2016年3月10日木曜日

事務系嘱託職員に関する制度運用の変更について

本学の職員制度については、これまでもその現状、問題点、組合の取組等に関しお伝えしてきました。

大学としては異常に高い退職率、労働契約法の改正による有期雇用から無期雇用への転換権の確立などの影響もあって、固有常勤職員に関しては、一昨年4月に任期制の撤廃が実現し、現在は、残る非常勤職員および大学専門職について任期制廃止の要求を続けているところです。

このうち、事務系嘱託職員に関して新たな動きがありました。

嘱託職員のうち、医療技術系職員については、以前より非常勤職員就業規則第4条第3項の但し書き「第1項の雇用期間は、4回を限度に更新することができる。ただし、職務の性質等特別の事情があり、理事長が必要と認める場合にはこの回数を超えて更新することができる。」を活用して5年以上の継続雇用がなされています。この点について、以前、当局側に対して医療技術系と同様、事務系嘱託職員に対してもこの但し書きを適用するよう要求し交渉を行ったことがありましたが、当局側は「医療技術系とは異なり、事務系は『職務の性質等特別の事情』に該当しない」として拒否し、それ切りとなっていました。

その後、事務系の嘱託職員に関しては、5年が経過し雇止めにあった場合でも、当該の業務が引き続き存在し、嘱託職員の募集が行われる場合は当該職員は再応募することができるという運用上での若干の改善が実現し、現在に至っているのですが、先日、当局側より平成27年度末で雇用期間満了となる嘱託職員について、取り扱いを変更し、これまでは対象を医療技術系に限っていた非常勤職員就業規則第4条第3項の但し書き条項について、事務系嘱託職員についても対象とする旨の説明がありました。
具体的には「現在従事している業務が、特別な資格や経験を有する業務で、採用困難が見込まれる場合、あるいは業務の専門性・継続性の必要性(以下、『職務性質等の特別な事情』という。)がある場合で、これまでの勤務状況が良好なものについては、雇用を更新します。」というものです。

ただし、何が「特別な資格や経験を有する業務」(「要する」の誤り?)や「職務性質等の特別な事情」にあたるのかは明らかではなく、当局側に質しても、統一的な基準は存在せず「所属と人事の判断で行う」という以上の説明は返ってきませんでした。

上記のように、以前、組合が要求していた事項でもあり、それ自体は嘱託職員の処遇に関する改善であり反対する理由は無いのですが、判断基準が不明である点は問題です。統一的な基準が存在せず「所属と人事の判断」で、ある嘱託職員は継続雇用され、ある嘱託職員は雇止めにされるというのでは、人事上の公平性、透明性が危うくなり、要するに上司と人事の腹一つであるという事になれば、強引な「改革」と全員任期制によって荒廃した組織風土にまた新たな問題を生むことになります。

今回、この嘱託職員制度に関する運用上の変更の説明と同時に、労働契約法の改正による有期雇用から無期雇用への転換権の確立に対応して非常勤職員制度の見直しを検討しており、この点について組合ときちんと交渉を行う旨の確認を行いました。今回の運用の変更に伴う人事上の公平性、透明性の問題に関しては、この交渉の中で取り上げていく予定です。

また、この問題で不当な取り扱いを受けたという方は組合までご相談ください。

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ

「Happiness is Mandatory. Citizen, are you happy? (幸福は義務です。市民、あなたは幸福ですか?)」(PARANOIA)

3月1日頃、大阪大学が獲得したある競争的事業がネット上で「発見」され話題になりました。
http://www.coistream.osaka-u.ac.jp/greeting/index.html

どういう代物かというと、まず事業のHPに「人間活性化によるスーパー日本人の育成拠点 -脳マネジメントで潜在能力を発揮できるハピネス社会の実現-」とあり、ページを順に開いて見ていくと「一人一人が最高に輝く“ハピネス社会”の実現」、「“脳マネジメントで潜在能力を発揮できる社会”」、「ストレスをなくし更なる脳の活性化」等々……。さらには妙なポーズを取ったり落下傘降下したりするスーツ姿のサラリーマンたちも……。
http://www.jst.go.jp/coi/sympo/data/v2_2.pdf

当然、阪大は大丈夫か?等の反応がネット上にあふれました。個人的には、表題の台詞が反射的に浮かんだのですが、数年前にあった中国中央電視台の街頭突撃インタビュー「あなたは幸せですか?」(よりにもよって共産主義国家で……)の時のように、他人事として笑うだけで済ますのは同じ業界にいる人間としてはどうかというのもあって、今回、少し紹介してみることにしました。

まず、ネット上でもいくつも指摘があったように、これらの奇天烈ワードは何も阪大のオリジナルというわけではなりません。このプロジェクトが採択されたCOI(センター・オブ・イノベーション)プログラムの説明会において、事業主である文科省側の担当官の説明資料の中で使用されているものを素直に採用しただけものです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/coi/__icsFiles/afieldfile/2013/04/22/1333731_2.pdf

という次第で、これは大学の自由な創意の果ての笑える事例というのではなく、昨今の大学改革に真面目に最適化した結果の典型的なサンプルなのです(ちなみにプロジェクトを構成する個別の研究自体は普通にまっとうなもののようです)。文科省側が事業の細部まであらかじめ定め、事前に公開し、それに沿ったものでないと採択されない、採択されないと(特に国立大学や有名私大の場合)色々と差し障りがある、というのが、野田政権あたりからの日本の大学に対する各種競争的事業の在り様です。例えば、世間でも話題になったスーパーグローバル大学事業に関しても、予め文科省により詳細な審査要項、審査基準、Q&A等が作成、公開されていて、応募大学はその内容を踏まえて計画と申請書を作成しない限り採択される可能性はないのです。
http://www.jsps.go.jp/j-sgu/download.html

その意味では、「日本の大学は駄目だ、どうしようもない。それに比べてアメリカは~、中国は~、韓国は~」といった政治家、経済人等の発言を疑いも無く信じてしまっている一般の人にこそ拡散してほしい事例であり、どうせなら3月1日ではなく1か月遅れて4月1日に「発見」された方が面白かったかもしれません(阪大の関係者の方、ごめんなさい)。

そういうわけで、このプロジェクトのお笑い部分は恐らく阪大の関係者に責任は無いと思いますが、もう一点、気になるのは、(原因の所在がどこにあるにせよ)このプロジェクトの表紙部分に漂う無邪気な目的合理性(目的の達成のための効率的手段、方法の追求に特化された思考、知性の在り方。目的自体の適否は必ずしも問題としない)の気配です。個別の構成要素は別におかしなものでなくても、目的次第、束ね方次第ではこういうディストピア風味の世界、この場合はブラック企業のユートピアのようなものが出来てしまう、作るのに貢献してしまうわけですが、個別のまっとうな研究からそれを集約した「脳マネジメントの産物であるスーパー日本人による“幸福は義務”社会」へと至る過程に葛藤のようなものが全く表出していません(もちろん、作成した阪大の関係者が本当に何も気にしていないかどうかは分かりません)。

この目的合理性に対して目的自体の在り様、適否を問うのが価値合理性と呼ばれるものですが、昨年騒ぎになった国立大学の人社系“廃止”通知問題(人文学はまさに価値合理性を扱う学問です)や国立大学法人、公立大学法人の中期計画の目標自体が文科大臣や首長によって与えられ、大学法人はその目標を前提に、その実現のための最大限の努力を求められるという大学法人制度の在り様は、まさに近年の日本の「大学改革」が「目的合理性型」改革であることを示しています。今回の騒ぎもまた、そういった側面をブラック・ユーモア的に体現したもののように感じます。
(菊池 芳明)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ