2018年2月24日土曜日

政府主導型大学再編の始まりと“戦略の醍醐味”(3.5)

余裕全くなしの状態なのですが、もし本当なら日本の高等教育の将来に重大な影響を及ぼしそうなデータが出てきたので、とりあえず紹介だけしておこうと思います。

この稿の(1)でも挙げた中教審諮問「我が国の高等教育に関する将来構想について」ですが、大学分科会の下部の将来構想部会と制度・教育改革WGで検討が行われ、年末の12月28日付(実際に文科省HPに掲載されたのは年明けでしたが)で「今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理」が将来構想部会の名で公表されています。

その後も検討が進められているわけですが、2月21日の将来構想部会で「大学への進学者数の将来推計について」という資料が提示されました(ただし、当該資料は消されています。一時的なものなのかは判りません)。

内容については新聞各紙で一部が紹介されていますが、諮問の「概ね 2040年頃の社会を見据えて,目指すべき高等教育の在り方やそれを実現するための制度改正の方向性などの高等教育の将来構想」に基づき、2040年における県別、男女別に大学進学者数の推計を行ったものです。全体の数値については、報道にも出ていますが、2017年の約63万9千人から2040年は約50万6千人へと約12万3千人の減となるというものです。

ただし、試算方法の詳細については報道で触れられていません。

では、どのような条件設定で推計したかと言うと、①2014年から2017年の都道府県別、男女別の大学進学率の伸び率によって2040年まで進学率が上昇するとして推計、②男性の進学率が2017年度と比較して5ポイント以上上回った場合、そこで進学率は据え置き、③女性の進学率が男性を上回った場合、以降、男性の進学率と同値に、④進学率の伸びがマイナスの場合、2017年の進学率を維持、というもので、そもそも進学率が現在より5ポイント以上上回ることは無いという前提での推計です。このため大学進学率の推計も2017年の52.6%が2040年の57.4%と4.6ポイントの伸びにとどまるとされています。また、留学生、社会人学生数について、それぞれ2020年時点で現在より約2000人増、2022年で現在より約4000人増で18歳人口減による進学者数の減を補うには到底足りないとするものでした。

この推計について、委員からは「高専、短大が含まれていないが」、「パートタイム学生が増えるのでは」、「専門職大学で増える分は?」、「地方には増える余地がある筈」等々の意見、疑問が出たものの、部会長から「現状、専門学校を含め進学率約80%でこれ以上増える余地はない。あとは中での配置換えだけ。大枠は変わらない」という発言があり、同様に「もうこれ以上、細かい数字を言っても仕方ない」といった発言が2人の委員から続き、次回から叩き台を示して議論するという方向性が示され終わりました。

問題点を幾つか指摘しておきます。

第1に、進学率が5ポイント以上は上昇しないという仮定の根拠が説明されていません。

第2に、部会長の「現状、専門学校を含め進学率約80%でこれ以上増える余地はない。あとは中での配置換えだけ。大枠は変わらない」という発言自体はその通りかと思いますが、ここで問題になっているのは高等教育機関全体への進学率ではなく「大学」への進学率なので、「中での配置換え」は(実際に近年の大学進学率の上昇は短大からのシフトによる部分が大きいことを考えても)大きな意味を持ちます。と言っても、「中での配置換え」の数字を推定するのは難しい上に「専門学校からのシフト」など議論できるものではないでしょうから、政治的にも現在の高等教育各セクター間の異動は無いものとせざるを得ないというのもうなずけるところはありますが、現実離れした想定という問題は残ります。その条件では現在の入学定員に比べ約12万人もの定員割れが生じるという結論からすればなおのことです。

第3に、仮に、これまでに出されている「進学率が現状と同じとした場合」、「進学率が現在より10ポイント上昇する場合」などの試算についてはこれ以上検討せず、今回の試算だけに基づき今後の政策を検討することになった場合、約12万人もの定員割れを放置するという話にはならないでしょうから、欧米では類例のない「政府によるトップダウンの大学整理」へと舵を切る可能性が高くなります(そういえば明治時代にはありました)。ここ数か月、高等教育政策を事実上決定している官邸の「人生100年構想会議」の2月8日の第5回での総理の発言、「概ね以下の御意見を頂きました。(中略)少子化時代を迎え、国公私の枠を超えた大学の連携・統合を可能とする制度や、撤退・事業承継の制度的仕組を検討すべき。(中略)文部科学大臣には(中略)以上の論点について検討し、本構想会議に検討経過・結果をご報告いただき、そしてこの場で再度議論したいと考えております」もその方向性を示唆しています。

実はこのような「政府によるトップダウンの大学整理」は、韓国において2014年より着手され、現政権下においても一部修正の上、継続されているものです。この稿の(2)で「来るべき『政府主導型大学再編』はフランス型大学連合を表看板に、韓国の大学再編をマイルドにしたものを裏の看板として実行に移されることになるのかもしれません」と書いたのですが、本当にそうなりそうな気配になってきました。
https://ycu-union.blogspot.jp/2017/08/blog-post_23.html

その韓国の「構造改革政策」ですが、具体的には政府の定める基準により各大学を評価、「最優秀」~「退出」の6段階とし、「最優秀」以外の大学は評価レベルに応じ定員削減や“退出”を促すことになっています。2014年から2022年までの9年間で入学定員16万人の削減を目指し、前政権下での2016年までの3年間で目標の4間人を上回る4万4千人の削減を実現しました。分野的には理工系、医系を重視、人社系や教育、芸術が削減の対象となり、結果として構造的な再編成を進行させ、元々あった海外進学志向をさらに進め、国内進学率の低下につながっている模様です。韓国に比べ、“削減”しなければならない定員数がある程度少ないこと、9年で削減しようとしている韓国に比べ期間が長くなりそうなことから、韓国よりはソフトな取組みになるのかも知れませんが、いずれにせよ大変なことになりそうです。もともと少ない高等教育への公的投資が財政状況と“無償化”との関係でどうなるか分からないこと、私学セクターに長年依存してきた高等教育システムであるという構造的特徴を考慮すると、具体的には一体どうするのだろうと思います。右往左往した挙句、「みんなで少しづつ定員を削り合いましょう」という日本的結論になる可能性も否定できませんが。

「戦略」という観点からすれば、もし、上記のようなことに本当になるとするならば「戦略的(外部)環境の激変」ということになります。「日本政府」という予測困難なファクターによる影響が決定的な重要性を持つことになるので、何とも頭を抱えざるを得ない事態です。もっとも状況をうまく利用したものが最大の利益を得る?教育研究という非営利、長期的な営為の話の筈なのですが。

(菊池 芳明)

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