2017年8月11日金曜日

政府主導型大学再編の始まりと“戦略の醍醐味”(1)

現在、常勤固有職員に関連した複数の問題について交渉中ですが、非公式折衝が中心となっていることもありニュースとして公開できる段階にありません。盆明け以降に改めて色々とお伝えすることになると思います。

そういう次第で、相変わらず交渉に追われている状態なのですが、その間にも高等教育政策、高等教育システムに関する重大な動きが続いています。一昨年のいわゆる“国立大学文系廃止通知”の衝撃はなお記憶に新しいところですが、国立大学にとどまらず、国公私立という設置種別を越えた政府主導の、言い換えれば“トップダウンによる”大学再編がとうとう本当に始まろうとしていることを示す出来事が相次いでいます。


3月 中教審諮問「我が国の高等教育に関する将来構想について」:「今後の高等教育の構造の在り方について(中略)国公私の設置者別の役割分担の在り方や国公私の設置者の枠を超えた連携・統合等の可能性なども念頭に置きつつ御検討くださいますようお願いします」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1383080.htm

4月 経済財政諮問会議(第6回):「設置者(国公私立)の枠を超えた経営統合や再編が可能となる枠組みを整備すべき(一大学一法人制度の見直し(国立大学法人)、設置基準の改正等を通じた、同一分野の単科大学間や同一地域内の大学間の連携・統合等)。また、経営困難な大学の円滑な撤退としっかりと事業承継できる制度的な枠組みを検討すべき」(有識者議員提出資料) 「国公私立の枠を超えた連携・統合の可能性の検討」(文科大臣提出資料)    
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0425/agenda.html

5月 私立大学等の振興に関する検討会議「私立大学等の振興に関する検討会議「議論のまとめ」:「例えば各法人の成り立ちや独自性を活かし一定の独立性を保ちつつ緩やかに連携し、規模のメリットを活かすことができる経営の幅広い連携・統合の在り方、国公私の設置者の枠を超えた連携・協力の在り方、事業譲渡的な承継方法など、各私立大学の建学の精神の継承に留意しつつ、より多様な連携・統合の方策について検討していく必要がある
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/073/gaiyou/1386778.htm

6月 国立大学協会「高等教育における国立大学の将来像(中間まとめ)」:「全国の国立大学が、地方自治体との緊密な連携の下に、地域の人材育成と地域の個性・特色を生かしたイノベーションの創出に貢献し、地域の国公私立大学の連携の中核拠点としての役割・機能を果たすことが求められる」「教員養成、理工系人材育成、医師養成等において(中略)当該分野のすべての大学の連携・共同の拠点としての機能を果たすことが期待される」「学部の規模については縮小も検討する必要があるが、進学率が低く、進学者の国立大学の占める割合が高い地域にあっては、更に進学率が低下することのないように配慮すべきである」「国立大学の枠にとらわれず、公私立大学や高等専門学校をはじめとする各種教育研究機関とも連携し、特に地方の国立大学は地域の高等教育機関の中核としての機能を果たすことが求められる」「全都道府県に(中略)国立大学(キャンパス)を置くという基本原則は堅持すべきである」「機能的に重複して保有することとなる資産については、整理・有効活用のほか、再配置を検討することにより、広域的な視野から見た国立大学(キャンパス)の機能強化につなげる必要がある」「複数の地域にまたがって、より広域的な視野から戦略的に国立大学 (キャンパス )間の資源配分、役割分担等を調整・決定する経営体を導入することも検討すべき
http://www.janu.jp/news/teigen/20170615-wnew-teigen.html

8月 国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議(第10回)「国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議「報告書(案)」の概要」:「各地域の今後の教員需要の推移等に基づく入学定員見直し」「近隣の国公私立大学と連携した一部教科の教員養成機能の特定大学への集約」「総合大学と教員養成単科大学など、大学間で教員養成機能を統合
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/077/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2017/08/03/1388638_001_1.pdf

*下線はいずれも筆者


上記のうち、特に重大な意味を持つと思われるのは国大協の「高等教育における国立大学の将来像(中間まとめ)」です。国大協は、国立大学の団体として国、文科省の意向、政策動向を無視することができないと同時に、大学の自治や政府とは異なる“公共性”の観点からその独自性の確保をも志向するという、複雑な立場にあります。

他の3つが政府・文科省の機関であり、その意向が反映されるのは当然であるのに対して、その国大協が「設置者種別を越えた連携」「学部規模縮小の可能性」「各都道府県には国立大学ないしキャンパスを存続」「複数大学にまたがる経営体導入の可能性」を“自発的に”盛り込んだ「グランド・デザイン」を発表したことは重大で、国立大学法人化時と同様に、事実上、政府路線を既定のものと受け入れ、その前提での対応へと舵を切った可能性が高いのではないかと思います。そして、具体的にはその第1段階は「ブロック単位で国立大学を法人統合、ただし、現在のキャンパスは基本的にそのまま維持」というもののようです。

また、国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議の報告書(案)については、最も実行しやすい「国立大学教育学部再編」という領域で、早速現実化のための布石が行われたという事ではないでしょうか(それにしても文書冒頭の「国立教員養成大学・学部はもとより、都道府県・政令指定都市教育委員会、国、関係する国公私立大学、大学及び附属学校の連合組織等におかれては、本報告書が求める趣旨を汲み取り、必ずしも明示的に言及していない対応策も含めて多様な可能性を検討し、可能なものから速やかに実行に移すよう努めていただくことを期待する」というのは、何とも含蓄があるというか、意図を勘ぐりたくなる文章です……)。

大学の再編や大学数の削減等は別に今回初めて出てきたわけではなく、国立大学法人化時にも、それ以降も度々浮上してきたものですが、18歳人口のクリティカルな線までの減少、好転の見込みの立たない財政状況、経済界の圧力等の環境下、上記のような様々な“兆候”は、今度こそ来るべき時が来たということだと考えます。

問題は、①それが(国大協も書くような)カリフォルニア州立大学システムやフランスの大学共同体のようなものを目指すものなのか、それともそちらは表看板で本当のモデルは別にあるのか、②国立大学のみにとどまらない国公私の設置種別を越えた再編・統合とはどのようなものになるのか、③そして個別の大学はどうすべきか、といったあたりですが、それについてはまた稿を改めてという事にしたいと思います(いつになるか、ちょっと自分でもわからないのですが……)。

(菊池 芳明)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ

0 件のコメント:

コメントを投稿