2017年8月29日火曜日

法人固有常勤職員給与体系見直し提案に対する組合要求

法人固有常勤職員給与体系見直し問題については、昨年度の1月20日に当局側より提案があり、提案の具体的裏付けとなる各種データの提示が全くない状況から2か月をかけてようやく当局側から提案の根拠となる最低限の情報を引き出した時点で時間切れとなり、4月以降の暫定措置で合意したものの 、その後は非常勤職員制度及び常勤職員の人事考課制度について専ら交渉を重ね、この問題については交渉が再開されないままとなっていました。

しかし、最近になって当局側から「常勤職員人事考課制度の変更提案は給与体系見直し提案の一環であり、その意味で給与体系変更の交渉は続いているという認識だった」「来年度から見直しを行うために8月中に合意したい」という話が出てきました。組合としては、3月末の暫定合意時に当局側から「事務局長が交代することもあり、新局長の方針がどうなるかということもあるので少し待ってほしい」との希望があり、了承して、その後、何も言ってこないので当局側の言う「常勤職員人事考課制度の変更提案は給与体系見直し提案の一環であり、その意味で給与体系変更の交渉は続いている」という認識はなかったのですが、交渉の再開自体には異議はなく、3月末までの、ようやく提案とその当局側の根拠が示されたという段階を受けて、まず組合としての基本的な要求を8月23日、当局側に手渡しました。

組合の基本的なスタンスは、すでに4月20付の組合ニュース(公開版)「住居手当ほか固有常勤職員に関する給与体系変更提案:第6報 2月末以降の交渉及び今後の交渉に当たっての論点について」の「Ⅱ.固有常勤職員給与体系変更問題に関する組合の見解」で明らかにしており、このうち給与体系変更に直接関連する1.~3.までを改めて要求の体裁で取りまとめたものです。


2017年8月23日
横浜市立大学職員労働組合 執行委員長
横浜市従大学支部 支部長 三井 秀昭

法人職員給与体系見直し提案について(要求)

1月20日付で提案のあった人事考課制度見直しに関する提案について、以下のとおり要求します。

  1. 今回の提案と法人化時の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意の関係が不明確であり、この点に関する法人の見解を明らかにされたい。法人化時の合意に対する当局側のスタンスは、一昨年度の住居手当問題以降揺れ続けており、合意の存在自体の否定から現在の有効性の否定、原則としての容認まで一貫性を欠いている。組合としては、①同一業務には同一の賃金が支払われるべきであるという原則、②労使間の重要な合意の変更には説得力のある根拠とこれまでの経緯を踏まえた充分な交渉に基づく新たな合意の形成が必要である、③市職員の給与自体は国家公務員と同様に市内の民間との給与格差に基づいて変動するという明快で合理的な原則に基づいており、これに準じることは原理的にも経営コスト的にも合理的である等の理由から法人化時の合意は可能な限り維持すべきものと考える。

  2. また、仮に当局側が人事給与制度の在り方について法人化時の合意に基づかない運営を考えているのであれば、市内民間事業者の賃金との比較に基づいて決定する横浜市職員賃金に準じるという現在の在り方に代わってどのような原理原則に基づき固有職員の給与等処遇を決定していくのか、明らかにする必要がある。

  3. 当局側は主たる提案理由の一つとして「法人財政の悪化」を挙げている。しかしながら、この4月より始まった第3期中期計画は逆に拡大型の計画であり、第2期中期計画期間後半も含め組織、施設の新増設が相次ぐことになる。施設建設や学部レベルの組織の新設は10年単位での支出を伴うものであり、その累積による支出増は少なくとも10億円単位、100億円を超える可能性もある。現時点で「法人財政の悪化」を理由に給与体系の変更を求めながら、このような経営拡大方針が取られていることは中長期的観点に立った大学経営という点から懸念を禁じ得ない。また、労働組合としては、固有職員人件費、更には教員人件費や学生経費の削減を原資とした経営拡大のごときは当然、受け入れがたい。今回の給与体系の変更提案と現在の法人の経営拡大方針との関係について説明するとともに、法人が経営上の理由から諸経費の削減を行わざるを得なくなる状況に陥った場合、固有職員人件費を他に優先して削減するような行為は行わないよう強く求める。
以上
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2017年8月26日土曜日

人事考課制度見直し提案に対する組合要求への当局側回答

6月30日に固有常勤職員の人事考課制度に関する当局からの変更提案があり、それに対して7月18日付で組合から要求を行いました。

それ以降、当局側と3項目の要求事項について交渉を続けていたのですが、8月22日に当局側より最終的な回答を受け取りました。

回答は以下の通りです。


平成29年8月22日

人事考課制度見直し提案に対する組合要求への回答

組合要求内容当局側最終回答
1.新制度の目的として掲げている「職員のモチベーション向上」に関連し、一般職員による管理職評価を同時に導入すべきである。これは人事考課全体の適切性の担保のためにも有効であると考える。  管理職自らの気づきを促し、人材育成や組織活性化に活用することを目的とする「360 度フィードバック」について、来年度からの導入を視野に入れながら検討してまいります。
2.考課内容について異議がある場合の申し立て制度を整備することが必要である。異議申し立て機関は、学外の、本学や横浜市と利害関係を持たない、人事に精通した複数の外部者を中心として構成されること。  人事考課結果に対する苦情の多くは、本人の自己評価と上司の評価との間で乖離が生じた場合に具体的説明がなされないなど、フィードバックが十分に機能していない場合にあることから、全管理職を対象に実施する人材育成研修等を通じて徹底されるよう周知します。
また、各所属の人事担当課による相談窓口の周知を図るとともに、人事考課に関する相談窓口が効果的に運用されるよう、苦情申出期限の見直しや処理決定期間等の明示化など、人事考課制度の見直しと併せ、検討してまいります。
なお、人事に精通したとしても、外部者は必ずしも本学の人事制度や実態に通じているものではないことから、外部者を中心とした異議申し立て機関については、慎重に考えたいと思います。
3.人事考課制度をより精緻に設計、運用することについては民間企業において多くの先行事例が存在し、少なくともその一部については、実施上の負担に伴う制度の形骸化や構成員の評価に対する不満の高まりなどの問題につながっている。仮に新制度について当局提案通りに実施に移す場合、3年程度の実施の後、その成果、課題について当局・組合側で評価を行い、必要があれば修正等を行うこと。  制度の運用にあたっては、3年を目途に評価・検証を行い、その結果を学内へ公表するとともに、組合からの意見も取り入れながら必要な見直しを検討します。



いくつか解説を加えると、1.については、極端なトップダウン型組織において人件費縮小を前提とした評価制度を実装すると、正確でない評価(そもそもメンバーシップ型雇用において“個人の成果”を正確に測定・評価できるのかという問題もありますが)や人間関係に影響された評価などによる負の影響が大きくなるため、一般職員による管理職評価を導入することにより、それを緩和する目的で要求したものです。

それに対して当局側が検討を表明した管理職に対する「360度評価」は、そのような効果もない訳ではありませんが、直接的にはそのような趣旨のものではなりません。組合が「360度評価」を要求しないもう一つの理由は“コスト”の問題です。大学に“アカウンタビリティ”が持ち込まれて相当な時間が経過しましたが、アカウンタビリティのための評価の負担、トレードオフの関係になることもある改善のための評価の後退等の問題が生じています。法人化以降のトップダウン型組織における弊害は組合としてもいやというほど味わってきたので、その対応は必要なものと考えていますが、「360度評価」については、コストに見合うほどの意義があるのか疑問を持っており、「トップダウン型組織における人件費縮小を前提とした評価制度」の弊害の緩和を優先した要求としています。

2.については、当初、昨年度の給与体系の変更提案時に新たな人事考課制度についても検討するとされていたため、セットで異議申し立て制度も新たなものになると考えて上記のような内容で要求したものです。しかし、当局側にはそのような意図は無く、かつ、回答のように外部者を入れること自体受け入れられないというスタンスであったため、途中で現行の「人事考課に関する相談等」制度の改善へと要求を変更しました。

具体的には、①市よりもはるかに小規模な大学の事務局において、学内の上位者のみで構成された機関へ一般職員が異議申し立てを行うことは心理的に困難、②「一般相談・苦情相談」の処理期間が定められておらず、勇気を出して申し出を行ってもこの段階で店晒しにされる、③本人による申し出の期限が短すぎる(考課結果等開示後の1週間or2週間)、④「考課者」自体が考課に当たるには不適切な人物である場合が想定されていない(パワハラの当事者であるケースなど)として、4項目の改善を求めました(ちなみにこれらは実際に組合に相談等があった事例です)。最終的な当局側の回答は②、③について問題の存在を認め改善を検討するというものになりました。①については、せめて手続き的な透明性や公平性の担保のために、2段階になっている現行制度の2段階目「苦情処理手続き」だけでも1人でいいから外部者を入れるようにと要求しましたが、当局側を翻意させることは出来ませんでした。

3.については、当初の当局側回答にはなかった評価・検証を行う時期の明示、結果の学内への開示について最終的に勝ち取ることが出来ました。

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人事考課制度見直し提案に対する組合回答

上記のような当局側回答を受けて、8月23日、この問題について最終的に組合として回答を行いました。

①問題点は依然としてあるものの、当初予想していたような大幅な変更ではなく、現行制度の延長上にある修正であること、②異議申し立てにおいて外部者を入れること以外については、基本的に組合の要求に近い修正がなされたこと、③特に3年程度を目安として評価・検証とそれに基づく見直しが約束されたため、問題があれば制度の修正も可能であること、以上の理由から、今回は当局側回答の実行を条件として当局側提案を了解したものです。

2017年8月23日
公立大学法人 横浜市立大学
理事長 二見 良之 様
横浜市立大学職員労働組合 執行委員長
横浜市従大学支部 支部長 三井 秀昭

固有常勤職員人事考課制度見直し提案について(回答)

6月30日付で提案のあった固有常勤職員人事考課制度見直し提案について、以下の通り回答します。


今回の当局側の提案内容については、7月18日付要求に示したように組合としては複数の問題点があるものと考えるが、組合の懸念事項に対して概ね対応が約束され、3年を目途とした評価・検証とそれに基づく見直し、及び組合との協議が明確にされたことから、今回の提案内容については基本的に了解するものとする。

8月22日付の組合要求に対する回答事項、特に現在の「人事考課に関する相談等」制度の改善及び3年を目途とした新人事考課制度の評価・検証とそれに基づく見直し、組合との協議については確実に実行されたい。


以上

懸念点という事で以下2点ほど付け加えておきます。

第1に、今回の提案も含めた本学の職員の育成、評価は、基本的に職能資格制度をベースに目標管理、ACPAの大学マネジメント・業務スキル基準表などが混合されて作られているようですが、職能資格制度にしてもACPAの基準表にしても、基本的にまず職場の「仕事」の分析が必要になります。これを「ジョブ」を単位としてやってしまうと日本のメンバーシップ型雇用の働き方と適合しないので、職能資格制度を理論化した楠田丘は、より細かい「課業(タスク)」を単位として各現場で分析すること(「職務分析」ではなく「職務調査」)を提唱しました。それ自体は理に適っているのですが、「職能資格制度」を導入したはずの多くの日本企業では、実際には「職務調査」は実施せずに職能資格制度を導入しました。恐らくは、調査の負荷とメンテ、それに基づく運用のコストを嫌ってのものなのでしょうが、同様に負荷を嫌って制度の“空洞化”に至った場合、人件費抑制を基調とした“成果主義”との組み合わせは評価と分配に関する不満を引き起こす可能性があり、逆に真面目に「職務調査」に取り組み、厳密な評価とそれに基づく配分に取り組めば、それ自体のもたらす負荷が組織の活動を圧迫する懸念があります。これらの問題については交渉の過程で指摘しましたが、交渉段階で人事課に指摘しても担当課レベルで受け入れられるような話でもなく、とりあえずは実施とそれに基づく評価・検証を見守ることにしたものです。

第2に、労働組合の主要な役割は、今回のような従業員に関わるシステム・制度というマクロの枠組みに関して従業員の立場に立って交渉を行うことですが、従業員全体ではなくシステム・制度の中での個別の従業員の問題への対応も重要な役割です(むしろ実際には法人化後、こちらの方が大きなウェイトを占めてきました)。今回の制度については、上記のように問題点は依然としてあるものの、現行の異議申し立て制度の改善と3年程度の実施後の検証・評価及び必要な見直しを約束させることが出来たのでとりあえず実施に同意しましたが、3年程度の間はこの枠組みで動くことになり、それに伴う問題の発生が予想されます。

特に現行の「人事考課に関する相談等」制度については、前述のように少なくとも一部について改善が約束されましたが、それで本当に機能する保証はありませんし、全体として改善されたとしても個別に問題のあるケースが発生することは十分にあり得ます。過去において組合に相談があった事例においては、組合要求に対する当局側回答の解説部分で示した4つの問題点のいずれかにぶつかり、申し立てを断念するか、申し立てても店晒しにされ自然消滅というパターンに終わってしまいましたが、今回は少なくとも当局側が問題の存在を認め、一部については改善が行われることから、組合としても以前よりも交渉の余地が広がることになります。新制度下での人事考課において、「納得できない」「おかしい」と感じた職員の方は組合までご相談ください。

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2017年8月23日水曜日

係長・課長補佐級法人職員の給与体系の見直し提案に対する組合回答

固有常勤職員(一般職員)の人事考課制度に関する当局からの変更提案については、7月19日付組合ニュース(公開版)や説明会等を通じお知らせしてきましたが、その提案があった同じ6月30日付で固有職員の係長・課長補佐級についても制度変更の提案が出ていました。

具体的な変更内容は、昨年度の1月20日付で提案があった固有常勤職員に関するものと同様で、①上位昇給の廃止とそれによって浮いた原資の評価に基づく勤勉手当への振り向け、②下位昇給について、C評価の場合は2号昇給、D評価の場合昇給無しへと変更、というものです。

組合としては、常勤固有職員については、(1月から4月にかけての組合ニュース(公開版)で集中的に報じたように)様々な問題があるとして現在も交渉中ですが、一般職員に比べ給与格差の大きい管理職については一般職員とは扱いが異なるものとして、8月22日付で提案に同意する旨の回答を行いました。

ただし、人事給与制度とその運用に関しては定期的な検証と改善が不可欠であり、その実施と結果について組合に提供することを求めるとともに、提案に含まれていない課長以上の取り扱いについても“適切に”行うべきであるという組合としての見解を表明しました。これは4月20日付の組合ニュース(公開版)で示した固有常勤職員給与体系変更交渉に関する組合の見解にも書いたように、財政難等の問題について、経営責任を負わない一般職員へのしわ寄せが上級管理職や経営者より重くなるようなことがあってはならない、責任の重さは地位に比例するものであるという考えに基づくものです(ちなみにこの原則がおかしくなると、先日NHKが放映したインパール作戦のようなことが起こりやすくなります。何しろ本来責任を取るべき人間が責任を負わなくなり、にもかかわらず権限だけは持っているわけですから)。


2017年8月22日
横浜市立大学職員労働組合 執行委員長
横浜市従大学支部 支部長 三井 秀昭

係長・課長補級法人職員の給与体系の見直し提案について(回答)

6月30日付で提案のあった係長・課長補級法人職員の給与体系の見直し提案について、以下の通り回答します。

今回の当局側の提案内容は常勤固有職員について提案されている内容と同様のものであるが、給与等での格差がある一般職員とはその意味合いが異なるものと考えられることから提案内容については了解する。

ただし、同時に提案されている常勤固有職員の人事考課制度同様に、人事給与制度とその運用に関しては定期的な検証と改善が不可欠であり、これを行うとともに検証結果については組合にも提示するよう求める。また、法人経営の悪化等に伴う給与等、処遇の引き下げについては、一般職員や下級管理職にのみ実施されたり、上級管理職が一般職員や下級管理職よりも軽い引き下げに留まることなどは組織における責任の観点から不適切であり、課長以上についても適切な対応を行うよう求める。

以上

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政府主導型大学再編の始まりと“戦略の醍醐味”(2)

さて、今回は、前回の最後に挙げた「①それが(国大協も書くような)カリフォルニア州立大学システムやフランスの大学共同体のようなものを目指すものなのか、それともそちらは表看板で本当のモデルは別にあるのか」という問題について、ごく簡単にではありますが、書いてみようと思います。

国大協の「高等教育における国立大学の将来像(中間まとめ)」は、国立大学の経営形態の在り方について「アメリカのカリフォルニア大学システムやフランスの複数大学による連合体の成果や課題を検証し、それらを参考にしながら、我が国の状況に合った様々な経営形態の在り方を研究する必要がある」(P31)としています。前者、カリフォルニア州の「カリフォルニア大学」「カリフォルニア州立大学」「コミュニティ・カレッジ」の3層構造とバークレー校、ロサンゼルス校等の10大学から成る「カリフォルニア大学システム」については、あまりにも有名なので省略します。

後者、フランスの「複数大学による連合体」ですが、例えば連携・連合の代表的な枠組みである「PRES」(研究・教育拠点)の場合、2006年に制度化、「地理的に近接する高等教育・研究機関の合意によって設立」され(大場、2014)1 、その目的は「効率(efficacité)、認知度(visibilité)、魅力(attractivité)の向上とされる。PRES の構想発表資料(MEN, 2006)16において高等教育省は、激しい国際競争の下で、高等教育機関が臨界規模(taille critique)を達成することによって高い認知度が得られ、それが魅力をもたらすであろうことを強調している。すなわち,PRES の目的の中に協働による効率向上は含まれているものの、規模拡大によって認知度を高めること、そしてその結果としてフランスの大学の魅力を高めることが主たる目的であることが見て取れる」(同)とされています。

特徴としては、①すべての高等教育機関は、「PRES」及び「連盟体」、「統合」の3つの形態のいずれかを選ぶよう求められた、②高等教育機関だけでなく、研究機関、さらには連携機関として地方自治体や企業も参加できる、③構成高等教育機関だけでなく、「PRES」としても学位を出すことができる等を挙げることができます(「PRES」は2013年、政権交代に伴い見直され、「COMUE」(大学・高等教育機関共同体)という新たな制度が導入されました。「PRES」及び「COMUE」とその周辺情報については広島大学の大場淳先生が複数の論文を書かれているので、詳細はそちらをご参照ください)。

カリフォルニア大学システムが州政府の特定の政策目的への奉仕のために作られたものではない(むしろ逆)のに対して、「PRES」の場合、一定の政策目的に基づき他の2つと併せた3つの選択肢からいずれかを選び参加することを強制、一定の地理的領域に基づく、自治体・企業との連携・協力を制度的に促進する、構成高等教育機関の独自性と学位授与権を始めとする「PRES」としての実体性も持っている等、現在の日本の“大学改革”の文脈に適合しているようにも思えます。

ただし、「PRES」の場合、上でも引用したように「目的の中に協働による効率向上は含まれているものの、規模拡大によって認知度を高めること、そしてその結果としてフランスの大学の魅力を高めることが主たる目的」であり、その点で現在の日本の“大学改革”の一部としての国公私立を超えた大学再編の方向性、特に重大な問題となるであろう「大学セクターの縮小」(専門職大学は除く)、「学士課程入学定員の削減」、「国家の諸活動のうち経済面への直接的効果を基準とした専門分野構成の再編」等との関連性はあまり強くはありません。

その点に関しては、実はすぐ隣の韓国にまさにそのものの先行事例が存在しています。

韓国と日本の高等教育政策を比べると同じ東アジア地域にあることや構造的類似性・政策全般の類似性に起因するものか、非常によく似た傾向を見出すことができます。

いわゆる大学の“構造改革”についても、2004年の「大学構造改革方案」以降、国立大学の縮小、大学の統廃合推進、種別化、定員削減等に着手し、特に朴前政権下では、政府による強力な指導の下、6段階の大学評価に基づく公的資金の配分や入学定員の強制的削減、最低評価を2回受けた場合“退出”を促す等の措置が行われました。この朴前政権による入学定員削減や大学の“退出”は、その第1期期間(2014年~2016年)で予定した約4万人を上回る約4万4千人の入学定員削減を達成しました。また、評価に対応するための個別大学の取り組みは、結果として医系や理工系の充実、人社系・芸術系等の縮小につながり、中には深刻な学内の混乱や対立を生んだ例もあるようです。

この韓国の事例は、「政府による主導下」での「政府の基準に基づく評価」による公的資金配分や定員削減、さらに、その過程で政府が望むような大学のガバナンスの在り方や起業・グローバル化教育等への取り組み、専門分野構成の再編、統廃合などへと各大学を誘導することが可能になるという点で、ここ数年の高等教育政策に、(「政策枠組み」という点でも、具体的な「政策内容」という点でも)非常に親和性が高いように思われます。

ただ、この問題に関して、韓国と日本には一つ大きな違いが存在しています。韓国の大学入学定員は朴前政権がこの政策に着手する直前の2013年で約56万人、それに対して“学齢人口”が2013年の約63万人から2023年には約40万人と急減、韓国の入学定員全体を削減しない限り、例え大学進学率が100%になっても2023年には約16万人の欠員が発生するという状況にありました。それに対して日本の場合、最近各所で見かけますが、文科省の試算では大学進学率が現状より約10%上昇すれば、日本の大学全体としては現在の入学定員が維持可能です。

この点を割り引いて考えると、来るべき「政府主導型大学再編」はフランス型大学連合を表看板に、韓国の大学再編をマイルドにしたものを裏の看板として実行に移されることになるのかもしれません。

(菊池 芳明)

1 大場淳(2014),フランスにおける大学の連携と統合の推進 ─研究・高等教育拠点(PRES)を中心として─,『大学の多様化と機能別分化』広島大学高等教育研究開発センター


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2017年8月11日金曜日

政府主導型大学再編の始まりと“戦略の醍醐味”(1)

現在、常勤固有職員に関連した複数の問題について交渉中ですが、非公式折衝が中心となっていることもありニュースとして公開できる段階にありません。盆明け以降に改めて色々とお伝えすることになると思います。

そういう次第で、相変わらず交渉に追われている状態なのですが、その間にも高等教育政策、高等教育システムに関する重大な動きが続いています。一昨年のいわゆる“国立大学文系廃止通知”の衝撃はなお記憶に新しいところですが、国立大学にとどまらず、国公私立という設置種別を越えた政府主導の、言い換えれば“トップダウンによる”大学再編がとうとう本当に始まろうとしていることを示す出来事が相次いでいます。


3月 中教審諮問「我が国の高等教育に関する将来構想について」:「今後の高等教育の構造の在り方について(中略)国公私の設置者別の役割分担の在り方や国公私の設置者の枠を超えた連携・統合等の可能性なども念頭に置きつつ御検討くださいますようお願いします」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1383080.htm

4月 経済財政諮問会議(第6回):「設置者(国公私立)の枠を超えた経営統合や再編が可能となる枠組みを整備すべき(一大学一法人制度の見直し(国立大学法人)、設置基準の改正等を通じた、同一分野の単科大学間や同一地域内の大学間の連携・統合等)。また、経営困難な大学の円滑な撤退としっかりと事業承継できる制度的な枠組みを検討すべき」(有識者議員提出資料) 「国公私立の枠を超えた連携・統合の可能性の検討」(文科大臣提出資料)    
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0425/agenda.html

5月 私立大学等の振興に関する検討会議「私立大学等の振興に関する検討会議「議論のまとめ」:「例えば各法人の成り立ちや独自性を活かし一定の独立性を保ちつつ緩やかに連携し、規模のメリットを活かすことができる経営の幅広い連携・統合の在り方、国公私の設置者の枠を超えた連携・協力の在り方、事業譲渡的な承継方法など、各私立大学の建学の精神の継承に留意しつつ、より多様な連携・統合の方策について検討していく必要がある
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/073/gaiyou/1386778.htm

6月 国立大学協会「高等教育における国立大学の将来像(中間まとめ)」:「全国の国立大学が、地方自治体との緊密な連携の下に、地域の人材育成と地域の個性・特色を生かしたイノベーションの創出に貢献し、地域の国公私立大学の連携の中核拠点としての役割・機能を果たすことが求められる」「教員養成、理工系人材育成、医師養成等において(中略)当該分野のすべての大学の連携・共同の拠点としての機能を果たすことが期待される」「学部の規模については縮小も検討する必要があるが、進学率が低く、進学者の国立大学の占める割合が高い地域にあっては、更に進学率が低下することのないように配慮すべきである」「国立大学の枠にとらわれず、公私立大学や高等専門学校をはじめとする各種教育研究機関とも連携し、特に地方の国立大学は地域の高等教育機関の中核としての機能を果たすことが求められる」「全都道府県に(中略)国立大学(キャンパス)を置くという基本原則は堅持すべきである」「機能的に重複して保有することとなる資産については、整理・有効活用のほか、再配置を検討することにより、広域的な視野から見た国立大学(キャンパス)の機能強化につなげる必要がある」「複数の地域にまたがって、より広域的な視野から戦略的に国立大学 (キャンパス )間の資源配分、役割分担等を調整・決定する経営体を導入することも検討すべき
http://www.janu.jp/news/teigen/20170615-wnew-teigen.html

8月 国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議(第10回)「国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議「報告書(案)」の概要」:「各地域の今後の教員需要の推移等に基づく入学定員見直し」「近隣の国公私立大学と連携した一部教科の教員養成機能の特定大学への集約」「総合大学と教員養成単科大学など、大学間で教員養成機能を統合
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/077/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2017/08/03/1388638_001_1.pdf

*下線はいずれも筆者


上記のうち、特に重大な意味を持つと思われるのは国大協の「高等教育における国立大学の将来像(中間まとめ)」です。国大協は、国立大学の団体として国、文科省の意向、政策動向を無視することができないと同時に、大学の自治や政府とは異なる“公共性”の観点からその独自性の確保をも志向するという、複雑な立場にあります。

他の3つが政府・文科省の機関であり、その意向が反映されるのは当然であるのに対して、その国大協が「設置者種別を越えた連携」「学部規模縮小の可能性」「各都道府県には国立大学ないしキャンパスを存続」「複数大学にまたがる経営体導入の可能性」を“自発的に”盛り込んだ「グランド・デザイン」を発表したことは重大で、国立大学法人化時と同様に、事実上、政府路線を既定のものと受け入れ、その前提での対応へと舵を切った可能性が高いのではないかと思います。そして、具体的にはその第1段階は「ブロック単位で国立大学を法人統合、ただし、現在のキャンパスは基本的にそのまま維持」というもののようです。

また、国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議の報告書(案)については、最も実行しやすい「国立大学教育学部再編」という領域で、早速現実化のための布石が行われたという事ではないでしょうか(それにしても文書冒頭の「国立教員養成大学・学部はもとより、都道府県・政令指定都市教育委員会、国、関係する国公私立大学、大学及び附属学校の連合組織等におかれては、本報告書が求める趣旨を汲み取り、必ずしも明示的に言及していない対応策も含めて多様な可能性を検討し、可能なものから速やかに実行に移すよう努めていただくことを期待する」というのは、何とも含蓄があるというか、意図を勘ぐりたくなる文章です……)。

大学の再編や大学数の削減等は別に今回初めて出てきたわけではなく、国立大学法人化時にも、それ以降も度々浮上してきたものですが、18歳人口のクリティカルな線までの減少、好転の見込みの立たない財政状況、経済界の圧力等の環境下、上記のような様々な“兆候”は、今度こそ来るべき時が来たということだと考えます。

問題は、①それが(国大協も書くような)カリフォルニア州立大学システムやフランスの大学共同体のようなものを目指すものなのか、それともそちらは表看板で本当のモデルは別にあるのか、②国立大学のみにとどまらない国公私の設置種別を越えた再編・統合とはどのようなものになるのか、③そして個別の大学はどうすべきか、といったあたりですが、それについてはまた稿を改めてという事にしたいと思います(いつになるか、ちょっと自分でもわからないのですが……)。

(菊池 芳明)

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