2016年12月23日金曜日

職員労働組合・横浜市従大学支部 2015-16年度 活動方針

11月25日、本年度の職員労働組合・横浜市従大学支部の大会を開催し、以下の活動方針を決定しましたのでお知らせします。


1.働きやすい職場環境の確保への取り組み

社会環境の激変とそれに伴う大学への要求の多様化、公的助成の削減など日本の大学を巡る環境は年々厳しさを増しています。特に横浜市立大学においては、前市長の下における法人化決定以降、全員任期制の導入、国立大学の比ではない大幅な経費の削減、市OB・市派遣幹部職員への経営権の集中による非効率な業務の増加と現場負担の増大など、国立大学法人、多くの公立大学法人に比べ非常に不安定な経営環境下に置かれることになりました。労働契約法の改正と法人化以降の取り組みの結果、固有常勤職員の任期制は廃止されたものの、それのみで固有常勤職員をめぐる諸問題が解決されたわけではなく、人材育成、人事評価、労働時間等の職場環境に関する多くの問題が残されています。また、法人財政の膨張を支えていた附属病院財政が急速に悪化しつつある中、法人が次期中期も睨んだ職員給与等の固有職員人件費抑制の方向性を取りつつあるのではないかという疑いが強くなってきています。大学に働く職員の職域を代表する労働組合としてこれらの問題に取り組み、法人化時の「固有職員の処遇は市職員に準じる」という労使合意を遵守させるとともに、職員の労働環境の改善、安心して働ける職場の確保に全力を挙げます。


2.組織拡大への取り組み

法人化以降、市派遣職員の引き上げ・退職に伴う組合員の減少が続いていましたが、常勤・非常勤の固有職員の加入により減少に歯止めがかかりそうな様子も見えてきました。とは言うものの、大学にとどまっている市派遣職員は漸次退職を迎え、固有職員の組合員については、事務系職員に関しては、上記1.の様な諸問題が依然として存在しており、嘱託職員・契約職員には雇止めの問題があるなど組合の維持・拡大は依然として容易ではない状況です。組合ニュース【公開版】を通じた情報提供、問題提起、更には、昨年度より実施している体系的プログラムとしての職員基礎講座等によりプロパー職員の組合に対する信頼・期待は高まっていますが、これを新規組合員の獲得・組織の拡大へとつなげていく必要があります。特に、近年は新規職員の一括採用が無くなり、これに合わせて実施していた広報・勧誘活動も行われない状態が続いているため、これらの取り組みの立て直しを図ります。また、ずらし勤務の試行導入や業務の多忙化で難しくなっている組合員相互の交流を確保・促進し、組合の基盤を強固なものとします。


3.嘱託職員、契約職員雇止めの廃止への取り組み

この問題については、職員組合の取り組みの結果、任期更新が終了した嘱託職員について、引き続き嘱託職員が必要であると認めた業務に関しては、雇止めになる嘱託職員の再応募を認める等の措置を取るという運用上の変更を勝ち取り、さらに本年3月には、当局側が従前拒否していた、医療系技術系職員と同様に「非常勤職員就業規則第4条第3項」の但し書き条項(職務の性質等特別の事情があり、理事長が必要と認める場合にはこの回数を超えて更新することができる)が適用されることになりました。しかしながら、同条の適用対象となるかどうかの基準は不透明であり、労働契約法改正による無期雇用転換権の実現という制度上の大きな変更を踏まえ、常勤職員と同様、任期制の廃止を目指し取り組みを進めます。


4.大学専門職の雇用問題への取り組み

大学専門職制度は、国内の大学関係者等の大学職員の高度化(アドミニストレータ化)への要請に対する先進的取り組みとして導入されたものでしたが、法人化直後から大学の経営権を事実上掌握した市派遣幹部職員によって、その趣旨を無視した制度運用が行われ、さらに、契約更新を迎える個別の大学専門職に対して、「大学専門職の廃止が決まった」(学内にはそのような情報は一切明らかにされておらず、事実かどうかすら不明)などとして一般事務職への身分の変更か退職かを迫るという不当行為が行われ、このような不透明な行為の結果、本学の運営に関する告発本が出版される事態に至りました。現在のところ組合執行委員でもある大学専門職2名の雇用と身分はとりあえず維持されていますが、一昨年度の契約更新時にも不透明な制度運用があるなど、職員の高度化や専門化とは相反する人事政策上の動きが続いています。固有職員の任期制廃止に続き教員の任期制も廃止された現在、大学専門職は常勤教職員の中で唯一、任期制という不安定な雇用下に置かれ続けており、労働契約法の改正を踏まえ任期制廃止を求めるとともに、専門職としての適正な処遇を求め、今後も取り組みを継続します。


5.コンプライアンスに基づく労使関係確立への取り組み

度重なる交渉や組合ニュース【公開版】等を通じた指摘がある程度の影響を及ぼした模様で、法人化後の数年間の状況に比べれば担当者レベルでの対応に関してはある程度の改善が認められるものの、法人化後、事実上人事権等を掌握する市派遣幹部職員の労働3法、労働契約法を始めとする関係法令、制度等への知識・認識の不足が本学の労使関係の底流を流れており、それが人事制度、制度運用、個別の雇用関係トラブルに大きく影響を与えています。ただし、今年度に入って、政府の労働政策上の修正を反映したものと思われる労働基準監督署からの厳しい指導があり、法人としても組合との関係も含め法令順守の姿勢を示さざるを得ない環境下に置かれています。これも追い風として関係法令及びそこで保障された労働者・労働組合の権利の尊重に基づく労使関係の確立を求め取り組みを続けます。


6.横浜市従本部、教員組合等との連携

本学の労働環境は、法人プロパー教職員にとって非常に厳しい状態が続いています。横浜市従本部、教員組合や病院組合等との連携を深めつつ、山積する問題に取り組んでいきます。


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公立大学をめぐる国家財政システム 終わりの始まり?(3)

なかなか筆が進まないうちに、地方交付税に「歳出効率化に向けた業務改革で他団体のモデルとなるような改革を行っている団体の経費水準を基準財政需要額の算定基礎とする取組み」を導入しようとする「トップランナー方式」は、所轄官庁である総務省の地方財政審議会においてもオーソライズされた模様で、12月14日の毎日新聞で地方財政審議会が「トップランナー方式」の導入を求める意見書を総務相に提出したという報道がなされています(ただし、この稿を書いている12月20日時点では地方財政審議会のWebには資料、議事要旨等はまだ掲載されておらず詳細は不明です)。

ということで、ようやく公立大学における「効率的な」経営をおこなっている事例の紹介です。

大学の場合、国公立という設置者の違いに関わらず基本的な収入・支出の構造は、例えば企業に比べれば単純です。

近年は、①寄附等に基づく基金の設置とその運用による収益の確保、②産学連携による資金の確保などについて、特にアメリカの大学との比較において「経営努力」が足りないと指摘されることが多いのですが、本稿ではそれらについては取り上げません。①に関しては、アメリカの場合、社会に深く根付いた寄附文化に基盤を置く(大学もその一部でしかない)巨大な非営利セクターが存在し、投資収益に関してもリーマン・ショック前までは20%台後半から大学によっては30%台、その後も最近に至るまで10~20%台の収益率が期待できたこと、②については、日本の場合、産業界も国内での産学連携には熱心ではないなどの環境的要因があり、短期的に大学経営に大きな貢献をなし得るとは考えにくいためです。②の産学連携に関しては中期、長期的には大きく変わる可能性はありますが、いずれにしても今日、明日のことではありません。また、①に関しても、アメリカの投資環境が悪化しており、昨年から今年にかけてのハーバード大、ペンシルベニア大の運用収益がマイナスになるなどしていて(「イエール大基金、運用成績3.4%のプラス-ハーバード大はマイナス」Bloomberg 2016.9.24)、 投資収益にしても大学自身の努力、能力だけではなくマクロの環境に左右される部分が大きいことを示しています。資金の減少に悲鳴を上げる身としては少しの額でもないよりはずっと良いのですが、短期的に収益の「柱」となることは考えにくいと思われます。

さて、では日本の大学にとっての「効率的な」経営とは何かという問題ですが、収入の多くを占めるのは学費収入と国公立大学における国、自治体からの交付金です。後者の公立大学における引き下げが問題になっているわけですので、問題は前者の学費収入増という事になります。また、支出に関しては人件費支出が国公私立いずれにおいても最大の比率を占めているので、これをどうするかが問題となります。

学費収入を増やす方法としては、①学費値上げや②学生定員増、人件費を引き下げる方法としては①給与等の引き下げや②教職員数の削減などが考えられます。このうち、学費値上げや給与切り下げ等については、数年後に(たとえばリーマン・ショック後のアメリカの州立大学のように)現実の課題となる可能性は否定できませんが、現時点ではそうなっていないこと、実際問題として国立大学並の学費が公立大学の存在意義の一つとなっており、大幅な学費値上げは自己否定につながりかねないことなどから、これもとりあえず検討対象から除きます。

残るのは、学生定員増と教職員の減のいずれか、あるいはその組み合わせという事になります。

今回はその両者を組み合わせた指標としての教員学生比(ST比)を基準として、公立大学における「効率的な」経営を見てみることにしたいと思います。

国公私立のそれぞれのセクター別のST比は、平成27年度学校基本調査によれば、学部学生数/本務教員数で「国立大学:6.9人 公立大学:9.9人 私立大学18.9人」、学部学生数+大学院生数/本務教員数で「国立大学:9.2人 公立大学:11.1人 私立大学19.7人」となっています(平成27年度学校基本調査から筆者算出)。ここでも全体としては国立大学と私立大学の間で、国立大学に準じるという公立大学に多く見られる特徴が見て取れます。

しかしこれまで何度も述べてきたように、公立大学の場合、多様性に富み、個別の大学による違いがきわめて大きいという特色があります。個別公立大学のST比(以後は、学部学生数+大学院生数/本務教員数を使用します)については、公立大学協会のHPに各年度の学校基本調査に基づく数字が掲載されており、そこで確認することができます(厳密には公立大学協会のデータは本務教員から附属病院のそれを除いているため完全に同じではないのですが、数値としては大きな違いは無いので、ここではそのまま使用します)。

この個別公立大学のST比を見ていくと、釧路公立大学(34.8人)、青森公立大学(38.9人)、高崎経済大学(40.2人)、都留文科大学(36.3人)、下関市立大学(33.2人)という5つの公立大学でST比が30を超えています。これは上記の私立大学の平均(19.7人)を大きく超える数値です。

これらの大学に共通するのは、①設置者が都道府県でも政令指定都市でもなく一般市であること、②分野としては社会科学系であること、③比較的小規模な大学であること、の3点です。財政規模の小さい一般市において、大規模私学と同様の社会科学分野での設置自治体財政に負担をかけない「効率的な」大学経営が求められている可能性が高そうです。ことに高崎経済大学、都留文科大学、下関市立大学の場合、設置がそれぞれ1957年、1953年、1962年と公立大学運営の地方交付税交付金単位費用への算入が始まる前であり、地方交付税による補填が無い状況下、事実上、独立採算に近い経営を求められたことが想像されます。

ちなみに最もST比の大きい高崎経済大学の場合、平成27年度の決算報告書を見ると総収入2,916百万円に対して授業料等の独自収入が2,550百万円で総収入に占める割合は87.4%、一方、設置自治体からの運営費交付金は246百万円で総収入に占める割合は8.4%に過ぎません。前回触れたように地方交付税交付金の実際の給付額の計算は複雑なのですが、それでも公立大学運営費相当額として設置自治体に交付された額の多くが大学には渡っていない可能性が高い、言い換えれば設置自治体、ひいては地方交付税交付金に殆ど依存しない大学経営を実現していると言えそうです。

では仮にこのST比、言い換えれば教員人件費と学費収入の関係で最も「効率的な経営」を行っている事例を基準として交付税交付金の単価が変更された場合、どうなるでしょうか?高崎経済大学の場合、設置自治体からの運営費交付金は246百万円でした。これを同じ27年度の在籍学生数4145人で割ると1人当たりでは約59,000円となり、これは同年度の地方交付税交付金における社会科学系の学生一人当たりの単位費用214,000円の3分の1を下回ります。さすがにこれを他の分野、特に医、理、保健などにそのまま適用することは無茶な話と思われますが、社会科学系に限定して考えてみても、これに近い数値にまで交付税交付金の単位費用が引き下げられた場合、設置自治体が他の費用を削って大学に廻しでもしない限り、同様のST比を目指さざるを得なくなる可能性が高そうです(あるいは上で検討対象から除いた授業料の大幅値上げや教職員給与の大幅引き下げなどが俎上に上るかもしれません)。

しかし、このST比が約40人、教員1人当たり学生数が40人というのは、かつての大規模私学のマスプロ教育と同様の数値です(実際には大規模私学の大規模教室での数百人規模の授業という方法ではなく、施設上の制約から通常の国公立大より少ない専任教員と高い非常勤依存率という別の形を取る可能性が高そうですが)。それらマスプロ教育を行っていた大規模私学が批判を浴び、その後ST比の改善に取り組んできたこと、さらに早稲田大学、関西大学などがST比を25人にまで引き下げることを計画として掲げる(「Waseda Next 125」「Kandai Vision 150」)など有力私学で更なる努力が重ねられていることを考えれば、仮にこのような「最も効率的な」ST比を元に交付府税交付金の単位費用が改訂され、さらに設置自治体がそのままその数字に基づく大学運営を行うよう求めた場合、それは公立大学としての存在基盤自体を掘り崩す、例えば「私学と変わらない教育環境しか提供できないなら、いっそ私学にしてしまえ」といった反応を引き起こすことになるかもしれません。

ただ、さすがにそのような方向は(少なくとも当面は)地方6団体等からも反対が出る可能性が高いのではないかとも思われます。実際、例えば三重県の町村長会が(公立大学に限定したものではありませんが)「トップランナー方式」を導入しないよう国・県に要望することを決議したことが地元紙で報じられています(「『トップランナー方式』導入やめて 県町村会、国への要望など承認」 伊勢新聞 2016.8.10)。 

また、高崎経済大学等の事例は、「一般市が設置する」「社会科学系の」「比較的小規模な大学」という条件下でのさらに一部の極端な事例であり、そのまま一般化し公立大学経営の基準とするにはあまりにも問題があります。仮に単位費用の引き下げを行うにしても、分野や設置自治体の財政規模などの環境・条件の違いを無視した変更は行うべきではないでしょう。

さらに、仮に単位費用の大幅な引き下げを行った場合、近年無視できなくなっている公設民営大学、私立大学の公立大学化の潮流にも大きな影響を及ぼすものと思われます。これらは、その地域から高等教育機関が無くなってしまう、あるいは非常に少なくなってしまうという条件下、地元自治体からやむを得ない選択として選ばれるケースが多いのですが、その決断を支えているのが、①地元自治体にとっては交付税交付金がその分増額になり、財政上の負担は(少なくとも当面)あまり大きなものにならずに済みそうに思われる、②大学にとっては私学経常費補助金より地方交付税交付金の方が額が大きく、自治体がそれをそのまま全額かそれに近い額、大学に渡してくれるなら経営の安定と学費の値下げによる学生募集上の競争力強化につながる、③地域住民にとっても、公立化によるブランド価値の向上と共に学費が値下げになることで仮に子弟を入学させた場合の家計上の負担が減少する、といった現行の地方交付税交付金制度による資金的なメリットの存在です。「トップランナー方式」の導入は、それらの基盤を根こそぎひっくり返す可能性があります。この公設民営大学、私立大学の公立大学化の潮流は、地域と大学、自治体と大学の関係に新たな局面をもたらしている側面があるのですが、「トップランナー方式」の導入はさらに一段進んで、望ましいすべての公共サービスを提供することが不可能になったシビアな財政状況下、地域における高等教育の必要性に対して他の公共サービスとの比較でどの程度の優先度を与えるかという問題について、ある意味、身も蓋もない地域としての判断をむき出しにすることになるかもしれません。

さて、だらだらと続けてきたこのシリーズですが、もう一回、特定の大学にしかできないのですが、分かり易くかつ簡単にできそうなもう一つの「効率的な」経営の在り方について紹介して終わりにしたいと思います。

ただ、その前に今年度1回も開かれていない中教審大学分科会大学教育部会がようやく開催されることになったようで、その議題が「大学の事務職員等の在り方について」とのことですので、過去何回か取り上げた「高度専門職」「専門的職員」の在り方との関係で、そちらを先に書くことになるかもしれません。 

いずれにせよ年内はこの稿が最後になると思います。皆様、良いお年をお迎えください。

(菊池 芳明)

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2016年11月30日水曜日

市職員と大学固有職員の住居手当の格差 月額10500円に拡大 第3報: 今年度給与確定交渉結果 固有常勤職員住居手当の取り扱いについて合意

昨日11月29日、当局側と交渉の結果、今年度の給与の取り扱いについて、固有常勤職員の住居手当を除き横浜市人事委員会勧告に基づく横浜市の改定に準じた改訂を行うことで以下の通り合意しました。

  1. 市派遣職員に関しては、①扶養手当について配偶者以外の扶養親族(扶養親族でない配偶者がある場合及び配偶者がいない場合における扶養親族のうち1人を除く)に係る月額手当を500円引き上げ6500円に、②住居手当については、39歳以下(厳密には40歳に達する日以降の最初の3月31日まで)の職員の住居手当を月額18000円から1600円引き上げ19600円に、それぞれ引き上げる。
  2. 固有常勤職員に関しては、扶養手当について市派遣職員と同様の引き上げを行う。
  3. 固有常勤職員の住居手当の取り扱いについては、継続協議とする。
  4. 市派遣職員および固有常勤職員の特別給(ボーナス)については、0.1月分引き上げ年間4.35月分とする。
  5. 期末特別給(ボーナス)の支払いは12月9日(金)、市派遣職員の扶養手当、住居手当、固有常勤職員の扶養手当の改定に関しては、4月に遡って行い12月21日(水)にこれまでの差額分の調整を行う。

前回11月21日の組合ニュース(公開版)では、経営審議会の決定として、法人の財政難を理由として固有常勤職員の住居手当は引き上げを行わないという方針をお伝えしましたが、今回の交渉では、この点につき決定せず、引き続き労使交渉を行うこととなりました。

厳しい状況であることに変わりはありませんが、組合としては引き続き、法人化時の労使合意及び同一職場において同一業務に従事する職員の給与は同一であるべきであるという一般原則に基づき市と同様の引き上げを求めるとともに、すでに現時点で月額8500円の格差が生じており、法人としての常勤固有職員の住居手当の在り方に関する考え方 ― 横浜市において20代、30代の住居手当を昨年度2倍に、今年度さらに引き上げ月額19600円としたことは、若手職員の住居費にかかる負担に対して手当の額が不十分であることを認めその是正を図るという姿勢を取っていることを意味します - を組合に対し示すように求めていきます。

なお、交渉の詳細についてはお近くの職員組合執行委員にお尋ねください。

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2016年11月18日金曜日

市職員と大学固有職員の住居手当の格差 月額10500円に拡大 第2報: 市大における対応方針

前回11月4日のニュースでは、設置者である横浜市の人事委員会の勧告内容について紹介しましたが、今回はそれを受けての公立大学法人横浜市大としての対応についてです。

17日(木)に経営審議会が開催され、市大として以下のような方針が当局側から提案され了承されました。
  1. 概ね横浜市人事委員会勧告に則り改定を行う
  2. 具体的には、月例給については、まず扶養手当のうち配偶者以外の扶養親族(扶養親族でない配偶者がある場合及び配偶者がいない場合における扶養親族のうち1人を除く)に係る月額手当を500円引き上げ6500円に
  3. また、市派遣職員について、39歳以下(厳密には40歳に達する日以降の最初の3月31日まで)の住居手当を月額18000円から1600円引き上げ19600円に
  4. ただし、法人固有職員の住居手当については、法人の財政状況が見通せないため当面改定を見送り、現行の月額9500円で据え置く
  5. 特別給(ボーナス)について、年間0.1月分引き上げ年間4.35月分とする。
  6. 月例給(扶養手当及び市派遣職員の住居手当)については平成28年4月1日に遡って適用、特別給(ボーナス)については、年間引き上げ分を年末支給時に反映
*厳密には公立大学法人の場合、経営審議機関はあくまでも審議機関にすぎず、法人としての決定権は理事長にあり私学の理事会の様な最高意思決定機関ではないのですが、通常、経営審議会に提案される時点で理事長の意向を反映しない内容になることは考えられず、また、理事長という個人単位の決定は、例えば私学の理事会の様な組織による決定と異なり、決定内容・時期が明確に組織全体に示されるとは限らず判らない点が多い(このあたりは個人に最高意思決定権を付与して、かつ意思決定の公示方法が定められていない場合に起こりうる問題の一つと言えるでしょう)ので、ここでは経営審議会の決定を以てとりあえず法人の方針と見なすことにします。
前回の組合ニュースで予測したように固有職員の住居手当については市人事委員会勧告を反映しない方針が明らかになりました。扶養手当に関しては市と同様となりましたが、住居手当の月額格差が1万円以上にまで拡大することは、法人化時の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意に照らして容認できるものではなく、今後、引き上げを求め交渉を行って行きます。

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公立大学をめぐる国家財政システム 終わりの始まり?(2)

前回は、地方交付税制度について、財務省が「トップランナー方式」という「歳出効率化に向けた業務改革で他団体のモデルとなるような改革を行っている団体の経費水準を基準財政需要額の算定基礎とする取組み」を導入しようとしており、「公立大学運営」も平成29年度以降にその対象とされることになっているという情報をお伝えしました。

それを受けて、今回は公立大学における「先進的な自治体が達成した経費水準」の事例について紹介する予定でしたが、その前にそもそも地方交付税交付金を通した公立大学に対する国費投入の仕組については、国立大学、私立大学関係者はもちろん、公立大学関係者にすら良く知らない人がいる(そのこと自体、このシステムが国立大学、私立大学に対する補助金とは大きく性格を異にしていることを反映しているものです)ことから、まず、ごく簡単に地方交付税とその中での「公立大学運営」に関する費用について説明することにし、公立大学における「先進的な自治体が達成した経費水準」の事例については、稿を改めて次回以降でご紹介したいと思います。

さて、地方交付税交付金を通した公立大学への国費投入ですが、国立大学法人運営交付金、私立大学等経常費補助金とは、①そもそも設置自治体に対する交付金であり、各公立大学(法人)に直接交付されるわけではない(投入自体が間接的)、②地方交付税交付金は使途を特定されない一般財源であり、前回紹介した分野別の学生1人当たりの単位費用にしても金額の算定のための単価に過ぎず、設置自治体に単位費用相当額を公立大学に渡す義務はなく、他の用途に使用しても何の問題も無い(自治体には交付金相当額を大学に渡す義務はない)、③地方交付税交付金は、自治体の「想定される収入額」の「必要と想定される支出額」に対する不足分を交付するもので、東京都のように制度発足以降ずっと受け取っていない自治体、横浜市のように交付税交付金が歳入に占める割合はせいぜい数%に過ぎない自治体、歳入の半分以上を交付税に依存する自治体など、実際に交付される額、割合は千差万別である(そもそも想定される収入額との差額分だけが交付されるもの)、などの点で大きく異なっています。

具体的には、各自治体に実際に交付される交付金は、①政府が想定する「基準財政需要額」(「各地方公共団体の合理的かつ妥当な水準における財政需要」総務省「平成27年版 地方財政白書ビジュアル版」)から②政府が想定する「基準財政収入額」(「標準的な地方税収入×基準税率(75%)+地方譲与税等」総務省「平成27年版 地方財政白書ビジュアル版」を引いた額ということになっています。

地方交付税交付金はこのような性格を持つため、必ずしも各公立大学の経営に直結するわけではなく(例えば、首都大学の場合、東京都は地方交付税不交付団体なので地方交付税制度がどうあれ直接的には無関係)、設置団体経由であることから、運営費交付金のうち、一体いくらが地方交付税交付金から大学に入っているのかも分かりません(お金に色は付いていないので)。

しかし、例えば公立大学協会の計算では、基準財政需要額を公立大学の運営に要する経費と見做して実際の各設置自治体の負担額と比較してみた場合、基準財政需要額を上回る額を大学に投じている自治体が42%、ほぼ同程度の額を投じている自治体が13%、下回っている自治体が45%となっており、平均としては概ね地方交付税交付金の公立大学運営に必要と想定するレベルの額が投じられていると考えられます(「公立大学ファクトブック2014」P30)。また、大正大学の水田健輔先生の最近の論文(「公立大学に関する財政負担」『IDE』第580号)でも、公立大学セクター全体としては地方交付税の交付額がほぼ総額大学に支払われていると指摘されています。

このように、地方交付税交付金において定められている単価が(平均あるいはセクター全体としては)公立大学運営に実際にも相当程度反映されているような状況においては、公立大学運営に関する単価が引き下げられると、それにより設置自治体から公立大学への交付金も削減、大学経営に影響する可能性は無視できません。特に設置自治体財政の地方交付税交付金への依存度が高い場合、その可能性は高くなるでしょう。

また、直接的な交付税交付金の金額への影響にとどまらない問題もあります。国立大学がまず政府の必要に応じ設置され、その国立大学による人材供給と社会的需要の差を基本的に私立大学が埋めてきたという日本の高等教育システムの特徴から、公立大学は設置自治体自体からその存在意義を疑問視されたり、財政負担を問題視されたりすることが度々あり、財政悪化時にそれが国立への移管論や廃止論として噴き出してきました。このような土壌が単価引き下げによって刺激され、設置自治体の政策やマインドへ影響するという可能性もあります。

さて、次回は具体的な「先進的な自治体が達成した経費水準」の実例についてご紹介します。公立大学は多くの面で国立大学に準じているはずだという国立大学の視点や、公立大学は税金で国立大学並の経営環境を与えられており不公平だという私立大学の視点からするとびっくりするような数字をお示しすることになります。

(菊池 芳明)

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2016年11月4日金曜日

市職員と大学固有職員の住居手当の格差 月額1万円以上に拡大 - 横浜市人事委員会勧告 -

既に新聞報道等でご承知の方も多いかと思いますが、10月12日に法人の設置者である横浜市の人事委員会から今年度の横浜市の職員給与に関する勧告が行われました。大学に派遣されている横浜市職員の方はもちろん、住居手当の改定問題で度々お伝えしてきたように、法人固有職員についても「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という法人化時の労使合意により、市人事委員会の勧告はその処遇に大きく影響するものです。

市人事委員会の勧告は、国の人事院勧告と同様、民間給与との較差(横浜市の場合は横浜市内の民間事業所が比較対象)に基づき行われるもので、今年度の勧告の内容は以下のようなものです。

  • 月例給について、市内民間給与との較差455円を埋めるため、扶養手当及び住居手当を改定
  • 具体的には、扶養手当については、配偶者以外の扶養者にかかる手当月額を500円引き上げ月6500円に、住居手当については40歳未満の職員の月額18000円を1600円引き上げ月額19600円に
  • 特別給(ボーナス)については、市内の民間支給割合4.36月と市の現行の支給割合4.25月の格差を埋めるため0.1月分引き上げ4.35月に
  • 実施は、月例給については平成28年4月から、特別給については条例の公布日から
月例給について、民間給与との較差を埋めるための方法が支給対象者が限定される手当の改訂であるという点で問題があると思われますが、そのあたりは横浜市の組合にお任せするとして、固有職員の組合員を抱える職員組合として問題になるのは、法人化時の合意の例外として市との較差が発生してしまっており、来年度以降の取り扱いが交渉事項となっている住居手当が今年度も引き上げられることになるという点です。

昨年来、固有職員の住居手当の改訂を巡る問題については度々組合ニュースでも取り上げてきました。

http://ycu-union.blogspot.jp/2015/04/blog-post.html
http://ycu-union.blogspot.jp/2016/06/blog-post.html
http://ycu-union.blogspot.jp/2016/07/blog-post_94.html
http://ycu-union.blogspot.jp/2016/09/blog-post.html

要約すると、法人化時の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意に関わらず、市での「40歳未満の住居手当は9000円から18000円に引き上げ、40歳以上は廃止する」という改訂について、法人固有職員の平均年齢が20代で大半の固有職員が引き上げ対象となり、法人財政が悪化する中、負担が大きいため引き上げは行わないと当局側が主張、これに対して組合側が合意に反するとして交渉を求め、最終的に今年度に関しては、市での9000円には遠く及ばないものの10月以降500円の引き上げを行うという事で決着したものです。

もちろん組合としては満足できる内容ではなく、「法人財政の悪化」を唱えつつ、来年度から始まる第3期中期計画では大規模な組織の新設、改廃が予定されているなど、整合性のとれた合理的な経営戦略が存在するのか、特に固有常勤職員だけでなく教員についても任期制を廃止、人件費が文字通りの固定費となった現在、数年で入れ替わる横浜市OB、市派遣の経営者、管理職に責任ある長期的な経営が可能なのか、疑問を持たざるを得なくなる成り行きでした。

今回の市での改訂により、横浜市職員と大学の固有職員の住居手当の差は月額で1万円を超え10,100円(横浜市19600円、大学9500円)へと拡大します。月額500円の値上げでさえ、1年半余りの交渉、しかも労基署による検査と厳しい指導と重なるという外部的要因もあってようやく勝ち得たものであり、今回の横浜市の引き上げを固有職員の処遇に反映させることは容易なことではないと予想されます。また、扶養手当の取り扱いについてもどうなるか、現段階では不明です。

組合としては、当然、法人化時の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意に拠って引き上げを要求していくことになりますが、27年度の法人決算がどうやら本当に赤字に転落したらしいこと、
http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/corp/finance/pdf/H27FinancialReport.pdf
これまでの交渉経緯からも明らかなように、法人固有職員、少なくとも一般職員の処遇には当局側としては高い優先順位を付けてはいないことから、厳しい交渉になるでしょう。9月9日付の組合ニュース(公開版)でも最後に書いたように、労働組合の交渉力の源泉は組合員数です。固有職員の現状と将来について、これで良いと考えていない人には、改めて組合加入を呼び掛けてこの稿を終わります。

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2016年10月11日火曜日

職場集会開催のお知らせ (10/18、19)

本年度第3回の職場集会を以下の日時で開催します。


福浦キャンパス:10月18日(火)12:05~12:55
(医学研究棟2階 A209号室)

八景キャンパス:10月19日(水)12:05~12:55
(本校舎 職員組合事務室)


固有職員の住居手当問題の詳細と今後の見通しを中心に最近の組合の活動状況の報告、各職場の近況、課題についての情報交換等を予定しています。非組合員の方の参加も歓迎します。飛び入り参加も可能ですが、10月14日(金)までに参加の申込をいただいた方には、組合でお弁当を用意します。

事前申込は、ycu.staff.union(アット)gmail.com までお願いします。

*福浦キャンパスが18日、八景キャンパスが19日です。福浦キャンパスの開催場所もまた変わっています。ご注意ください。

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大学職員基礎講座「第3回:大学職員に必要な“業界知識”(1) -教育関係法令の基礎-」

今年度の大学職員基礎講座の第3回(特別編を入れると第4回)「大学職員に必要な“業界知識”(1) -教育関係法令の基礎-」を開催します。

非組合員の方には申し訳ありませんが、業務の多忙化等に伴い組合員の間でも開催日時の調整が難しくなっていること、今年度は非組合員の参加希望が極めて少ないことから、今回は試験的に組合員のみの学習会として、参加希望者のみで日時と内容を調整し開催することにしました。日程は下記の通り、内容は、①法令の基本的構造、②教育関係の重要法令、③法令解釈の考え方、の3点です。


「大学職員基礎講座」(第3回)
大学職員に必要な“業界知識”(1)-教育関係法令の基礎-」

【日時・場所】
10月18日(火) 18:30~19:00
(金沢八景キャンパス 職員組合事務室)

  • 資料準備の都合上、10月17日(月)までに ycu.staff.union(アット)gmail.com までお申し込みください。
  • 上記のとおり、今回は試験的に組合員のみ対象とさせていただきます。
  • 職員組合事務室の場所については、http://ycu-union.blogspot.jp/2015/09/916.html をご参照ください。
  • なお、大学職員基礎講座は、昨年度開催したものに必要に応じて若干の修正を加えたものです。昨年度受講された方はほぼ同様の内容ですので、ご注意ください。
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公立大学をめぐる国家財政システム 終わりの始まり?(1)

 昨年度は、例の「国立大学人社系廃止通知」や、私学の経常的経費に占める私学経常費補助金の割合が44年ぶりに10%を割ったことが先日の朝日新聞等の報道で明らかになるなど、大学関係者にとっては「とうとう始まった」と思わせられる出来事が相次ぎました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/05/27/1358297_15_1.pdf
http://www.asahi.com/articles/ASJ9L66FSJ9LUTIL01H.html

また、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の創設に関する検討がさらに進み、
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo13/sonota/1373992.htm
その影響もあって、私立大学、高等専門学校、専修学校、それぞれの在り方や振興に関する検討がおこなわれるなど、各種の見直しは高等教育システムのほぼ全領域に渡っています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/073/index.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/067/gaiyou/1370711.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/034/index.htm

そのような中、公立大学に関しても公立大学法人を包摂する地方独立行政法人制度の改革に関する検討が行われ、昨年末に報告書が取りまとめられていますが、内容的には財務や附属学校設置等で国立大学法人より狭くなっている業務範囲を国立大学法人並みとするというもので、公立大学自体について大きな影響を及ぼすものではありませんでした。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/chidoppou/index.html

ところが、来年度の教育予算の関係資料に目を通していて、公立大学というセクター自体の在り方に大きな影響を及ぼしそうな内容が含まれていたことに気が付きました。

今年の5月に財務省の財政制度等審議会で取りまとめられた①「『経済・財政再生計画』の着実な実施に向けた建議」の中に「地方行財政改革関連」として「歳出効率化に向けた業務改革で他団体のモデルとなるような改革を行っている団体の経費水準を基準財政需要額の算定基礎とする取組み(トップランナー方式の導入)を推進」することが書かれており、「公立大学運営」に関しても29年度以降にその対象とすることが明記されています。この内容は、昨年末の経済財政諮問会議の②「経済・財政再生計画改革工程表」に「先進的自治体の経費水準の基準財政需要額算定への反映等」として含まれており、そこからさらに昨年6月の③「経済財政運営と改革の基本方針2015」(閣議決定)の「例えば歳出効率化に向けた取組で他団体のモデルとなるようなものにより、先進的な自治体が達成した経費水準の内容を基準財政需要額の算定に反映すること等によって、地方の歳出効率化を推進する」という記述まで遡ることが確認できます。
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia280518/index.htm
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/report_271224_2.pdf
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/2015_basicpolicies_ja.pdf

②と③については「公立大学」という言葉が直接使われていなかったため見落としていましたが、要するに、地方交付税における算定の基礎となる項目に含まれている「公立大学運営」について、これまでの分野ごとに定められた単価費用(例:人文科学系学生1人当たり441千円)を「効率的な運営」を行っている公立大学の実態に合わせて変更しようとするものです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kouritsu/detail/1284531.htm

もちろん、地方交付税自体は総務省(旧自治省)の管轄であり、財務省によって主導されたこれらの方向がそのまま現実化するとは限りませんが、状況から見ても何の影響も受けずに済むとも思えません。

国家の必要に応じて国立大学が整備され、その国立大学による供給と社会的需要とのギャップを主として私立大学が埋めてきたという高等教育システムの歴史の中、公立大学の存在意義とは何かという問題は公立大学、そして公立大学研究において重大なものであり続けてきましたが、自治体の独自税収と地方交付税交付金によって支えられた、比較的低額の授業料で享受できる国立大学に準じた教育環境がその主要なものであったのは否定できないと思われます。

今回の「トップランナー方式の導入」という方向性は、その環境を支える地方交付税交付金の在り方に大きな変更を迫るものであり、独自財政基盤の弱い大多数の自治体とその設置する公立大学の在り方に重大な変更を迫る可能性があります。

次回は、公立大学における「先進的な自治体が達成した経費水準」のいくつかの実例を紹介し、それが標準的な経営の基準とされた場合の影響について考えたいと思います。

(菊池 芳明)

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2016年9月9日金曜日

固有職員住居手当に関する交渉結果について

前回7月6日付の組合ニュース【公開版】以降、随分間が空いてしまいましたが、7月、8月の間、当局側との間で断続的に交渉は行っていました(非組合員の方には申し訳ありませんが、この間の情報については組合員限定版としています)。

7月6日付組合ニュース【公開版】では、当局側提案はそもそも法人化時の合意の修正になるのだから、まず合意の修正を行いたいという提案を行え、という趣旨の回答を行ったことを報じましたが、その後、当局側からは法人化時の合意そのものの存在や効力を疑問視する反応が返ってきたため、組合としては、(1)法人化時の合意の存在を再確認させることを最優先とし、さらに、当局側が市と同様の改訂が出来ない理由として法人財政の悪化を挙げていることから、(2)法人財政の状況は年度ごとに異なるはずであり、複数年度に渡る措置を現時点で確定的なものとする根拠はないので、来年度以降の措置についても個別に組合との交渉を求める、という2点を重視して交渉を行ってきました。

その結果、8月31日に当局側から最終的に以下のような回答がありました。


【組合要求1】これまでも繰り返し指摘してきたように、法人化時において市労連と市当局間で「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意が行われており、これを変更しようとするのであれば、まず合意の変更について提案、協議を行い両者間での合意形成を図るべきである。「法人化後10年が経過しており、合意は既に無効である」といった当局側の主張は、合意自体に期限が設定されていない以上、正当なものではなく、固有職員の処遇に関しては、法人化時の合意を出発点として、同一職場、同一業務を行う職員間に異なる処遇を適用すべきでないという原則に基づき、労使間の合意によって決定するよう求める。
【当局回答1】固有職員の勤務条件については、「法人発足時においては、基本的に横浜市の勤務条件に準じる」という合意が法人化時において市当局と市労連との間であったと聞いています。

固有職員と市派遣職員の勤務条件については、できる限り同じことが望ましいと考えていますが、昨今の厳しい財務状況や固有職員の住居手当の受給実態を踏まえ、今回はやむを得ず行った提案であるということをご理解ください。

また、提案内容については、職員労働組合と市大法人当局との間で、誠実に話し合ってまいりたい。

【組合要求2】今回提案に関して、職員労働組合及び病院労働組合の双方に対して同時に提案を行いながら、職員組合との合意を待つことなく病院労働組合との合意を先行させたことは、これまでの労使間の慣行に反するものであり、今後はそのようなことは行わないよう求める。
【当局回答2】今回の提案について、職員労働組合とは交渉継続中であると認識しており、それを踏まえて誠実に対応しています。

【組合要求3】今回の当局側提案に関しては、28年度に限ってはやむを得ない側面もあるものと認めるが、29年度以降の取り扱いについては、改めて組合と協議、合意の上で決定すること、および今回の措置はあくまでも住居手当のみに関するものであり、その他の手当及び本給には及ばないものであることを確認するよう求める。
【当局回答3】固有職員と市派遣職員の勤務条件については、できる限り同じことが望ましいと考えていますが、昨今の厳しい財務状況や固有職員の住居手当の受給実態を踏まえ、今回はやむを得ず行った提案であるということをご理解ください。

(人事課長コメント)
なお、固有職員の住居手当については、来年度に向けて、適切な時期に労使での話し合いを再開したいと考えています。


職員組合としては、あくまでも法人化時の合意に基づき固有職員の処遇を行うべきであるという立場に変わりはないものの、既に年度の半ばに達し、今年度に関してこれから当局側の提案を変更させることは難しいこと、最大の懸案であった「固有職員の処遇は市職員に準じる」という法人化時の合意について当局側に再確認させることができたこと、来年度以降の取り扱いについて組合と協議することを約束させ、さらに交渉の場で口頭ではあるものの、「適切な時期での再開」について、11月頃を目途とすることを確認できたことなどから、今年度に関しては当局側提案に基づく10月1日以降の20代、30代固有職員の500円の引き上げと40代以上の3600円の引き下げをやむを得ないものとして認めることとしました。

これにより、一昨年度より2年近く続いてきたこの問題に関する交渉は、今年度の取り扱いに関しては決着したことになります。

組合の主張が全面的に通ったわけではありませんが、当局側の、当初の固有職員については住居手当の引き上げ無し、さらには「法人化時の合意」の否定という状況から出発したこと、職員組合が少数組合であり交渉力には限度があることを考えると充分な成果が得られたものと言えます。

特に「法人化時の合意」を再確認できた点は大きな意義があります。合意自体あるいは合意の効力が否定され、これを組合が受け入れてしまった場合、当局側回答にもあるように「固有職員と市派遣職員の勤務条件については、できる限り同じことが望ましい」という一般論レベルの歯止めしか存在しなくなり、「法人財政」を理由とすれば(一般論では「財政悪化により」というロジックへの抵抗は難しくなります)すべての手当、本給についてどのような措置も俎上に載せることができることになってしまいます。

これは、この間の交渉で組合が最後まで諦めなかったこと、法人化時の合意の当事者である横浜市従本部から適宜必要な支援があったことなどによるものですが、同時にある外的要因の影響も大きかったのではないかと思われます。

7月27日付の組合ニュース【公開版】の「大学職員基礎講座」(特別編)「36協定と労働基準法」の記事に書いたように、6月に金沢八景キャンパスに労基署の調査が入り、相当厳しい指導があった模様で、その「指導」の中には組合との関係に関するものも含まれていたようです。交渉の最終局面にそのような労基署の指導が重なったことが土壇場での当局側のスタンスに影響を及ぼした可能性は高いでしょう。

「法人化時の合意」を再確認することができたので、今後、市職員と異なる処遇の固有職員への適用に関しては、全て組合との交渉事項となるはずです。しかしながら、今回の様な都合のいいタイミングで労基署の調査が入るといった幸運な偶然は期待できるものではなく、基本的には組合の交渉力により結果は大きく左右されることになります。

ですが、書いたように職員組合は少数組合であり、その点での交渉力は極めて限られています。法人化以降、市職員と同等の処遇の維持、常勤職員の任期制の廃止、無数の個別労働問題への対応等、組合の規模を考えれば十分過ぎる成果を挙げてきたと自負していますが、それもそろそろ限界に達しようとしています。

労働組合が交渉等によって勝ち得た成果は自動的に非組合員も含めた全従業員に適用されます。それ自体は組合が不平を並べ立てることではありませんが、そのような、いわば「フリーライダー」の存在が多くなればなるほど労働組合の交渉力は低下し、結局「フリーライダー」でいることによる利益も消滅することになります。

来年度から始まる第3期中期計画においては、大規模な組織の新設や改編が予定されており、それらにより法人財政がさらに悪化する可能性は相当高いと思われます。20代、30代の固有事務職員の月々数千円の手当の引き上げが出来ないほどにまで法人財政が悪化している、という主張とまるで整合性のない話ですが、そういった支離滅裂なロジックを覆すことができるかどうかも、偏に交渉力の程度にかかっています。

ということで、組合への加入を呼び掛けてこの稿を終わります。詳しくは以下をご覧ください。
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2016年8月29日月曜日

大学職員基礎講座「第2回:大学という組織の特色と職員の専門性 -他の組織と何が違うのか?-」

8月3日を皮切りに開催した前回の大学職員基礎講座(特別編)に続いて、第2回となる「大学という組織の特色と職員の専門性 -他の組織と何が違うのか?-」を開催します。

大学という組織は、(一部の株式会社立大学を除いて)営利を目的としない非営利組織の一つであり、非営利組織の中でも教育・研究によって社会に貢献することを目的としています。このような組織としての特性は、その構成員の在り方にも当然反映することになります。今回はそういった組織の構成員の在り方、具体的には職員と教員という2つの集団の特性に焦点を当てます。

詳細は以下をご覧ください。

「大学職員基礎講座」(第2回)
大学という組織の特色と職員の専門性
-他の組織と何が違うのか?-」

【日時・場所】
9月6日(火) 12:15~12:45 金沢八景キャンパス 職員組合事務室
9月6日(火) 18:30~19:00 金沢八景キャンパス 職員組合事務室
  • 資料準備の都合上、9月2日(金)までに ycu.staff.union(アット)gmail.com までお申し込みください。
  • 今回は同日の昼休みと夜の2回開催となります。都合の良い方にお申し込みください。また、申し訳ありませんが、八景キャンパスのみでの開催となります。
  • 組合員以外の方は、資料代として50円をご用意ください。
  • 職員組合事務室の場所については、http://ycu-union.blogspot.jp/2015/09/916.html をご参照ください。
  • 「大学職員基礎講座」については、学内の事務職員に限定せず、広く学内外の方に公開するしています。業務上の知識等を必要とされている学内外の関係者の方、大学や大学職員の現状に関心のある方等のご参加をお待ちしています。
  • なお、大学職員基礎講座は、昨年度開催したものに必要に応じて若干の修正を加えたものです。昨年度受講された方はほぼ同様の内容ですので、ご注意ください。
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福浦キャンパス教室等の施設設備に関する交渉について

6月20日付組合ニュース【公開版】でお知らせした福浦キャンパスの医学部教室等の施設設備に関する交渉については、当局側がなかなか交渉に応じようとしなかったため7月6日に再度要求書を提出し、ようやく交渉が実現しました。

以下、主要な事項についての当局側の回答を紹介します。

  • ・教室で購入した棚、キャビネット等で非固定の状態のものがあり地震発生時に危険
    ⇒ 教室の予算で購入したものは教室費で手当てして欲しい

  • ・教室内に附属している吊戸棚で老朽化により危険な状態のものがある
    ⇒ 重量物を載せていたためにたわんだ状態になっていることが確認できた吊戸棚については、何らかの形で修繕したい

  • ・東日本大震災時に壁に穴が開いたままになっているところがある
    ⇒ 板で塞ぐなど何らかの対応をしたい

  • ・空調設備で結露のため天井から漏水するものや埃のようなものが吹き出るものがある
    ⇒ 以前修理したはずだが、調査して必要なら補修修理を行いたい
このように、教室の費用で購入した設備の耐震対応については教室の負担でということでしたが、それ以外については、何らかの形で対応したいという表明がありました。 ただ、他の問題でもそうですが、充分な予算が確保できないためにあくまでも「可能な範囲」での対応になること、また、こういった教室や共用部分での施設設備の問題点が施設担当に把握されておらず、特に安全衛生委員会による職場巡視で発見された問題についての情報が伝わっていないことなど、構造的な課題の存在も浮き彫りになりました(後者については、安全衛生委員会との情報の共有を図りたいという事でしたので、今後はある程度改善するものと思われます)。まずは状況の把握を行いたいという事でしたので、続報があれば組合ニュースでお知らせしていきます。 にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ

戦略論から見た大学改革への対応 -順次戦略と累積戦略-


(以下は経営学の戦略論ではなく、軍事戦略論に依拠したものです。その手の話題がお嫌いな方はご注意ください)

昨年の国立大学人社系“廃止”通知問題、日本の“奨学金”が実は世界的には特異な「ローン」でしかないという情報がある程度社会的認知を得るようになってきたこと、大学ランキングの上昇を高等教育政策の目標として掲げているにもかかわらず、逆にランキングの低下が起こっていること等、“改革”が無条件に是とされるような風向きに若干の変化が起こり始めたようにも感じます。

これらに関しては、真っ当な研究者による真っ当な論考が色々と出ているので関心のある向きにはそれらを参照いただくとして、この稿はどちらかというと、伝統的な大学の自治や学問の自由といった観点よりも“現実”を重視し、“改革”の必要性を“現実的必要性”から疑わないといったスタンスに対して、多少「空気」も変わり始めたようだしということで、リアリズムの極致ともいうべき軍事戦略の観点からの疑問を示してみようというものです(そういう傾向の人たちが組合のブログなど見るものかと言われればその通りですが……)。

だいぶ以前の話になってしまいますが、今年の連休前の4月26日、朝日新聞に「『まるで詐欺』怒る選定校 『スーパーグローバル大学』構想」という記事が掲載されました。

内容は、例のスーパーグローバル大学構想について、実際の補助金が思っていたよりずっと少ない、事業名が日本語と英語で違っていて翻訳の時に面倒(?)、それに採択されるために計画を「盛って」、結果的に実現が困難な計画が採択されてしまい、今になって青ざめている大学があるなどで、ある程度事情に通じた大学関係者であれば「何を今さら」感の漂うものではありなした。

このうち、今回取り上げるのは「採択されること」を第1目的にした挙句、今頃になって現実の負担を計算して青ざめているというケースについてです。

第2次世界大戦で海軍軍人として対日戦に従軍、海軍大学校での勤務などを経ていくつかの著作を発表したJ.C.ワイリーという戦略家がいます。孫子やクラウゼヴィッツといった、軍事に関心のない人でも目にすることがあるようなビッグネームではありませんが、この人が1967年に発表した「Military Strategy:A General Theory of Power Control」(邦訳名:「戦略論の原点」)の中で、順次戦略(Sequential strategy)と累積戦略(Cumulative strategy)というユニークな概念が提示されています。



順次戦略(Sequential strategy)とは、例えば、太平洋戦争で日本海軍がミッドウェー島からハワイ諸島をめざし、アメリカ軍が有名なガダルカナル島等の南太平洋から中部太平洋、硫黄島、また、フィリピンから沖縄を経て日本本土を目指したように、特定の地域や海域を巡る一つ一つの作戦を「順番に段階を踏んで」重ねること勝利を目指すというものです。

それに対して累積戦略(Cumulative strategy)とは、太平洋戦争でいえば、アメリカの潜水艦による日本の通商路の破壊(商船、輸送船への攻撃)のように、小規模の行動、それもそれぞれの行動は「順番に段階を踏んで」行われるのではなく、バラバラの行動の結果が「累積」し、ある時点でその効果が明らかになるというものです。ボクシングのボディブローのようなものと言えるかもしれません。   

この順次戦略、累積戦略という概念を近年の日本の高等教育政策に対する個別大学の対応に援用してみると、先ほどのスーパーグローバル大学構想や21世紀COE、特色GP、現代GP等のいわゆる競争的事業の獲得を目指す行動は、個別の事業を次々と獲得して大学間競争での生き残りなり優越なりを目指す「順次戦略」的なものと見做すこともできます。

では、累積戦略はというと、例えば教育で言えば、質の向上のための地道な取組み -学生/教員比の改善による少人数教育の増加や教員の負担駒数の削減、TAの増員、FDの充実等―、 特定の事業に依拠しない積み重ねによる社会的評価の向上を目指す行動などが当てはまるでしょう。

そして、ここからはワイリーのオリジナルの概念には出てこない、筆者の勝手な観点になりますが、戦争資源が一定の限られたものであるとすれば、多くの国にとって順次戦略、累積戦略はその双方を無限定に追求できるものではなく、基本的にトレードオフの関係で、どちらにどの程度の資源を割くかを考慮しなければならないものという事になります。

ワイリーの母国であるアメリカの第2次大戦時における国力は圧倒的なものであり、太平洋で順次戦略と累積戦略の双方を全面的に展開し、更には大西洋・ヨーロッパにおいても順次戦略と同時に、ドイツの通商破壊という累積戦略に対するカウンター累積戦略とでもいうべき活動を大規模に展開しています。それに対して、日本の場合、累積戦略は(そもそもそのような戦略思想自体ほとんど持っていなかったというのもありますが)ほとんど行わず、アメリカの累積戦略に対する対応も(資源を持たない海洋国家としては死活的な問題であったにも関わらず)非常に貧弱なものでした。海軍に関する限り、「艦隊決戦」と呼ばれる、ただ一度の決戦で戦争の帰趨が決する、ある意味、順次戦略の極端に純化した状況しか想定していませんでした。ドイツの場合も、海洋に関しては累積戦略に特化し、連合国側でアメリカに次ぐ国力を持つソ連も陸上における順次戦略にその資源のほぼ総てを投入しています。2つの戦略を同時に全面的に展開することができるだけの国力を持っていたのは、全参戦国の中でアメリカだけであり、他の国家群は限定された国力を優先順位に基づいて不均等に配分して戦争を戦ったのです。

その様な観点から言えば、現代GP等、事業が乱立し採択件数も多かった時期に一つでも多く採択されようと手当たり次第に申請した大学にしても、最近の前提条件や審査基準が大学全体を詳細かつ長期にわたって拘束するような事業に「ここが勝負」とばかりに「盛った」申請を全学的な精査、調整もなく申請した大学にしても、自大学が順次戦略と累積戦略の双方を同時に無限定に追求できるほどの資源を持っているのかを正確に認識していたのか、十分な資源を持たないのであれば総ての選択はトレードオフの側面を持つことになるのだということを十分に理解していたのか、疑問を感じます。少なくとも朝日新聞の記事に紹介された採択“されてしまって”青ざめている大学は、そうではない可能性が高そうです(ちなみにワイリー自身は、順次戦略と適切な累積戦略をバランスよく組み合わせることにより最小のコストで最大の効果を得ることができる可能性を示唆しています)。

また、気になるのは、日本の多くの大学が競争的事業のような、単発、一時的な様々な事業に手当たり次第に食いつき経営資源を消耗(=順次戦略、それも不適切な順次戦略への傾注)し、先に記した地道な教育改善のような累積戦略的な取り組みにあたる資源をむしろ減らしてしまっている(=累積戦略の欠如ないし不足)可能性があるという点です。研究に関しても、基盤的研究費を削減し、競争的研究費を取らないと研究がおぼつかないような状況を政策的に作り出し、結果的にそのための事務作業の増加や、中長期的な研究への取り組みを困難なものとしている、という指摘は多く出ていますし、政府の高等教育政策上の最優先目標であるはずの大学ランキングが振るわないのは、そのあたりに原因があるのではないかと疑わせるデータ、分析も出始めています。

http://www.janu.jp/report/files/2014-seisakukenkyujo-uneihi-all.pdf

http://hdl.handle.net/11035/3027

この状況は、太平洋戦争時に、北はアラスカ近くのアリューシャン列島、東はギルバート・マーシャル諸島、南はオーストラリアに隣接するニューギニアやソロモン諸島、西はインド国境までと「行けるところまで手当たり次第に」進み、戦力を分散、空洞化させた歴史によく似ています。

自分たちが始めた太平洋戦争であるはずなのに、戦争に必要な東南アジアの資源地帯の占領以降の戦略、戦争計画は不明確なままだったというのは有名な話ですが、これだけ「戦略」という言葉があふれかえっている現在においても、実は戦略レベルの発想が苦手であるという不思議な傾向は変わっていないようです。

そろそろ、「これだけ皆が右往左往するなら我々は一切動かず、地道な教育や研究の取り組みだけに専念する」と逆張りを宣言する大学が出てきても良いのではと思うのですが。


(菊池 芳明)

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2016年7月27日水曜日

「大学職員基礎講座」(特別編)「36協定と労働基準法」ご案内

5月18日の第1回以降、だいぶ間が空いてしまいましたが、今年度2回目の「大学職員基礎講座」を開催します。予定通りであれば「第2回:大学という組織の特色と職員の専門性 -他の組織と何が違うのか?-」の回になるのですが、急きょ内容を変更し、今回は特別編として実施することにしました。

先月、金沢八景キャンパスに労基署の調査が入りましたが、相当絞られた模様で人事課が管理職に対して36協定の遵守等の呼びかけを行っています。

36協定やその根拠となる労働基準法に関連しては、これまでも組合として様々な取り組みをお伝えし、特に、昨年8月18日の組合ニュース【公開版】では、36協定の全文について紹介するとともに解説を付け加えました。

しかし、日本の多くの職場と同様、「36協定って何?」「労基法って?」「知らないと何か問題があるの?」というのが管理職も含め職員の一般的な反応のようでした。もちろん「知らないと問題がある」のであり、肝心の36協定が適用される一般職員に対しては今回も特にこれといった周知の措置も取られていないようである(各部署任せ?)こともあって、今回、特別編として36協定とその根拠となる労働基準法について取り上げることにしました。

本学の現在の勤務環境では、昼休みの学習会には参加できないという人も多いので、今回は八景と福浦でそれぞれ昼休みと就業時間終了後の2回、開催します。

詳細は以下をご覧ください。

「大学職員基礎講座」(特別編)「36協定と労働基準法」

【日時・場所】
8月3日(水) 12:15~12:45 金沢八景キャンパス 職員組合事務室
8月5日(金) 18:00~18:30 金沢八景キャンパス 職員組合事務室
8月17日(水) 12:15~12:45 福浦キャンパス B441
8月19日(金) 18:00~18:30 福浦キャンパス A209

  • 資料準備の都合上、開催日前々日までに ycu.staff.union(アット)gmail.com までお申し込みください。
  • 組合員以外の方は、資料代として50円をご用意ください。
  • 職員組合事務室の場所については、http://ycu-union.blogspot.jp/2015/09/916.html をご参照ください。
  • 「大学職員基礎講座」については、学内の事務職員に限定せず、広く学内外の方に公開するしています。業務上の知識等を必要とされている学内外の関係者の方、大学や大学職員の現状に関心のある方等のご参加をお待ちしています。
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2016年7月12日火曜日

職場集会開催のお知らせ (7/20、21)

本年度2回の職場集会を以下の日時で開催しますので、お知らせします。


福浦キャンパス: 7月20日(水) 12:05~12:55
(医学研究棟4階 B441号室)

八景キャンパス: 7月21日(木) 12:05~12:55
(本校舎 職員組合事務室)


固有職員の住居手当変更問題及び福浦キャンパスにおける設備等改善要求の情報を中心に最近の組合の活動状況の報告、各職場の近況、課題についての情報交換等を予定しています。非組合員の方の参加も歓迎します。飛び入り参加も可能ですが、7月15日(金)までに参加の申込をいただいた方には、組合でお弁当を用意します。

事前申込は、ycu.staff.union(アット)gmail.com までお願いします。

*福浦キャンパスが20日、八景キャンパスが21日です。福浦キャンパスの開催場所もまた変わっています。ご注意ください。

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2016年7月6日水曜日

固有職員住居手当に関する新提案に対する回答と当局側修正提案について

6月20日付組合ニュース【公開版】でお知らせしたように、既に横浜市においては1年以上前から実施されており、組合が法人化時の合意に基づき早急の実施を求めている固有職員の住居手当の改訂問題について、6月1日付で当局側の提案が示されました。これに対する組合としての回答を6月29日、法人理事長に対して提出しました。

内容は下記の通りです。

2016年6月29日
公立大学法人 横浜市立大学
理事長 二見 良之 様

横浜市立大学職員労働組合 執行委員長
横浜市従大学支部 支部長 三井 秀昭

住居手当見直しに関する新提案について(回答)


6月1日付で提案のあった住居手当見直しに関する新提案について、以下のとおり回答します。


今回の法人固有職員の住居手当を巡る当局側提案は、法人化時における市労連と市当局間の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意、及び当該合意を実体化した「公立大学法人横浜市立大学法人固有職員の勤務条件」における「住居手当」は「市に準じる」とする条項に反するものである。

当局側が、たとえ法人化時の合意内容の一部であれ修正を求めるのであれば、まずその点に関し正式に提案し、過去の経緯を踏まえつつ労使対等の原則に基づき誠実に交渉を行うことが必要であり、その前提を無視して個別項目の変更を企図することは受け入れられない。

既に1年以上にわたるこの問題に関する交渉の間、当局側からは法人化時の労使合意自体についても、一時「承知していない」とする発言が出るなどしており、組合としては労使合意の尊重、誠実な労使関係の維持・構築という労使関係の根幹をなす問題についての当局側の態度に重大な懸念を抱いていることを申し添える。

以上

上記のように、そもそも法人化時の合意の変更なのですから、それを変えたいというのであれば、当然、まず当局側から「合意を変更したい」と申し出て、それについての交渉を行い合意に達したうえでなければ合意の一部であれ全部であれ変更は出来ないはずであり、その基本的な手順を無視して具体的な内容の話を決めようというのはおかしいというのが組合としての第1の見解です。

なお、この回答の提出時に、人事課からは6月1日付の当初提案について、①39歳以下の引き上げと40歳以上の廃止経過措置の開始時期が半年ずれて、廃止経過措置が半年先行していたものを両者とも本年10月からとする、②40歳以上の廃止の経過措置について、経過措置の内容が市の場合と異なっていたものを完全に市と同一にする、という一部修正提案が提示されました。

しかしながら、組合としての第1の見解は上記の通りのものですので、「変える内容」の具体的細部に関する提案内容に左右されるものではありません。

今後、この組合回答に対して、当局側からのリアクションがあるはずですが、固有職員の処遇の根幹に関わる問題でもあり、引き続きこの組合ニュース【公開版】で情報を提供していきます。

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2016年6月20日月曜日

固有職員住居手当に関する新提案について

固有職員の住居手当の市に準じた改訂の要求(30代までの職員の手当を月額9000円から18000円に引き上げ、40歳以上は廃止)については、これまで何回か組合ニュース【公開版】及び組合員にのみ公開する【組合員限定版】を通じてお伝えしてきました。

「嘱託職員の処遇に関する要求書」と法人固有職員(常勤職員・嘱託職員)の処遇に関する重大な問題について 2015年4月9日

職員賃金規程改正に関する職員労働組合の見解 2016年1月22日

固有職員の処遇を巡る交渉状況について 2016年4月8日

上記本年4月8日付の組合ニュース【公開版】で既にお知らせしましたが、昨年度末3月28日に行った団体交渉において、当局側からこれまでのゼロ回答から一転して「2か月以内に新たな提案を行いたい」という回答があり、その「新たな提案」を待っていたところ、6月1日付で新たな提案が示されました。

具体的には、①39歳以下の固有職員に対する支給額を1000円引き上げ、10000円とする、②40歳以上の固有職員については、市と同様の経過措置を経て廃止、③実施時期は40歳以上の固有職員については28年10月から、④39歳以下の固有職員員については、29年度からの実施とし、29年度に関しては経過措置として10000円ではなく9500円として、30年度から10000円とする、というものです。

これは、具体的な内容という観点からは、①市職員と比べ引き上げ額が8000円少なく、②かつ市と異なり即時実施ではない上に、さらに1年間の経過措置を設けている、③にも関わらず40歳以上の廃止については市と同様で、かつ即時実施である、等の点で市職員及び同じ職場で働いている市派遣職員との間に格差を設けるものです。

さらに重大なのは、この市と異なる処遇が法人化時の「固有職員の処遇は市職員に準じる」という労使合意に明確に反するという点です。

当局側はこの提案に対する回答を6月30日までに行うよう求めていますが、法人化時の労使合意、固有職員の処遇の根幹に関わる問題であり、横浜市従本部とも連携し労使合意の誠実な履行を求めていきます。

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福浦キャンパス教室等に関する交渉要求について

5月に行った組合の職場集会で、医学部の教室内外の施設設備の老朽化が進んでいるが充分な対応がなされていない、という訴えがあり、直ちに下記のように交渉の要求を行いました。とりあえず内容についてお知らせします。

2016年5月25日
公立大学法人 横浜市立大学
理事長 二見 良之 様

横浜市立大学職員労働組合(横浜市従大学支部)
委員長 三井 秀昭

福浦キャンパス医学部関連設備に関する協議要求書


市民から期待され信頼される大学教育と運営の確立に向け、日頃の取り組みへのご尽力に敬意を表します。

さて、本学の施設設備等に関しては、金沢八景キャンパスについては、校舎の新設、耐震改修等の整備が進んでいる一方、福浦キャンパスでは、開設後30年近くが経過し老朽化が進んでいます。

ことに医学部の各教室内及び共用部分の設備に関しては、老朽化の結果、教職員の健康・安全上、問題のある状態となっているものもあるようです。教室内設備については、各教室の対応任せにしているケースもあるようですが、教職員の健康と安全の確保に関する第1義的な責任は雇用者である法人にあるはずです。

現在、次期中期に関する検討も進んでいる模様ですが、この問題についての当局側の現状認識と対応に関する方針に関し、組合と協議を行うよう求めます。

以上

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2016年5月14日土曜日

第1回 SDセミナー開催のお知らせ

前回4月18日の組合ニュースでお知らせしたように、昨年度より本格的に実施している組合主催のSDプログラムについて、今年度はさらにゼミスタイルの「SDセミナー」を追加して「大学職員基礎講座」と併せて2本立てとすることにしました。

第1回のSDセミナーについて、日程が確定しましたので、以下の通りご案内します。

SDセミナーは、毎回、メディアで話題になっているものなど、大学に関連する特定のトピックスを取り上げ、あまり構えずにラフな感じで情報の共有や意見交換などを行おうというものです。

第1回は、ある地方大学についての情報を素材に、大学を巡る様々な話題、問題に関し無料で利用できる情報ソースと、その利用にあたっての注意点について取り上げます。

参加を申し込まれた方には、組合からいくつかのネット上の公開情報のアドレスをご連絡しますので、当日までに事前に目を通しておくようお願いします。と言っても、全部で10分もあれば読める程度でたいした量ではありません。

多くの方のご参加をお待ちしています。

6月1日(水) 12:15~12:45
金沢八景キャンパス 組合事務室

6月8日(水) 12:15~12:45
福浦キャンパス A209 教室

*事前申込制です。5月30日(月) 12:00 までに ycu.staff.union(アット)gmail.com までお申し込みください。

*申し込みをいただいた方には、5月30日中に組合から事前に目を通しておくWeb 上の資料のURL をご連絡します。

*昼食については各自ご用意ください。

*八景キャンパスの組合事務室の場所については http://ycu-union.blogspot.jp/2015/09/916.html をご参照ください。なお、耐震工事中のため一時的に案内図の順路からは入れなくなっています。総合研究教育棟に面した西側のドアが入り口になっています。ご注意ください。

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2016年4月23日土曜日

職場集会開催のお知らせ (5/18、19)

本年度第1回の職場集会を以下の日時で開催しますので、お知らせします。

八景キャンパス: 5月18日(水) 12:05~12:55
(本校舎 職員組合事務室)

福浦キャンパス: 5月19日(木) 12:05~12:55
(医学研究棟1階 A103号室)

住居手当変更及び嘱託職員の処遇改善を巡る団体交渉の詳細とその後について等、最近の組合の活動状況の報告、各職場の近況、課題についての情報交換等を予定しています。非組合員の方の参加も歓迎します。飛び入り参加も可能ですが、5月13日(金)までに参加の申込をいただいた方には、組合でお弁当を用意します。

事前申込は、ycu.staff.union(アット)gmail.com までお願いします。

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2016年4月18日月曜日

本年度の学習会(職員組合SDプログラム)の概要と第1回のご案内

 先週お伝えしたように3月31日に大学設置基準が改正され、FDと並んでSDが各大学に対して義務化されることになりました(施行は来年4月1日)。

公立大学の例にもれず、本学もSD、特に大学職員の固有性に係る領域のSDがきわめて弱体で、長年にわたり職場諸要求等で改善を求め続けてきました。昨年度、いつまでも要求だけしていてもらちが明かないということで、組合執行委員のうち2名が大学専門職の学務准教授で大学経営に関連する教育研究経験もあるというアドバンテージを活かし自分たちでやってしまうことにして、「大学職員基礎講座-大学と社会に貢献できるプロフェッショナルとなるために-」という全体タイトルで7回にわたるプログラムを実施しました。具体的な各回のテーマは以下の通りでした。

第1回 大学と大学職員を取り巻く環境
-大変動期の日本の大学-

第2回 大学という組織の特色と職員の専門性
-他の組織と何が違うのか?-

第3回 大学職員に必要な“業界知識”(1)
-教育関係法令の基礎- 

第4回 大学職員に必要な“業界知識”(2)
-“大学改革”の動向- 

第5回 大学職員に必要な“業界知識”(3)
-日本の公立大学の特色と危機- 

第6回 大学職員としての能力向上とネットワーク
-学会、研究会、社会人大学院- 

第7回 公立大学という職場で働き続けるために
-権利と義務とセーフティネット-

今回の大学設置基準改正を受け、今年度はさらにプログラムを拡充します。

全体のタイトルは「職員組合SDプログラム」として、昨年度実施した講義スタイルでの「大学職員基礎講座」に加え、大学に関する特定のトピックについて、あまり構えずにラフな感じで情報の共有や意見交換などを行う「SDセミナー」を新設、2本立ての構成にします。

  • 職員組合SDプログラム
    • 大学職員基礎講座(講義スタイル)
    • SDセミナー(ラフなゼミスタイル)

新設する「SDセミナー」ですが、毎回、メディアで話題になっているものなど、大学に関連する特定のトピックスを取り上げ、情報の共有とそのトピックに関して気楽に議論してみる、というスタイルのものです。とりあえず、第1回については、ある地方大学についての情報を素材に、大学を巡る様々な話題、問題に関し無料で利用できる情報ソースと、その利用にあたっての注意点などを話題にする予定です。日時、場所等が確定次第、この組合ニュース【公開版】でお知らせと募集を行います。平日の昼休みに開催していく予定です。

「大学職員基礎講座」に関しては、大学職員としての必要最低限の知識のインプットという講座の目的からあまり手を入れる余地はないので、この1年の高等教育政策の変化等を反映、修正するだけで基本的に昨年度と同様の内容になります。一般の大学での新採用~経験年数5年程度の層を念頭にレベル設定していますが、特に受講者の特定などは行わないので、上記の昨年度の内容をご覧になって、関心を持った、よく知らないからといった方に参加いただければと思います。こちらは、原則として平日夜の開催にします。

早速ですが、「大学職員基礎講座」の第1回を以下の日程で行います。上述のように、基本的に昨年度のものに最低限の修正をした内容となりますので、昨年度に既にご参加の方にはご注意ください。

なお、「大学職員基礎講座」については、学内の事務職員に限定せず、広く学内外の方に公開することにしました。業務上の知識等を必要とされている学内外の関係者の方、大学や大学職員の現状に関心のある方等のご参加をお待ちしています。

「大学職員基礎講座」
第1回 大学と大学職員を取り巻く環境
-大変動期の日本の大学-

日時:4月27日(水) 18:00~18:40
場所:金沢八景キャンパス 職員組合事務室

*資料準備の都合上、開催日の前々日までに ycu.staff.union(アット)gmail.com までお申し込みください。
*組合員以外の方は、資料代として50円をご用意ください。

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3つのポリシー策定義務化に関する学校教育法施行規則とガイドラインの不整合とその影響

 昨年度中に法令による義務化とガイドラインの策定・公表が行われることになっていた3つのポリシー(ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシー)について、法令の方は学校教育法施行規則の改正が3月31日に、ガイドラインについては4月1日に公表がなされました。ただし、学校教育法施行規則の改正部分の施行は来年度、平成29年4月1日となっていて、この1年は各大学が検討と策定や改訂を行うための猶予期間とされています。

ガイドラインに含まれている内容等、検討は主として中教審の大学教育部会で行われたもので、ガイドライン自体も大学教育部会の名前で発表されています。それに対して学校教育法施行規則は省令なので、当然、主体は文科省になります。

この作成主体の異なる両者を読み比べてみると、記述が見事に異なっている部分があります。

学校教育法施行規則の改正部分、第165条の2では、3つのポリシーの策定単位について「大学は、当該大学、学部又は学科若しくは課程(大学院にあつては、当該大学院、研究科又は専攻)ごとに」となっているのに対して、ガイドラインでは「三つのポリシーは,そのような教育課程(授与される学位の専攻分野ごとの入学から卒業までの課程(以下「学位プログラム」という。))ごとに策定することを基本とすることが望ましいと考えられる。」としつつ、その次で「各大学の実情に応じて,例えば,学位プログラムごとのポリシーとは別に,全学や学部・学科等を策定単位として各ポリシーを策定することも考えられる。」と記してあります。

学校教育法施行規則の方は、法令でよくある「等」すらついていないので、策定単位は明確に「大学、学部又は学科若しくは課程」です。ガイドラインの方は、大学、学部、学科等を単位とすることも「考えられる」が、学位プログラムごとに策定することを「基本とすることが望ましいと考えられる」なので、基本は学校教育法施行規則の規定には含まれていない策定単位を推奨していることになります。

このような不整合はなぜ生じたのでしょうか?

現在の日本の大学設置基準等の関係法令は、学部、学科の様な「教員組織」、「学生の所属組織」、「教育プログラム」の総てが一体化したあり方を前提に設計されています。それに対して、近年、教員組織から教育プログラムを、あるいは学生の所属組織・教育プログラムを分離すべき、という考え方が高等教育論の研究者だけでなく、文科省内部からも出て来ています。これらの背景には、教員組織と教育プログラムが一体のままでは教育プログラムの変更が困難で、特に現在の「大学改革」要求への対応を資源が減少する中で行わなければならないという状況下では両者を切り離さなければどうにもならない、という認識の存在があります。この辺りについては、ちょうどIDEの2016年2-3月号に徳永保元高等教育局長が「学位プログラム制の導入提案に至る経緯とその後」というタイトルで寄稿されたものが載っていて、「学位プログラム」への移行が思うように行かない中、グローバル30等々の競争的補助事業で「学位プログラム」を使用することでその普及と概念の浸透を図った等の裏面の事情が語られています。

さて、今回の大学教育部会での審議経過を見てみると、昨年11月24日の第39回の「資料1-2 三つのポリシーに基づく大学教育の実現に係る主な論点(案)」に「ポリシーの策定単位としては,学位を基本として考えることでよいか。」とあり、さらに次の第40回(12月14日)の「資料1-2 三つのポリシーの策定と運用に係るガイドライン(骨子の素案)」では「三つのポリシーの策定単位については,各大学で適切に判断すべきものであるが,その基本は授与される学位の専攻分野ごとの課程(学位プログラム)とすることが考えられる。」と書かれています。ガイドラインにおける策定単位は学位を基本とする、という方向性が、文科省主導か少なくともその賛同のもとで出てきたこと、その時期は年度末まで3,4か月という、年度末までもうあまり時間のない時期であったことが判ります。

さらに、2月17日の第42回を見ると「資料1-1 「学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン(素案)」と「資料1-3 三つのポリシーの策定・公表に関する学校教育法施行規則の改正案のポイント」が提示されています。前者では策定単位は「教育課程(授与される学位の専攻分野ごとの入学から卒業までの課程(以下『学位プログラム』という。))ごとに策定することを基本とすることが望ましいと考えられる。」としながら、「一方,各大学の実情に応じて,例えば,学位プログラムごとのポリシーとは別に,全学や学部・学科等を策定単位として各ポリシーを策定することも考えられる。」という1項が新たに追加され、後者では「当該大学,学部,学科又は課程及び大学院,研究科又は専攻ごとに」となっています。後者が実際に改正された学校教育法施行規則とは若干異なっていますが、基本的には最終的なものとほぼ同一です。

先に書いたように、現在の法令は「教員組織」、「学生の所属組織」、「教育プログラム」の総てが一体化したあり方を前提に設計されている関係で、全体の改正を伴わずに他の部分との整合を取ろうとすれば学部や学科を単位として記述せざるを得ません。2か月で学校教育法から大学設置基準等々の関連法令すべての再設計ができるわけもなく、仕方なくガイドラインの方に新たに「一方,各大学の実情に応じて,例えば,学位プログラムごとのポリシーとは別に,全学や学部・学科等を策定単位として各ポリシーを策定することも考えられる。」という1項を追加することで、既に検討が進んでしまっているガイドラインと学校教育法施行規則改正案とを辛うじて繋ごうとしたのではないかと推測できます。

この42回については実際に傍聴していたのですが、メモを見ても記憶をたどっても、この問題に関して委員の側から質問や意見は出ていなかったように思います。以前に金子元久先生が現行法令の設計思想との関係での問題を端的に指摘したことがあったと思うのですが、この回は他の議題もあり、また3ポリシーに関しても他に色々と指摘すべことがあり、もうどのみち時間が無いしという事で委員たちからスルーされたのかもしれません。部会自体は3月にもう1回開かれていますが、そちらについても同様でした。

結論としては、3ポリシーの一体的策定の義務化自体は既にスケジュールまで決まっていてやらざるを得ないという制約下、策定単位も含め、これまでの「改革」の延長上にガイドラインの検討を進めたものの、法令改正の方を詰めてみるとやはり「学位プログラム単位」とはできず、残り時間が1か月余ではどちらも変えることは出来ないので、ガイドラインに1項を追加することで両者の関連性を何とか維持、後は解釈も含め各大学に丸投げした、という事なのではないかと思います。文科省も好きでやっているわけではないでしょうが、高等教育論に関してある程度以上の知識があるか、よほど太いパイプでも持っていない限り、受け取る側はどう解釈すべきか訳が判らなくなるのではないでしょうか。あるいは、当然、法令の方が優先するのだから、矛盾することが書いてあるガイドラインはあまり真面目に受け取らなくてもいいと考えるかもしれません。それはそれで問題で、前回のSDの記事でも同じようなことを書きましたが、せめて通知には一言解説があってほしいと思います。

さて、次にこの問題の影響ですが、日本の大学教育の最も基本的な単位と思われる学科と学位が1対1になっている場合は、問題は発生しないと思われます。学科単位で定めれば、それがイコール学位プログラム単位にもなるからです。

問題はこれが1対1でない場合、例えば①1学科の中に複数のディシプリン、教育プログラムが並立、学位も複数ある場合や、②1学科の中に複数のディシプリン、教育プログラムが並立しているにも拘らず、学位は一つだけという場合、③複数学科があるにもかかわらず、教育プログラムとしての差異は小さく、学位は1つだけ、などが考えられます。設置基準の準則化、設置手続きの緩和の結果、組織とプログラムの関係の多様化(以前は教育プログラムであったはずの「コース」が教員組織、学生定員、独立性の強い教育プログラムを持つ事実上の「学科」化しているケースなど)が進んでいるので、ディシプリンと学位と教育プログラムがきれいに一体化しているようなケースはむしろ少数派になっている可能性すらありそうです。学位の数があっという間に700を超えてしまった現状からはあながち懸念とは言い切れないと思います。

具体的な事例を一つ挙げておきたいと思います。

本学、横浜市立大学の国際総合科学部は、法人化時に国際文化学部、商学部、理学部の3学部を1学部に統合したものです。さらに学科についても1学科としてしまいました。ここで学位も例えば「学士(教養)」とか「学士(学術)」とか「学士(学芸)」とかで一本化していれば、良し悪しはともかくとして一貫性はあるものとなっていたはずです。しかし、実際には学科の下が非常に複雑なものとなっています。

まず、国際総合学部国際総合学科の下には「学系」という単位が存在しています。法人化時に同時に作られた研究組織であるらしい「研究院」(現在は「学術院」)には「学群」という単位が置かれているので、筑波大学の名称を借りてきた可能性が大です(私自身は法人化後の赴任で、法人化当時の資料も無くなっているので具体的にどのような検討の結果なのかは判りません)。ただし、筑波と教員組織、教育組織の名称が逆になっている理由は判りません。独自性を主張したかったのか、あるいはどうでも良かったのか……。それに、筑波や法人化時に追随した他の国立大学が「学群」、「学系」等を従来の学部・学科に替わる組織としているのに対し、学部学科を残した上で、わざわざその下に埋め込んだ理由もよく判りません。

学系以下の組織については、法人化時と現在と若干違っているので、現在のものについて学位の対応関係と併せて見ると、以下の通りになります。

1.国際教養学系(旧国際文化学部の流れを汲む人文系中心の学際系)
人間科学コース:学士(国際教養学)
社会関係論コース:学士(国際教養学)
国際文化コース:学士(国際教養学)

2.国際都市学系(法人化後に新設された学際系)
まちづくりコース:学士(学術)
地域政策コース:学士(学術)
グローバル協力コース:学士(学術)

3.経営科学系(旧商学部の流れを汲む)
経営学コース:学士(経営学)
会計学コース:学士(会計学)
経済学コース:学士(経済学)

4.理学系(旧理学部の流れを汲む)
物質科学コース:学士(理学)
生命環境コース:学士(理学)
生命医科学コース:学士(理学)

伝統的な観点から一番判りやすいのは、コースがディシプリン単位で編成され学位も対応している経営科学系でしょう。ただし、普通は学科である組織単位が「コース」であるため、今回の3ポリシー策定義務化との関係では単位をどうするかが問題になります。学校教育法施行規則の規定に則れば学科単位ですが、そもそも国際総合科学部は国際総合科学科の1学科しかないので、それだけでは完全に不十分で、下位の単位についても合わせて別途ポリシーを作成する必要が出てきます。経営科学系の場合、コース単位で見てみると実際にはディシプリン単位の学科相当なので、コース単位までポリシーを作ればきれいなものが作れるでしょう。

それに対して、国際都市学系の場合、基本的にコース単位までおろしても学際系、ただし、まちづくりコースと地域政策コースは学問的には隣接していて、それに対してグローバル協力コースは内容的には他の2者より離れています。しかしながら、学位は学士(学術)で1本です。学位プログラム単位ではポリシーとして情報が不足しそうで、かといってコースはいずれも学際系で、かつコース間の学問的距離が違っています。

国際教養学系と理学系に関しては、人文学、理学という大くくりで構わない、という話になるのであれば、学位もそれぞれ一つですし、学系を基本単位とすることも考えられます。ただし、だとすれば各コースの意義は?といった話が出て来るかもしれません。

さらに、学部全体として、これらの学系ごとに学系-コース-学位の関係性が異なっている点をどうするか、という問題もあります。全体の整合性云々を言いだした場合、収拾がつかなくなる可能性もありそうです。

何かパンドラの箱を覗いたというか、某国産超弩級戦艦の艦橋を眺めているようなというか、これ以上はやめた方が良さそうな気がしてきたので、ここまでにします。今回の学校教育法施行規則とガイドラインに関しては、他にも「一貫性を担保しなければならないのは結局3つなのか、2つなのか」、「数年後に、認証評価に当たってガイドラインが硬直的に適用されることは本当にないのか」、「幾つもの国立大学が法人化時に学部学科に替わり学群、学系、学域、学府等々の組織・名称を採用し、それらは学校教育法においても常例である学部以外の組織として位置付けられているにも拘らず、なぜ今回の施行規則では大学、学部、学科、課程のみとして『等』も付いていないのか」等々、色々疑問はあるのですが、その辺はまた機会があればという事で。

(菊池 芳明)

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2016年4月8日金曜日

固有職員の処遇を巡る交渉状況について

ちょうど1年ほど前になりますが、組合ニュース【公開版】(2015年4月9日)で「『嘱託職員の処遇に関する要求書』と法人固有職員(常勤職員・嘱託職員)の処遇に関する重大な問題について」と題して、法人化時の労使合意-「法人固有職員の処遇は横浜市に準じる」-について、当局側の態度が怪しくなってきたこと、具体的には、横浜市に準じた常勤職員の住居手当の改訂及び嘱託職員の賃金の引上げ等について当局側が市と同様の改定に応じないため交渉を行っていることをお伝えしました。

また、その後、本年1月22日付の組合ニュース【公開版】での「職員賃金規程改正に関する職員労働組合の見解」において、「固有職員の住居手当については既に1年以上、職員組合との間で協議が行われているが決着に至っておらず、この間、当局側による協議の中断も長期間にわたっている。当局側の主張の裏付けとなるデータの提出が約束されているにも関わらず、この点についても未だ十分なデータの提示はなされていない。法人化時の労使合意に関わる問題であり、労使対等の原則に基づき、誠意をもって協議に臨むよう求める。」として間接的に情報をお伝えしてきました。

今回は、これらの問題についての続報になります。

まず、嘱託職員についての要求について、当局側の窓口となっている人事課から組合の要求は受け入れられないとの回答があり、その後、2月29日には固有常勤職員の住居手当に関しても、人事課長から現在の法人財政の状況から要求には応じられない旨の最終回答がありました。さらに、その際、人事課長からは「法人化後10年が経過して、経営審議会の外部委員からも法人独自の給与体系を考えてはどうかと意見が出ている」ので「人事課としても検討をスタートしている」として合意の破棄を示唆する発言がありました。直接的な要求拒否の問題だけでなく、法人化後の労使関係と法人固有職員の処遇の根幹となっていた合意自体が危うくなってきたことから、職員組合としてはこの問題を極めて重視し、法人理事長に対して3月10日付で団体交渉の申し入れを行いました。

若干、解説をしておくと、団体交渉とは、憲法第28条及び労働組合法で保障された労働組合と使用者との間でのいわば「正式な」交渉で、団体交渉において文書化された合意事項は法的拘束力を持つことになります。これに対して、それ以外の法令上の直接の根拠に拠らない交渉は一般的には労使協議と呼ばれています。

労働組合からの団体交渉の申し入れについては、労働組合法の定めにより原則として拒否は出来ないものとされており、当局側も交渉に応じたことから、3月28日、事務局長を当局側代表者として団体交渉を行いました(組合としては当局側代表者として理事長自身の出席を求めていたのですが、本学における労使交渉は理事長ではなく事務局長が対応している、という当局側の主張にとりあえず今回は譲ることとしました)。

具体的な交渉結果ですが、意外なことに最終的に拒否されたはずの住居手当の問題に関して「2か月以内に来年度の考え方について具体的に提案したい」として、改訂拒否はとりあえず今年度に関してのものであると態度が変わり、また、嘱託職員に関しては「制度の全般の見直しを行っており、その中で処遇について考えたい」という回答がありました。

組合としては、労使協議における拒否回答に基づき、700億に近い本学の財政規模からすればごく僅かなレベルの手当の引き上げ(しかも40代以上の廃止と引き換えに20代、30代については引き上げようとするもの)と、絶対額においても本当にささやかな0.23%という嘱託職員の給与引き上げがなぜ出来ないのか、財政難を言いながら一方では組織の新設や人員増を続けるなど、どのような優先順位に基づいて法人経営を行っているのか、新卒、第2新卒に極端に偏った固有常勤職員の採用を行ってきたことの責任をどう考えるのか、また、法人化時の労使合意の重さについてどの様に認識しているのか等、極端なトップダウン型経営を採用している本学における経営者の見解を質したかったのですが、当局側の態度の変更を受け、今回はとりあえず当局側の新たな提案を待ち、交渉を継続することとしました。

当局側の新たな提案があり次第、また、この組合ニュースでお知らせします。

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「専門的職員」に関する検討のその後、SD義務化、大学評価学会第13回全国大会

一昨年から昨年にかけて、中教審大学分科会及び大学教育部会を舞台に行われている「高度専門職」、「専門的職員」に関する検討の内容等について取り上げたことがありました。

「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて
(1)-文科省が制度化を急ぐ理由?-
(2)-「高度専門職」か「専門職」か-
(3)-「高度専門職」から「専門的職員」への変更とメンバーシップ型雇用における「専門性」-

その後1年以上の時間が経過したものの、実のところ検討はほとんど進んでいないという状態なのですが、以下、簡単に前回以降の展開についてご紹介したいと思います。

平成27年2月から始まった第8期中教審ですが、この問題についての実際の検討を委ねられた大学教育部会では、まずは実態の把握を行うべきだという話になり(大学教育部会(第36回))、その後はアンケート調査の内容、項目に関する議論を行っただけで、調査結果が取りまとめられるまでは全く審議は行われませんでした。因みに、この間、部会としての審議は、3つのポリシーに基づく大学教育の改善とそれと連動した認証評価制度の改善にほぼ集中しており、それらの審議の結果は、それぞれについての法令改正、3つのポリシーの策定及び運用に関するガイドライン、認証評価制度の充実に関する審議まとめとして3月末から4月1日にかけて相次いで発表されています。

そして、1月18日に開催された大学教育部会(第41回)において、専門的職員の国内における実態調査の結果の概要(と言っても30P近くあるのですが)に関する報告が行われました。回収数は4大が443校、短大116校で、4大に関しては半数以上、短大に関しては3分の1程度が回答しているので、この種の調査としてはこれまででは最も包括的なものと言えるでしょう。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/1366190.htm

内容については、各自でご覧になっていただく方が良いというか、文科省の説明を借りれば「現状は極めて多様であり、資格・処遇等についても確立していないことが明らかになった」というものなので、要約がなかなか難しいのですが、個人的には目に付いたのは、①予想通り、現時点で多く配置されているのは健康管理、図書、就職・キャリア形成支援で、保健師、カウンセラー、司書などの伝統的に配置されてきた専門職と20年余り続く就職難を反映して急増したキャリアカウンセラー等である、②大教センターの教員、URA等と思われる一部を除くと事務職員が多い、③現在配置している専門的職員のうち、国立、私立では図書に関して重要性の認識が低い、④国立大ではIR、研究管理、国際が今後、専門的職員を配置する分野として重視されている、⑤現状では、専門的職員には学位、実務経験を特に求めず、給与制度も独自のものを用意しないのが大勢、⑥専門性に着目して中途採用を行うケースが多いが、職員の中から育成するケースも多い、辺りでした。

この報告に対して、各委員から発言がありましたが、事務職員出身の委員からは、「調査は、専門的職員が現実には事務職員ベースであることを明らかにした。今後重視するものとしても、特定分野の専門家というよりは、大学全体を分析し提言するような分野に関心がもたれていることが読み取れる」として、当該委員のこれまでの「専門的職員(高度専門職)は事務職員ベースであるべき」という主張に沿った見解が表明されました。これに対して、高等教育論のある委員からは「調査結果からは、専門的職員があまり重視されていないのが現状であることが読み取れる。ジョブ・ディスクリプションも出来ていないのに、この段階で法令に入れるのは問題だ。職員養成の大学院も上手く行っておらず、標準化された短期の履修証明プログラム辺りから始めるべきだ」という意見が出されました。

結局のところ、一昨年度の議論の段階ですでに明らかになっていましたが、日本型ジェネラリストである事務職員と日本では少数派、世界的には標準的存在である特定ジョブに立脚する教員に近い(高度)専門職という、人材としてまったく異なる2種類のいずれを念頭に置くかで考え方が大きく食い違い、専門的職員あるいは高度専門職をそのどちらにするかという形で議論している限り、いつまでも議論は収斂しそうにないように思えます。この点については、過去記事の2回目と3回目で書いた通りなので繰り返しませんが、今回の調査結果に沿って考えれば、IRer、URA等の日本型ジェネラリストである事務職員のローテーションで済みそうもない専門職については、その「必要性」と「採用し、適切な待遇で雇用し続ける人事、財政能力」を持っている国立大学(文科省が整備を要求し、曲がりなりにもそのための予算も措置してくれる)を中心とした一部大学で整備を進め、その他の大学においては、事務職員の(ジョブ・ローテーションの在り方の見直し等を通じた)能力向上で対応していく、といったあたりが当面の現実的な解になるでしょうか。ただし、国立大学等においてジョブ型の専門的職員を「適切な待遇で雇用し続ける」というのは、現状ではかなり怪しいので、正確には「適切な待遇で雇用し続ける(べき)」と書くべきかもしれませんが。

なお、今後については、文科省から「現状は極めて多様であり、資格・処遇等についても確立していないことが明らかになるなどしたため、現時点で新たな職として法令に規定を置くのではなく、現状のより詳細な分析や情報収集、環境整備に取り組む」との提案があり、了承されているので、今年度以降もさらに調査やそれを受けた議論が引き続き大学教育部会を舞台に行われることになりそうです。

もう一つ、混迷の相を深める「専門的職員」の議論とは対照的に、SDの義務化については議論らしい議論もないまま、3月31日というまさにギリギリのタイミングではありましたが、あっさりと大学設置基準の改正が行われ公布されました。ただし施行は1年後の平成29年4月1日からで、各大学はこの1年の間にSDに関する計画等を定め、29年4月1日から実施に移すことが要求されます。

なお、この問題に関連して、2月17日に開催された大学教育部会(第42回)において、委員から「職員には教員、技術職員も含むというが、学長等のトップ層も含まれるのか?」という質問があり、それに対して文科省からは「学長等も含まれる」という答弁が行われています。世界でも冠たるトップダウン型経営形態を法律で強制するという方法まで取ったのですから、そのトップの資質は組織にとって文字通りクリティカルな問題で、人材養成は最重要課題であるはず(正直、順番が逆だろうとは思いますが、やらないわけには行きません)なので、この答弁自体は歓迎すべきものです。しかし、この条文「大学は、当該大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため、その職員に必要な知識及び技能を習得させ、並びにその能力及び資質を向上させるための研修(第二十五条の三に規定する研修に該当するものを除く。)の機会を設けることその他必要な取組を行うものとする。」を読んだだけで、学長だの理事長だの理事だのも対象であるとはふつう思わないのではないでしょうか(BDという別の名称を使う場合もあるわけですし)。文科省が出したはずの通知については見ていないので何とも言えませんが、もし通知に明記されていなければ、その辺りは実際には無かったことになるのでは、という懸念も感じます。審議会の、分科会の、さらに下の部会での答弁でしかないと言われてしまえばそうなのですが、この稿をご覧になっている方には、今回の改正で言う「職員」には学長等の経営陣も含まれる旨、文科省側の答弁があったことをお知らせしておきます。

さて、最後に少し宣伝を。

1月に京都で開催された「大学職員フォーラム2015」で、「『専門的職員』、『高度専門職』をめぐる検討経緯と日本の大学職員の『専門性』」と題して基調報告を行いました。これまでの政策的経緯の概観と、日本型ジェネラリストしての大学職員という観点から「専門的職員」「高度専門職」の在り方を検討したものです。準備不足もあり、あれこれと反省点も多いのですが、主催者である高等教育研究会から来月あたりに発行される「職員ジャーナル」の第19号に当日の内容が掲載される予定です。よろしければご一読ください。
http://www.bekkoame.ne.jp/ha/shes/

また、5月14,15日に北大で開催される大学評価学会第13回全国大会「若者、地域とともに育つ大学 ~北海道から考える~」で、「大学職員と専門的職員――両者の関係と今後の課題」と題して分科会の企画に関わりました(15日午後)。 ほぼ同様の問題意識に立脚したものですが、では、海外大学の実態はどうなのかという点について、大正大の高野篤子先生から「英米の大学職員について -日本との比較的考察」というタイトルでご報告をいただきます。高野先生はその著書『アメリカ大学管理運営職の養成』で、アメリカの大学管理運営職の実態について、恐らく国内唯一の包括的で詳細な研究を発表されていて、今回は、その後の研究を踏まえアメリカに加えイギリスの管理運営専門職の状況について紹介いただく予定です。また、開催校である北大附属図書館の梶原茂寿さんからは「学術情報のオープン化時代に求められる大学図書館職員の専門性」と題して、学術情報の在り方の変化に対応した図書館職員の専門性の行方についてご報告をいただきます。図書館司書は保健師などと並んで、専門的職員だの高度専門職だのが云々されるはるか以前から学内に専門職として確立されていた数少ない存在であり、伝統的な専門職が業務を巡る環境の変化を踏まえどのように変わろうとしているのか、興味深いご発表になると思います。

なお、私自身は企画側なので発表という形ではありませんが、趣旨説明という事で通常の学会発表相当の時間で話をする予定です。「専門的職員」「高度専門職」を巡る政策的経緯については出来るだけ簡潔にして、一つは学会の方向性にも沿った形で、事務職員の地位や能力向上を巡るここ数年の政策的議論が「大学という共同体の一員」というよりは、「トップダウン型経営におけるトップの補助装置」というこれまでの位置づけとは異なる前提から出発しており、その点が事務職員の在り方に影響を与える可能性について、また、日本型ジェネラリストとしての事務職員の「能力」について、可能であれば1月のフォーラムでの発表よりもう少し突っ込んだ話をしたいと考えています(後者については、完全にこれから準備するので間に合うかどうかわからないのですが……)。

大会参加費は、非会員の方で3000円、院生・学生は1000円、懇親会費は4000円(院生・学生は2000円)で、日本高等教育学会、大学教育学会等のこの分野のメジャーな学会に比べるとかなり格安に抑えてあります。興味のある方には、是非ご参加ください。詳細については、下記の学会HPから「第13回全国大会(北海道大学、2016.5.14-15)プログラム)」をご覧ください。
http://www.unive.jp/

(菊池 芳明)

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2016年3月10日木曜日

事務系嘱託職員に関する制度運用の変更について

本学の職員制度については、これまでもその現状、問題点、組合の取組等に関しお伝えしてきました。

大学としては異常に高い退職率、労働契約法の改正による有期雇用から無期雇用への転換権の確立などの影響もあって、固有常勤職員に関しては、一昨年4月に任期制の撤廃が実現し、現在は、残る非常勤職員および大学専門職について任期制廃止の要求を続けているところです。

このうち、事務系嘱託職員に関して新たな動きがありました。

嘱託職員のうち、医療技術系職員については、以前より非常勤職員就業規則第4条第3項の但し書き「第1項の雇用期間は、4回を限度に更新することができる。ただし、職務の性質等特別の事情があり、理事長が必要と認める場合にはこの回数を超えて更新することができる。」を活用して5年以上の継続雇用がなされています。この点について、以前、当局側に対して医療技術系と同様、事務系嘱託職員に対してもこの但し書きを適用するよう要求し交渉を行ったことがありましたが、当局側は「医療技術系とは異なり、事務系は『職務の性質等特別の事情』に該当しない」として拒否し、それ切りとなっていました。

その後、事務系の嘱託職員に関しては、5年が経過し雇止めにあった場合でも、当該の業務が引き続き存在し、嘱託職員の募集が行われる場合は当該職員は再応募することができるという運用上での若干の改善が実現し、現在に至っているのですが、先日、当局側より平成27年度末で雇用期間満了となる嘱託職員について、取り扱いを変更し、これまでは対象を医療技術系に限っていた非常勤職員就業規則第4条第3項の但し書き条項について、事務系嘱託職員についても対象とする旨の説明がありました。
具体的には「現在従事している業務が、特別な資格や経験を有する業務で、採用困難が見込まれる場合、あるいは業務の専門性・継続性の必要性(以下、『職務性質等の特別な事情』という。)がある場合で、これまでの勤務状況が良好なものについては、雇用を更新します。」というものです。

ただし、何が「特別な資格や経験を有する業務」(「要する」の誤り?)や「職務性質等の特別な事情」にあたるのかは明らかではなく、当局側に質しても、統一的な基準は存在せず「所属と人事の判断で行う」という以上の説明は返ってきませんでした。

上記のように、以前、組合が要求していた事項でもあり、それ自体は嘱託職員の処遇に関する改善であり反対する理由は無いのですが、判断基準が不明である点は問題です。統一的な基準が存在せず「所属と人事の判断」で、ある嘱託職員は継続雇用され、ある嘱託職員は雇止めにされるというのでは、人事上の公平性、透明性が危うくなり、要するに上司と人事の腹一つであるという事になれば、強引な「改革」と全員任期制によって荒廃した組織風土にまた新たな問題を生むことになります。

今回、この嘱託職員制度に関する運用上の変更の説明と同時に、労働契約法の改正による有期雇用から無期雇用への転換権の確立に対応して非常勤職員制度の見直しを検討しており、この点について組合ときちんと交渉を行う旨の確認を行いました。今回の運用の変更に伴う人事上の公平性、透明性の問題に関しては、この交渉の中で取り上げていく予定です。

また、この問題で不当な取り扱いを受けたという方は組合までご相談ください。

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「Happiness is Mandatory. Citizen, are you happy? (幸福は義務です。市民、あなたは幸福ですか?)」(PARANOIA)

3月1日頃、大阪大学が獲得したある競争的事業がネット上で「発見」され話題になりました。
http://www.coistream.osaka-u.ac.jp/greeting/index.html

どういう代物かというと、まず事業のHPに「人間活性化によるスーパー日本人の育成拠点 -脳マネジメントで潜在能力を発揮できるハピネス社会の実現-」とあり、ページを順に開いて見ていくと「一人一人が最高に輝く“ハピネス社会”の実現」、「“脳マネジメントで潜在能力を発揮できる社会”」、「ストレスをなくし更なる脳の活性化」等々……。さらには妙なポーズを取ったり落下傘降下したりするスーツ姿のサラリーマンたちも……。
http://www.jst.go.jp/coi/sympo/data/v2_2.pdf

当然、阪大は大丈夫か?等の反応がネット上にあふれました。個人的には、表題の台詞が反射的に浮かんだのですが、数年前にあった中国中央電視台の街頭突撃インタビュー「あなたは幸せですか?」(よりにもよって共産主義国家で……)の時のように、他人事として笑うだけで済ますのは同じ業界にいる人間としてはどうかというのもあって、今回、少し紹介してみることにしました。

まず、ネット上でもいくつも指摘があったように、これらの奇天烈ワードは何も阪大のオリジナルというわけではなりません。このプロジェクトが採択されたCOI(センター・オブ・イノベーション)プログラムの説明会において、事業主である文科省側の担当官の説明資料の中で使用されているものを素直に採用しただけものです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/coi/__icsFiles/afieldfile/2013/04/22/1333731_2.pdf

という次第で、これは大学の自由な創意の果ての笑える事例というのではなく、昨今の大学改革に真面目に最適化した結果の典型的なサンプルなのです(ちなみにプロジェクトを構成する個別の研究自体は普通にまっとうなもののようです)。文科省側が事業の細部まであらかじめ定め、事前に公開し、それに沿ったものでないと採択されない、採択されないと(特に国立大学や有名私大の場合)色々と差し障りがある、というのが、野田政権あたりからの日本の大学に対する各種競争的事業の在り様です。例えば、世間でも話題になったスーパーグローバル大学事業に関しても、予め文科省により詳細な審査要項、審査基準、Q&A等が作成、公開されていて、応募大学はその内容を踏まえて計画と申請書を作成しない限り採択される可能性はないのです。
http://www.jsps.go.jp/j-sgu/download.html

その意味では、「日本の大学は駄目だ、どうしようもない。それに比べてアメリカは~、中国は~、韓国は~」といった政治家、経済人等の発言を疑いも無く信じてしまっている一般の人にこそ拡散してほしい事例であり、どうせなら3月1日ではなく1か月遅れて4月1日に「発見」された方が面白かったかもしれません(阪大の関係者の方、ごめんなさい)。

そういうわけで、このプロジェクトのお笑い部分は恐らく阪大の関係者に責任は無いと思いますが、もう一点、気になるのは、(原因の所在がどこにあるにせよ)このプロジェクトの表紙部分に漂う無邪気な目的合理性(目的の達成のための効率的手段、方法の追求に特化された思考、知性の在り方。目的自体の適否は必ずしも問題としない)の気配です。個別の構成要素は別におかしなものでなくても、目的次第、束ね方次第ではこういうディストピア風味の世界、この場合はブラック企業のユートピアのようなものが出来てしまう、作るのに貢献してしまうわけですが、個別のまっとうな研究からそれを集約した「脳マネジメントの産物であるスーパー日本人による“幸福は義務”社会」へと至る過程に葛藤のようなものが全く表出していません(もちろん、作成した阪大の関係者が本当に何も気にしていないかどうかは分かりません)。

この目的合理性に対して目的自体の在り様、適否を問うのが価値合理性と呼ばれるものですが、昨年騒ぎになった国立大学の人社系“廃止”通知問題(人文学はまさに価値合理性を扱う学問です)や国立大学法人、公立大学法人の中期計画の目標自体が文科大臣や首長によって与えられ、大学法人はその目標を前提に、その実現のための最大限の努力を求められるという大学法人制度の在り様は、まさに近年の日本の「大学改革」が「目的合理性型」改革であることを示しています。今回の騒ぎもまた、そういった側面をブラック・ユーモア的に体現したもののように感じます。
(菊池 芳明)

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2016年1月22日金曜日

職員賃金規程改正に関する職員労働組合の見解

12月に今年度の職員賃金が確定し賃金規程の改訂が行われました。内容自体は、横浜市における地域手当の改正を受けて同様の措置を取るものであり、法人化時の合意に沿ったものとして反対する理由は無いのですが、組合との交渉も無く、一方的に決定のみを「組合に対する情報提供」として伝えるやり方は問題視せざるを得ません。内容的に就業規則の変更に当たるため労基署への過半数代表者の意見書を添付した届出が必要で、八景キャンパスの過半数代表者である教員組合には職員組合の見解を十二分に反映した意見書を作成していただいていますが、一般職員にはその内容を知る機会も無いことから、今回、独自に職員組合としての見解を公表することにしました。

職員賃金規程改正に関する職員労働組合の見解

平成28年1月15日
  1. 今回の改正は横浜市における地域手当の改正に応じ同様の改正を行うもので、法人化時の、市派遣職員のみならず法人固有職員についてもその処遇は市に準じるものとするという労使合意に従った措置として歓迎する。

  2. ただし、賃金規程の改正という労働条件の根幹、また法人化時の労使合意に関わる問題であるにも関わらず、今回、過半数代表者である教員組合および職員の職域を代表する職員組合との間で交渉、協議が一切行われず、決定の事後通告のみとなったことは極めて遺憾である。今後、この種の問題に関しては事前に組合との間で充分な交渉、協議を行うよう求める。

  3. また、今年度の横浜市における給与等の改正の法人への反映の問題のうち、固有職員の住居手当については既に1年以上、職員組合との間で協議が行われているが決着に至っておらず、この間、当局側による協議の中断も長期間にわたっている。当局側の主張の裏付けとなるデータの提出が約束されているにも関わらず、この点についても未だ十分なデータの提示はなされていない。法人化時の労使合意に関わる問題であり、労使対等の原則に基づき、誠意をもって協議に臨むよう求める。
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第7回「公立大学という職場で働き続けるために -権利と義務とセーフティネット-」のご案内

職員組合主催「大学職員基礎講座 -大学と社会に貢献できるプロフェッショナルとなるために-」今年度の最終回となる第7回「公立大学という職場で働き続けるために -権利と義務とセーフティネット-」開催について、ご案内します。

昨年度の固有常勤職員の任期制廃止で若干落ち着いてきたようにも思えるのですが、本学における職員の健康問題やハラスメント、それらに関係すると思われる休職や退職が無くなったわけではありません。

また、この20年の就職難の影響か、そもそも現代の先進国においては組織に所属して働くことというのは「対等な契約関係」であり、古代の専制政治のもとでの様な一方的な身分関係でないというという点を全く意識していない、当然のようにそのような関係の基礎となっている労働契約法や労働基準法などの法律も全く知らないという新採用職員が多くを占めているようにも感じます(そういった問題への対応はブラック企業の忌避という一点に集中しているということかもしれませんが)。

そこで今回は、日本で組織に所属して働くという事が法律にどう位置付けられ、雇用者と労働者がそれぞれどのような権利と義務を負っているのか、労働者が心身ともに健康に働き続けるための法律上の定めにはどのようなものがあるか、心身に不調を抱えた時やハラスメントにあった時など困難な状況に陥った時に、自分を守り健康に働き続けるためにどのよう方法があるか等を取り上げます。具体的には、①労働契約法、労働基準法、労働安全衛生法等の法律、②セーフティネットとしての労働組合、労働基準監督署という2つについて概観したいと思います。

なお、過去の学習会のうち第1回、第2回については、当日資料を
http://ycu-union.blogspot.jp/2015/06/blog-post.html
http://ycu-union.blogspot.jp/2015/07/2.html
でそれぞれ公開しています。第3回から第6回に関しては、開催案内のみ
http://ycu-union.blogspot.jp/2015/06/3.html
http://ycu-union.blogspot.jp/2015/08/2.html
http://ycu-union.blogspot.jp/2015/10/5-3.html
http://ycu-union.blogspot.jp/2015/11/6.html
にアップしてあります。

2月17日(水) 12:15~12:45
金沢八景キャンパス 職員組合事務室

2月10日(水) 12:15~12:45
福浦キャンパス A104教室



* 資料準備の都合上、開催日の前々日までに ycu.staff.union(アット)gmail.com までお申し込みください。

* 事前にお申し込みいただいた方には、組合員・非組合員に関わらず組合でお弁当を用意します。

* 組合事務室は9月16日から本校舎の西側に移転しています。詳しくは http://ycu-union.blogspot.jp/2015/09/916.html をご覧ください。

* 福浦キャンパスの会場が同じ場所がなかなかとれず毎回違っています。 ご注意ください。また、日程についても今回は福浦が先になっています。

* 組合員以外の方は、資料代として50円ご用意ください。


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2016年1月4日月曜日

職員労働組合 2015-16年度活動方針

去る12月11日、今年度の職員労働組合の大会を開催、2015-2016年度の活動方針を以下の通り決定しましたので、ご紹介します。

横浜市立大学職員労働組合・横浜市従大学支部
2015-16年度 活動方針

1.働きやすい職場環境の確保への取り組み

社会環境の激変とそれに伴う大学への要求の多様化、公的助成の削減など日本の大学を巡る環境は年々厳しさを増しています。特に横浜市立大学においては、前市長の下における法人化決定以降、全員任期制の導入、国立大学の比ではない大幅な経費の削減、市OB・市派遣幹部職員への経営権の集中による非効率な業務の増加と現場負担の増大など、非常に不安定な大学経営が続いています。

労働契約法の改正と法人化以降の取り組みの結果、固有常勤職員の任期制は廃止されたものの、それのみで固有常勤職員をめぐる諸問題が解決されたわけではなく、人材育成、人事評価、労働時間等の職場環境に関する多くの問題が残されています。また、法人財政の膨張を支えていた附属病院財政が急速に悪化しつつある中、法人が次期中期も睨んだ職員給与等の固有職員人件費抑制の方向性を取りつつあるのではないかという疑いが強くなってきています。大学に働く職員の職域を代表する労働組合としてこれらの問題に取り組み、法人化時の「固有職員の処遇は市職員に準じる」という労使合意を遵守させるとともに、職員の労働環境の改善、安心して働ける職場の確保に全力を挙げます。

2.組織拡大への取り組み

法人化以降、市派遣職員の引き上げ・退職に伴う組合員の減少が続いていましたが、常勤・非常勤の固有職員の加入により減少に歯止めがかかりそうな様子も見えてきました。とは言うものの、大学にとどまっている市派遣職員は漸次退職を迎え、固有職員の組合員については、事務系職員に関しては、上記1.の様な諸問題が依然として存在しており、嘱託職員・契約職員には雇止めの問題があるなど組合の維持・拡大は依然として容易ではない状況です。組合ニュース【公開版】を通じた情報提供、問題提起、更には、今年度初めて体系的プログラム化して実施した職員基礎講座(全6回中5回まで実施済)等によりプロパー職員の組合に対する信頼・期待は高まっていますが、これを新規組合員の獲得・組織の拡大へとつなげていく必要があります。また、ずらし勤務の導入や業務の多忙化で難しくなっている組合員相互の交流を確保・促進し、組合の基盤を強固なものとします。

3.嘱託職員、契約職員雇止めの廃止への取り組み

この問題については、職員組合の取り組みの結果、任期更新が終了した嘱託職員について、引き続き嘱託職員が必要であると認めた業務に関しては、雇止めになる嘱託職員の再応募を認める等の措置を取るという運用上の変更を勝ち取ることができました。しかしながら、業務の廃止を理由とした雇い止めも発生しており、また、再応募の結果採用された嘱託職員についても給与、賞与、休暇等の処遇がリセットされるという問題点が存在しています。また、個別部署においては、上記の運用上の変更が実際の募集に反映されていない疑いもあります。引き続きこれらの改善を求めていくと共に、常勤職員と同様、雇止め自体の撤廃へとつなげるよう取り組みを進めます。

4.大学専門職の雇用問題への取り組み

大学専門職制度は、国内の大学関係者等の大学職員の高度化(アドミニストレータ化)への要請に対する先進的取り組みとして導入されたものでしたが、法人化直後から大学の経営権を事実上掌握した市派遣幹部職員によって、その趣旨を無視した制度運用が行われ、さらに、契約更新を迎える個別の大学専門職に対して、「大学専門職の廃止が決まった」(学内にはそのような情報は一切明らかにされておらず、事実かどうかすら不明です)などとして一般事務職への身分の変更か退職かを迫るという不当行為が行われ、このような不透明な行為の結果、本学の運営に関する告発本が出版される事態にも至っています。現在のところ組合執行委員でもある大学専門職2名の雇用と身分はとりあえず維持されていますが、昨年度の契約更新時にも不透明な制度運用があり、1年近くが経過した現在も当局側との交渉が続いているなど、職員の高度化や専門化とは相反する人事政策上の動きが続いています。大学専門職自体僅か3名にまで減少させられた中、その身分や業務の安定性の確保、専門職としての評価の問題などの課題は引き続き残っており、今後も取り組みを継続します。

5.コンプライアンスに基づく労使関係確立への取り組み

度重なる交渉や組合ニュース【公開版】等を通じた指摘がある程度の影響を及ぼした模様で、法人化後の数年間の状況に比べれば担当者レベルでの対応に関してはある程度の改善が認められるものの、法人化後、事実上人事権等を掌握する市派遣幹部職員の労働3法、労働契約法を始めとする関係法令、制度等への知識・認識の不足が本学の労使関係の底流を流れており、それが人事制度、制度運用、個別の雇用関係トラブルに大きく影響を与えています。関係法令及びそこで保障された労働者・労働組合の権利の尊重に基づく労使関係の確立を求め取り組みを続けます。

6.横浜市従本部、教員組合等との連携

本学の労働環境は、法人プロパー教職員にとって非常に厳しい状態が続いています。横浜市従本部、教員組合や病院組合等との連携を深めつつ、山積する問題に取り組んでいきます。


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