大学におけるこれまでとはレベルの異なる「グローバル化」を求めており、その柱の一つとして外国籍教員等の大幅な増加が含まれています。採択37大学のうち旧帝を中心とする「トップ型」13大学だけで、平成35年度までに外国籍教員を現在に比べ約2600人、また海外で学位を取得した日本人教員を約1000人増加させることになっています。教員の総数も約900人増加させる計画になっているので、その総てが国内大学院で学位を取得した日本人研究者と代替されるわけではありませんが、国内大学院で学位を取得した日本人研究者のポストが現状よりさらに大きく減少することは確かです。これに残りの「グロ-バル化牽引型」24大学、「スーパーグローバル大学創成支援事業」から漏れた有力国立大学、中堅以上の私立大などを合わせると、従来であれば「国内大学院で学位を取得した日本人」が就任していた可能性が高い教員ポストが10年間で数千という規模で減少することは確実であり、さらに2018年以後の18歳人口の減少期への再突入を考慮すると、事態は控えめに表現しても「非常に深刻」という様相を呈することになるのではないでしょうか。

しかし、これに「高度専門職」という、職員よりは専門性や処遇が保証されそうな職種を用意することができれば、状況はましになる可能性が出てきます。「学長トップダウンによる大学改革」のためという理由であれば、現在のURA同様に補助金を付けることも可能になるでしょうし、もしかすると数千のポストを用意することすら出来るかもしれません。

さらに、国内大学の教員ポストの少なからぬ割合を外国籍教員や海外大学院で学位を取得した日本人研究者が占める傾向が広く知られるようになれば、既に現れ始めている国内大学院への進学をためらうという傾向が一層顕著になるかもしれず、もしそのようなことになれば、将来的には(正式な政策転換によるのではなく)大学院進学者の減少によってポスドク問題が“自然に”解決されるという素晴らしい(?)未来すら訪れるかもしれません。

もっとも、以上のポスドク問題と「スーパーグローバル大学創成支援事業」、「高度専門職」の関係については、いかなる公開文書にも、また、大学教育部会の議論にも一切出てきてはおらず、すべて私の推測にすぎません。単なる考え過ぎ、あるいは高等教育政策の偶然の交錯でしかないかもしれません……。
(菊池 芳明)

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